全てを失った私が、黒竜王の最愛になるまで

湊一桜

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第三章

シャーマニアのユウキ司祭

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 竜たちの争いからすぐ近くの岩山に、彼らはいた。彼らは岩山の頂に胡座をかき、手に大きな数珠を持って祈っていた。

 その中央に、勇輝がいた。

 勇輝は綺麗な白いローブを持ち、近付く私たちを血走った目で睨んでいる。
 そして、大きな数珠を擦り合わせ、何かの呪文を唱えた。その瞬間、操られた竜が私たち目がけて襲いかかってくる。

 咄嗟に白竜が後ろを振り返り、強大な衝撃波を放った。すると、竜は吹っ飛ばされるが、体勢を整えてゾンビのようにまた襲いかかってくる。

『エマ、はやく話を!! 』

 黒竜は私を地面に下ろすと、すぐさま友である白竜の元へと飛び立っていった。



 クリフさんは、勇輝を殺すことも出来ただろう。だが、私の気持ちを尊重して、殺すのを止めてくれたのだ。だから私は、必ず勇輝を止めなければならない。

「勇輝」

 もはや鬼のような形相の彼を、私は思いっきり睨んでいた。そんな私を、血走った目で勇輝が見る。

「勇輝、やめてよ!!
 罪のない白竜国と黒竜国の人々を、傷つけないでよ!! 」

 勇輝は数珠を擦り合わせるのを止め、口元を歪ませる。

「罪のない? ……ふざけるな」


 そこにいるのは、私の知っている勇輝ではなかった。何か恐ろしいものに取り憑かれ、正気を失っているようにすら思える勇輝だった。
 そんな勇輝は、口元だけを動かし、つらつらと恨みの言葉を吐く。

「黒竜王は、俺から絵麻を奪った。
 白竜王は、俺から里果を奪った。
 あいつらは泥棒だ。俺から何でも奪っていく」

 何を言っているのだろう。私は黒竜王に奪われたのではなく、勇輝に捨てられたのに。

「殺す、殺す、殺す!!! 」

 再び数珠を擦り合わせ始めた勇輝につかつかと歩み寄り……その頬を力いっぱい殴っていた。容赦なく、グーパンチで。

 恨みのこもった私の鉄拳は、予想以上に強かったらしい。勇輝は後ろへひっくり返り、呻き声を上げる。
 すると、周りにいた白ローブたちが、一斉に騒ぎ始めたのだ。

「ユウキ様に手を出した!! 」

「ユウキ様に刃向かった!! 」

「そんな女は、死刑だ!! 」

 白ローブに押さえつけられながらも、私は勇輝目がけて叫んでいた。

「ふざけないでよ!!
 もとはといえば、勇輝が浮気するから悪いんでしょう!?
 勇輝のこと、好きだったのに。……大好きだったのに!!! 」

 勇輝の目が、大きく開かれる。そして私は、白ローブに地面に倒され、必死に抵抗してもがいている。手当たり次第に手足を振って、白ローブを殴ったり蹴ったりしている。

「裏切ったのは、勇輝だよ!!
 処女はめんどくさいとか、重いとか、優しくてやったのにとか……

 そう言われても私、勇輝のこと、好きだったのに!! 」

 抵抗する私を、白ローブが殴る。口の中が切れて、血の味がする。それでも、負けない。

「私は奪われたんじゃない。私が、黒竜王様のことを好きになったんだから!!
 恨むなら、黒竜王様じゃなくて、私を恨んでよ!! 」

 勇輝の目から涙がこぼれ落ちた。

「絵麻……」

 彼はそう言って数珠を投げ捨て、顔を覆う。

「ユウキ様!! 」

「ユウキ様、はやく呪文を!! 」

 白ローブは口々に叫び、勇輝の心を乱した私に敵意を向ける。そして、拳やら木の棒やらで、私をボコボコに殴り始めた。
 痛い、痛い、でも……負けない。

 左手に煌めく、クリフさんからもらったブレスレット。その、硬い棘に口を付ける。そして、力いっぱいそれを吹いた。

 棘笛の澄んだ音が、大平原に、森にと響き渡る。

「誰だ、俺の最愛を痛めつける奴は」

 大好きなその声が聞こえる。続いて、眩い黒い閃光が大地を照らした。
 私を攻撃するその手がピタッと止まり、次の瞬間、白ローブたちは四方八方へと吹き飛ばされる。

「クリフさん……」

 見上げると、すぐ近くには私の大好きな彼が立っている。黒い騎士服に、黒い鎧を着けて。
 大好きな彼は片膝をついて、ふわっと私を持ち上げる。すると、胸の中に温かい幸せが舞い込んでくる。

「ありがとうございます、助けてくれて」

 笑顔で告げると、黒竜がするように、嬉しそうに頬を擦り合わせてくる。

「さあ、腕輪を解除して、もう帰りましょう」

「そうだな」

 こつんと額を合わせ、ふふっと笑う。クリフさんの綺麗な顔が間近にあって、それだけで頭がくらっとしてしまう。


 私はクリフさんに抱かれたまま、無様に崩れ落ちている勇輝を見た。そして、心からの笑顔で告げた。

「勇輝。好きだったよ。ありがとう」

 その言葉を聞き、クリフさんが顔を歪めたのも知っている。嫉妬に狂うこの甘い獣が、私は大好きだ。

「でも、クリフさんのほうがもっと大好きです」

 私の言葉に、頬を染めるクリフさん。その頬に、そっと触れる。

「私はもう、クリフさんのことしか考えられません」



 非常事態だから、こんなに素直になれたのだろう。
 明日から「好き」の一言も言えない、いつもの私に戻るのだろう。
 だから今日は、この甘さに甘えさせて。

 私を抱き抱えながら、嫉妬に狂ったクリフさんは唇を重ねる。その甘さに酔いながら、幸せを感じていた。
 
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