全てを失った私が、黒竜王の最愛になるまで

湊一桜

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第三章

諸悪の根源

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 茶色い岩が転がる大平原に、大好きな彼が横たわっている。その首元は深く抉られ、血が流れ続けている。私は彼の元へと駆け寄り……その傷口に抱きついた。私の体よりも大きく開いた、その傷口に。

『エマ……ありがとう』

 深い青い瞳がうっすら開かれ、私を見つめる。こんな時なのに、その瞳に見つめられると安心する。大好きだと思う。

「クリフさん……死なないでください」

 愛しい黒竜にしがみつき、必死で祈った。

 (どうか、彼を殺さないでください。
 私から、彼を奪わないでください。

 何もかもを失った私に寄り添ってくれたのは、優しい彼だけだったんです……)



 私の治癒能力をしても、その大きな傷口を癒すのは難しい。だが……白竜が、身を挺して私たちを操られた竜から守ってくれるから……私は彼を癒すことが出来る。

『君は竜王の妻に相応しい』

 襲いかかる竜を薙ぎ払いながら、白竜が言う。

『君みたいな妻を持てて、クリフォード王も幸せだ』

「ありがとうございます!」

 絶対に好きにはなれないと思った白竜王に、私は笑顔で告げていた。

『クリフォード王の最愛よ』

 白竜王は私に背を向けたまま話しかける。

『残念ながら、白竜国ウチの聖女はこの戦場を見て逃げ出してしまった』

 (あぁ、やっぱりね)

 里果を思い出して苦笑いをする。

『今腕輪を無効化出来るのは、君しかいない。
 だが、腕輪を嵌めている竜は、相当数存在する。

 だから頼みがある。……シャーマンを止めて欲しい』

「……え!? 」

『僕がクリフォード王と停戦会議をしている時、クリフォード王から話を聞いた。
 あのシャーマンは、君が昔好きだった人だろう? 』

 話が飛躍しすぎて意味が分からない。それに……停戦会議!?

『コーネリウス。俺はまだ、エマにそれについて話していない。
 話そうと思ったら、お前らが操られて宣戦布告してきたから……』

 彼はそう話し、そして痛みに顔を歪めて呻く。だから私は、さらに傷口にぎゅっと抱きつく。

「クリフさんはじっとしてください!……もう少しですから!! 」



 こうして白竜王に守られ、私は黒竜の傷を癒すことが出来た。ついでに、隣に横たわる黄竜も治療した。ショックで気を失っていただけのニコラはすぐに目を覚まし、プンプンと怒っている。

『もう!許さないんだから!! 』

 そう言い放ち、果敢にも白竜に突進しようとした彼女を、

『ニコラ』

クリフさんは止める。

『白竜国と黒竜国は、同盟を結ぶことに決まっているんだ。
 だから今することは、この無駄な争いを止めることだ』
 
『えっ!? 』

 ニコラは文字通り、目を丸くする。そんなニコラに、クリフさんは告げた。

『俺とコーネリウス、エマはシャーマンに会いに行く。
 その間、頑張って耐えてくれ』

『わっ、分かりました!! 』

 ニコラは返事をし、空へ飛び立つ。そして、激しく戦っている仲間の元へと駆け寄っていった。

『さあ、エマ。この戦いに、決着をつけよう』

 差し出された背中に、抱きついていた。
 小さなニコラもいいけど、この大きくて落ち着いた背中が大好きだ。
 私はその体に手を回し、背中に顔を埋め、幸せに浸っていた。

 彼が大好きだ。
 彼を心から、愛している。




 シャーマンの元へ向かいながら、クリフさんから話を聞いた。

 シャーマニアは白竜国へ呪いの腕輪を密輸し、まず白竜国を支配下に治めた。里果からの贈り物だと、白竜王がなんの疑いもせずに腕輪を嵌めてしまったからだ。

 そして次に狙うのは黒竜国だった。

 だが、シャーマニアのユウキ司祭は、黒竜国を支配下に治めるだけでは気が済まなかったのだ。何としても黒竜王を痛めつけてやりたい。そう思って、白竜王を操って宣戦布告をさせた。

『もとはと言えば、僕が怪しい腕輪を嵌めてしまったのが間違いだった』

 項垂れる白竜王に、クリフさんは言う。

『その気持ちは分からなくもない。
 俺も、エマからスカーフをもらって浮かれていたから。

 それよりも、コーネリウスが不特定多数の妻を取ろうとするから、変なものが紛れ込むのではないか? 』

『それはその通りだ。
 僕もクリフを見習って、信頼できる一人を妻に迎えようかな』
 
 その会話を聞き、思わず笑ってしまった。
 里果を妻に迎え入れた白竜王は可哀想でしかないが、そのおかげで二国はこうして同盟を結ぶことも出来たのだ。

『クリフと最愛を見ていると、僕もそんな恋がしたいなあって思うよ』

 私は、この白竜王を誤解していたのだろう。獣人の慣わしに従って、多夫多妻制を取っていただけだ。だが、彼なりに真剣に妻たちに向かい合っていたのだろう。

 (それでも、私に多夫多妻制は無理だ)

 やはり、そう思ってしまうのであった。

 
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