全てを失った私が、黒竜王の最愛になるまで

湊一桜

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第三章

番になりたい

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 竜王陛下が婚約を発表した。
 相手は、癒しの力を持つ人間、食堂の従業員エマだ。

 その噂は、あっという間に広がった。




「……というわけで、正式に私たち、結婚することになりました」

 私は、食堂で女将さんはじめ従業員に告げていた。いつもの騎士服姿のクリフさんと一緒に、その木でできた椅子に座りながら。

 どんな非難が飛び交うのかと思ったが、

「そうなの!! 」

女将さんは嬉しそうに告げる。

「うちの食堂から王妃様が生まれるだなんて、思ってもいなかったわ!! 」

 そんな女将さんの目には、お金が浮かんでは消えている。

「これでうちの食堂も名物店になって、客がわんさかやってくるわね!! 」

 その女将さんの商売欲には驚きを隠せなかった。

「まぁ、怪しんではいたのよ。エマが竜王陛下と修道院に現れたり。
 はたまた、王城で人々の呪いの腕輪を外す係をしていたり。

 ……ただ事ではないなって」

 女将さんの勘は鋭い。その勘に、舌を巻くばかりだった。


「それにしても、竜王陛下って随分とかっこいいのね」

 女将さんと女性従業員は、目をハートにしてクリフさんの周りをぐるぐる回っている。

「噂しか聞かなかったけど、綺麗な黒髪の超絶美形じゃん!! 」

「エマっ!すっごい男釣り上げたわね!! 」

 国王陛下に向かってこの態度で、私のほうがハラハラしてしまうのだった。
 だが、クリフさんやコーネリウス様が言うように、皆は驚きこそするが、本当に普段通りだった。その態度に安心してしまうのも事実だった。

「それじゃあ、そのブレスレットも竜王陛下からもらったもの……?

 あっ、でも竜王陛下は人間だよね!? 」

 女将さんがブレスレットとクリフさんを交互に見る。それで思い出した。皆が王城勤めをしている竜人族と、市民が関わることは少ない。そのため、街の人々は竜人族が、鱗に覆われた恐ろしい容姿をしていると思っているのだ。

 耐えきれなくなったクリフさんが、とうとう溢した。

「俺は竜人族だ」

「「「えぇぇぇーッ!!? 」」」

「竜人族は、人間と同じ見た目をしている。
 だから、そこにいる彼も、竜人族かもしれないぞ? 」

 クリフさんはにやりと笑い、油で汚れた厨房着を着ている料理人を指差した。

「「え、えぇぇぇえーッ!!? 」」
 
 食堂に叫び声が響き渡っていた。



 街を歩くと、口々におめでとうと言われる。そして、人々は隣にいるクリフさんを見て、決まって頬を染めている。
 こんなにかっこよくて人気者のクリフさんと結婚だなんて信じられないが……クリフさんが私だけを思ってくれる気持ちも、今なら信じることが出来る。

「エマが人気なのも分かる」

 王城に入ると、クリフさんが嬉しそうにぼやいた。

「俺よりも人気だから、嫉妬してしまうくらいだ」

「そっ、そんなことはないでしょう!! 」

 思わず大声を出してしまう。
 クリフさんは鈍感なのか。街の人々は皆、美しいクリフさんを見て頬を染めていた。クリフさんはその美貌ゆえ、今まで外に出なかったのだろう。

 クリフさんは、そっと私に手を回す。温かい気持ちが流れ込み、幸せを感じる。

「聖女が修道院回りを放棄し、代わりにエマが人々を治療したことも、街では噂になっている。
 食堂で元気に働き、客とも仲良しのエマに、惹かれている人も多い。

 ヴェール市民の呪いの腕輪を、エマが全て一人で解除してくれた。

 この国の人々は、エマみたいな身近にいて、それでいて国民に寄り添える王妃を期待していたんだろうな」

 強くて美しいクリフさんの隣にいると、自分が惨めな存在と思えるほどだった。それなのに、クリフさんはこんなにも私のいいところを見つけてくれる。

「俺はエマと結婚出来て、幸せ者だ」

「それは私のせりふです」

 頬を膨らませて言うと、また私の大好きな顔で笑ってくれた。



 晴れた青空の下、城へ続く石畳を歩く。
 眩しい太陽の光が、クリフさんの黒髪をきらきらと照らしている。

「それで……」

 そんななか、クリフさんは言いにくそうに告げた。

「俺はエマを愛している。だから俺は、エマと結婚する。
 ……それは確定だ」

「はい……」

「だが、つがいの契約は、結婚とは違う」

 クリフさんの低くて優しい声が響いた。

「もう分かっているだろうが、つがいとならなくても結婚は出来る。そして、皆が言うように、つがいとなるのは多少面倒だ」

「あー……恥ずかしいポーズを取ったり、証人の前で交わらないといけないって話でしょう? 」

 思わず呟くと、クリフさんは真っ赤な顔で私を見る。それで、それは嘘なのだと確信した。

「コーネリウスが変なことを吹き込むから……」

 真っ赤な顔でぶつぶつと呟きながら、クリフさんはぎゅっと私の手を握った。
 だが、私はクリフさんがそれを望むのなら、それを受けて立とうと思っていた。たとえ交わっているところを誰かに見られたとしても、クリフさんの唯一になれるのなら……そう覚悟していた。

「前にも言ったが、つがいの契約をすると、つがい同士でしか子孫を残せなくなる。
 俺は減りつつある竜人族のためにも、子孫を残さなくてはならない。
 だからエマは、もとの世界に戻れなくなる」

 もとの世界に戻ることは、とっくに諦めている。……諦めているというより、私はこの世界にいたい。クリフさんの隣にいたいと、強く思う。

「それに……エマは、ユウキと身体の関係を持つのを拒んだと言った。
 つがいの契約には、身体の関係は不可欠だ。証人の前で交わることはしないし、恥ずかしいポーズを取るのは俺だが……」

 そう言うクリフさんは、微かに頬を染めている。こんなクリフさんがいじらしく愛しい。

「それでもエマは……つがいとなることを望むか? 」

 その問いに、

「もちろんです!! 」

私は即答していた。

「だって……」

 私は頬を染めてクリフさんを見上げる。そして、口ごもりながら告げた。

「クリフさんが私以外の女性とそういう関係になるのが、一番辛いから」

 もうとっくに決心はついている。
 クリフさんは”体目当て”で私に近付いているわけではないから……私のことを、心から愛しているから……私は、クリフさんのものになりたい。

 彼は甘く優しい瞳で私を見下ろす。そして、絞り出すように告げる。

「愛してるよ、エマ」

 そのまま、唇を重ねていた。

 
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