34 / 43
第三章
シャーマニアのユウキ司祭
しおりを挟む
竜たちの争いからすぐ近くの岩山に、彼らはいた。彼らは岩山の頂に胡座をかき、手に大きな数珠を持って祈っていた。
その中央に、勇輝がいた。
勇輝は綺麗な白いローブを持ち、近付く私たちを血走った目で睨んでいる。
そして、大きな数珠を擦り合わせ、何かの呪文を唱えた。その瞬間、操られた竜が私たち目がけて襲いかかってくる。
咄嗟に白竜が後ろを振り返り、強大な衝撃波を放った。すると、竜は吹っ飛ばされるが、体勢を整えてゾンビのようにまた襲いかかってくる。
『エマ、はやく話を!! 』
黒竜は私を地面に下ろすと、すぐさま友である白竜の元へと飛び立っていった。
クリフさんは、勇輝を殺すことも出来ただろう。だが、私の気持ちを尊重して、殺すのを止めてくれたのだ。だから私は、必ず勇輝を止めなければならない。
「勇輝」
もはや鬼のような形相の彼を、私は思いっきり睨んでいた。そんな私を、血走った目で勇輝が見る。
「勇輝、やめてよ!!
罪のない白竜国と黒竜国の人々を、傷つけないでよ!! 」
勇輝は数珠を擦り合わせるのを止め、口元を歪ませる。
「罪のない? ……ふざけるな」
そこにいるのは、私の知っている勇輝ではなかった。何か恐ろしいものに取り憑かれ、正気を失っているようにすら思える勇輝だった。
そんな勇輝は、口元だけを動かし、つらつらと恨みの言葉を吐く。
「黒竜王は、俺から絵麻を奪った。
白竜王は、俺から里果を奪った。
あいつらは泥棒だ。俺から何でも奪っていく」
何を言っているのだろう。私は黒竜王に奪われたのではなく、勇輝に捨てられたのに。
「殺す、殺す、殺す!!! 」
再び数珠を擦り合わせ始めた勇輝につかつかと歩み寄り……その頬を力いっぱい殴っていた。容赦なく、グーパンチで。
恨みのこもった私の鉄拳は、予想以上に強かったらしい。勇輝は後ろへひっくり返り、呻き声を上げる。
すると、周りにいた白ローブたちが、一斉に騒ぎ始めたのだ。
「ユウキ様に手を出した!! 」
「ユウキ様に刃向かった!! 」
「そんな女は、死刑だ!! 」
白ローブに押さえつけられながらも、私は勇輝目がけて叫んでいた。
「ふざけないでよ!!
もとはといえば、勇輝が浮気するから悪いんでしょう!?
勇輝のこと、好きだったのに。……大好きだったのに!!! 」
勇輝の目が、大きく開かれる。そして私は、白ローブに地面に倒され、必死に抵抗してもがいている。手当たり次第に手足を振って、白ローブを殴ったり蹴ったりしている。
「裏切ったのは、勇輝だよ!!
処女はめんどくさいとか、重いとか、優しくてやったのにとか……
そう言われても私、勇輝のこと、好きだったのに!! 」
抵抗する私を、白ローブが殴る。口の中が切れて、血の味がする。それでも、負けない。
「私は奪われたんじゃない。私が、黒竜王様のことを好きになったんだから!!
恨むなら、黒竜王様じゃなくて、私を恨んでよ!! 」
勇輝の目から涙がこぼれ落ちた。
「絵麻……」
彼はそう言って数珠を投げ捨て、顔を覆う。
「ユウキ様!! 」
「ユウキ様、はやく呪文を!! 」
白ローブは口々に叫び、勇輝の心を乱した私に敵意を向ける。そして、拳やら木の棒やらで、私をボコボコに殴り始めた。
痛い、痛い、でも……負けない。
左手に煌めく、クリフさんからもらったブレスレット。その、硬い棘に口を付ける。そして、力いっぱいそれを吹いた。
棘笛の澄んだ音が、大平原に、森にと響き渡る。
「誰だ、俺の最愛を痛めつける奴は」
大好きなその声が聞こえる。続いて、眩い黒い閃光が大地を照らした。
私を攻撃するその手がピタッと止まり、次の瞬間、白ローブたちは四方八方へと吹き飛ばされる。
「クリフさん……」
見上げると、すぐ近くには私の大好きな彼が立っている。黒い騎士服に、黒い鎧を着けて。
大好きな彼は片膝をついて、ふわっと私を持ち上げる。すると、胸の中に温かい幸せが舞い込んでくる。
「ありがとうございます、助けてくれて」
笑顔で告げると、黒竜がするように、嬉しそうに頬を擦り合わせてくる。
「さあ、腕輪を解除して、もう帰りましょう」
「そうだな」
こつんと額を合わせ、ふふっと笑う。クリフさんの綺麗な顔が間近にあって、それだけで頭がくらっとしてしまう。
私はクリフさんに抱かれたまま、無様に崩れ落ちている勇輝を見た。そして、心からの笑顔で告げた。
「勇輝。好きだったよ。ありがとう」
その言葉を聞き、クリフさんが顔を歪めたのも知っている。嫉妬に狂うこの甘い獣が、私は大好きだ。
「でも、クリフさんのほうがもっと大好きです」
私の言葉に、頬を染めるクリフさん。その頬に、そっと触れる。
「私はもう、クリフさんのことしか考えられません」
非常事態だから、こんなに素直になれたのだろう。
明日から「好き」の一言も言えない、いつもの私に戻るのだろう。
だから今日は、この甘さに甘えさせて。
私を抱き抱えながら、嫉妬に狂ったクリフさんは唇を重ねる。その甘さに酔いながら、幸せを感じていた。
その中央に、勇輝がいた。
勇輝は綺麗な白いローブを持ち、近付く私たちを血走った目で睨んでいる。
そして、大きな数珠を擦り合わせ、何かの呪文を唱えた。その瞬間、操られた竜が私たち目がけて襲いかかってくる。
咄嗟に白竜が後ろを振り返り、強大な衝撃波を放った。すると、竜は吹っ飛ばされるが、体勢を整えてゾンビのようにまた襲いかかってくる。
『エマ、はやく話を!! 』
黒竜は私を地面に下ろすと、すぐさま友である白竜の元へと飛び立っていった。
クリフさんは、勇輝を殺すことも出来ただろう。だが、私の気持ちを尊重して、殺すのを止めてくれたのだ。だから私は、必ず勇輝を止めなければならない。
「勇輝」
もはや鬼のような形相の彼を、私は思いっきり睨んでいた。そんな私を、血走った目で勇輝が見る。
「勇輝、やめてよ!!
罪のない白竜国と黒竜国の人々を、傷つけないでよ!! 」
勇輝は数珠を擦り合わせるのを止め、口元を歪ませる。
「罪のない? ……ふざけるな」
そこにいるのは、私の知っている勇輝ではなかった。何か恐ろしいものに取り憑かれ、正気を失っているようにすら思える勇輝だった。
そんな勇輝は、口元だけを動かし、つらつらと恨みの言葉を吐く。
「黒竜王は、俺から絵麻を奪った。
白竜王は、俺から里果を奪った。
あいつらは泥棒だ。俺から何でも奪っていく」
何を言っているのだろう。私は黒竜王に奪われたのではなく、勇輝に捨てられたのに。
「殺す、殺す、殺す!!! 」
再び数珠を擦り合わせ始めた勇輝につかつかと歩み寄り……その頬を力いっぱい殴っていた。容赦なく、グーパンチで。
恨みのこもった私の鉄拳は、予想以上に強かったらしい。勇輝は後ろへひっくり返り、呻き声を上げる。
すると、周りにいた白ローブたちが、一斉に騒ぎ始めたのだ。
「ユウキ様に手を出した!! 」
「ユウキ様に刃向かった!! 」
「そんな女は、死刑だ!! 」
白ローブに押さえつけられながらも、私は勇輝目がけて叫んでいた。
「ふざけないでよ!!
もとはといえば、勇輝が浮気するから悪いんでしょう!?
勇輝のこと、好きだったのに。……大好きだったのに!!! 」
勇輝の目が、大きく開かれる。そして私は、白ローブに地面に倒され、必死に抵抗してもがいている。手当たり次第に手足を振って、白ローブを殴ったり蹴ったりしている。
「裏切ったのは、勇輝だよ!!
処女はめんどくさいとか、重いとか、優しくてやったのにとか……
そう言われても私、勇輝のこと、好きだったのに!! 」
抵抗する私を、白ローブが殴る。口の中が切れて、血の味がする。それでも、負けない。
「私は奪われたんじゃない。私が、黒竜王様のことを好きになったんだから!!
恨むなら、黒竜王様じゃなくて、私を恨んでよ!! 」
勇輝の目から涙がこぼれ落ちた。
「絵麻……」
彼はそう言って数珠を投げ捨て、顔を覆う。
「ユウキ様!! 」
「ユウキ様、はやく呪文を!! 」
白ローブは口々に叫び、勇輝の心を乱した私に敵意を向ける。そして、拳やら木の棒やらで、私をボコボコに殴り始めた。
痛い、痛い、でも……負けない。
左手に煌めく、クリフさんからもらったブレスレット。その、硬い棘に口を付ける。そして、力いっぱいそれを吹いた。
棘笛の澄んだ音が、大平原に、森にと響き渡る。
「誰だ、俺の最愛を痛めつける奴は」
大好きなその声が聞こえる。続いて、眩い黒い閃光が大地を照らした。
私を攻撃するその手がピタッと止まり、次の瞬間、白ローブたちは四方八方へと吹き飛ばされる。
「クリフさん……」
見上げると、すぐ近くには私の大好きな彼が立っている。黒い騎士服に、黒い鎧を着けて。
大好きな彼は片膝をついて、ふわっと私を持ち上げる。すると、胸の中に温かい幸せが舞い込んでくる。
「ありがとうございます、助けてくれて」
笑顔で告げると、黒竜がするように、嬉しそうに頬を擦り合わせてくる。
「さあ、腕輪を解除して、もう帰りましょう」
「そうだな」
こつんと額を合わせ、ふふっと笑う。クリフさんの綺麗な顔が間近にあって、それだけで頭がくらっとしてしまう。
私はクリフさんに抱かれたまま、無様に崩れ落ちている勇輝を見た。そして、心からの笑顔で告げた。
「勇輝。好きだったよ。ありがとう」
その言葉を聞き、クリフさんが顔を歪めたのも知っている。嫉妬に狂うこの甘い獣が、私は大好きだ。
「でも、クリフさんのほうがもっと大好きです」
私の言葉に、頬を染めるクリフさん。その頬に、そっと触れる。
「私はもう、クリフさんのことしか考えられません」
非常事態だから、こんなに素直になれたのだろう。
明日から「好き」の一言も言えない、いつもの私に戻るのだろう。
だから今日は、この甘さに甘えさせて。
私を抱き抱えながら、嫉妬に狂ったクリフさんは唇を重ねる。その甘さに酔いながら、幸せを感じていた。
51
あなたにおすすめの小説
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
声を聞かせて
はるきりょう
恋愛
動物の声が聞こえる彼女と冷たい第二王子の物語。完成しました。
「……反対されない、というのは、寂しいことだと思いますの。だから…私が反対してさしあげます」
サーシャは最上級の笑顔を浮かべた。そして、思い切り息を吸い込む。
「何でも思い通りいくと思うなよ、くそ王子!!」
「サ、サーシャ様!?」
なりゆきを見守っていたハリオが慌てたようにサーシャの名を呼んだ。一国の王子への暴言は不敬罪で捕まりかねない。けれど、言わずにはいられなかった。
そんなサーシャの言動にユリウスは一瞬目を丸くし、しかしすぐに楽しそうに笑った。
「お前面白いな。本当に気に入った」
小説家になろうサイト様にも掲載してします。
断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~
古堂 素央
恋愛
【完結】
「なんでわたしを突き落とさないのよ」
学園の廊下で、見知らぬ女生徒に声をかけられた公爵令嬢ハナコ。
階段から転げ落ちたことをきっかけに、ハナコは自分が乙女ゲームの世界に生まれ変わったことを知る。しかもハナコは悪役令嬢のポジションで。
しかしなぜかヒロインそっちのけでぐいぐいハナコに迫ってくる攻略対象の王子。その上、王子は前世でハナコがこっぴどく振った瓶底眼鏡の山田そっくりで。
ギロチンエンドか瓶底眼鏡とゴールインするか。選択を迫られる中、他の攻略対象の好感度まで上がっていって!?
悪役令嬢? 断罪ざまぁ? いいえ、冴えない王子と結ばれるくらいなら、ノシつけてヒロインに押しつけます!
黒ヒロインの陰謀を交わしつつ、無事ハナコは王子の魔の手から逃げ切ることはできるのか!?
学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜
織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。
侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。
学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
【完結】婚約者の真実の愛探しのお手伝い。私たち、愛のキューピッドなんです?
buchi
恋愛
家の都合で決められた婚約者の扱いがひどい。招待状は無視する、学園では目も合わさない。メガネっ子の私になんか、関心がないんだと思っていました。それならいっそ解放して欲しいものです。と、思っていたら、婚約者は真実の愛を求めてパーティ会場で婚約破棄! でも、事情もあったみたい。元婚約者には幸せになって欲しい。私、彼の真実の愛探しを一生懸命お手伝いしました。知り合いのご令嬢も紹介しましたのよ? だのに強硬に再婚約を迫られて大弱り。一度婚約破棄されたら戻すのなんか至難の業。母だって、私のために他の縁談を探してますし、彼の友達だって私に親身になって寄り添ってくれたり。これはそんな私たちの愛と友情(と下心)の物語です! 12万字くらい。58話。単純な恋愛物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる