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34. 「さあ、お嬢様。花祭りに参りましょう」
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公爵邸に着いて馬車を降り、館に入るや否や、マッシュが飛び出してきた。きゃんきゃんくんくんと鳴き、私に飛びついてくる。私は思わず、この愛らしいマッシュを抱き上げていた。すると、マッシュはくんくん言いながら、私の頬を舐め回す。
「可愛いだろ。セシリアなら、喜んでくれると思った」
ルーカスが嬉しそうに告げる。いつもはクソ犬と呼んでいるのに、今日は可愛いだなんて言っている。その様子に笑いを隠せない。
「こいつ、大好きな使用人がいなくなってから、ずっと寂しがっていて。
使用人以外にはそんなに懐かないのに、お前には懐くんだな」
マッシュを抱えながらドキッとした。使用人とは、紛れもなく私のことだ。そしてルーカスは、本当にセリオが私だと気付いていないようだ。ジョエル様が何も言っていないようで、心底ホッとした。
なおもマッシュは喜んで、私の頬を舐め続けた。可愛いマッシュをぎゅっと抱きしめながら、寂しい思いをさせてごめんと心の中で謝る。
ルーカスは、こんな私からマッシュをひょいと取り上げた。マッシュは名残惜しそうに私を見ているものの、ルーカスの腕の中で嬉しそうにしている。なんだかんだで、マッシュもルーカスに懐いているようだ。安心する私の頬を……ルーカスは不意にぺろっと舐めた。
「!!?? 」
私は声のならない声を出し、ルーカスが舐めた箇所を手で押さえる。そして案の定、顔が真っ赤だ。
「な、何するのよ!? 」
慌てて聞いた私に、ルーカスは熱っぽい瞳で告げる。
「こいつばっかりずるい」
「なっ、何それ!マッシュは犬なんだから!! 」
大慌てしながらも、胸のドキドキが止まらない。ルーカスに会ってからずっと、胸が甘く痺れている。私の体、おかしい。
だが、ルーカスはぽかーんと私を見ていた。
「お前……どうしてこいつの名前を……? 」
まずい。私としたことが、ついつい口が滑って。
心臓がドキドキバクバクとうるさい。体が震え、冷や汗が背中を伝う。私がこうも動揺して全身で狂っているのは、紛れもなくルーカスのせいだ。
「お前ってやっぱり……」
息を呑んだ私に、ルーカスは熱っぽい瞳のまま告げたのだ。
「運命の人だったんだな」
その瞬間、ずっこけそうになった。
バレなかったのは幸いだが、ルーカスは天然なのだろうか。それとも、鈍すぎるのだろうか。いずれにせよ、命拾いした。
ホッとしたのも束の間、熱っぽい瞳のルーカスは、マッシュを抱いたままそっと唇を重ねてくる。不意打ちすぎて飛び上がる私を、ルーカスは離さない。馬車の中と同様に、隅々まで舐め尽くされ、唇を離しては「愛してる」と言われ、挙げ句の果てに「抱きたい」と連呼され、頭がおかしくなってしまいそうだ。
長い長いキスの後、ようやく私を離してくれたルーカスは、切なげに呟いた。
「このまま、二人で部屋に篭ってしまいたい。
だが、俺はお前のために花祭りの準備をしてきた。
お楽しみは、祭りの後だ」
「な、なんでそうなるの? 」
必死に抵抗する。抱かれてはいけないと、頭では思う。だが、体は予想以上に素直なようだ。男性経験なんてないのに、体の芯がとろけてしまいそうに熱く、ルーカスを待っている。……ルーカスを欲している。
「セシリア、愛しているよ」
恥ずかしげもなく告げられるその言葉が、素直に嬉しいと思ってしまった。
ルーカスに散々誑かされた私は、ようやく館の小部屋に案内された。何が始まるのだろうと思ったが、あれよあれよと言う間に体を洗われ、青色のドレスに着替えさせられる。髪は編み込まれ、綺麗な花が挿される。そして、鏡を見ると、見知らぬ人が私を見返していて、正直狼狽えた。
使用人のセリオとして働いていた私。公爵邸ではもちろん制服を着用しており、実家では薄汚れたワンピースを着ていた。それなのに、今の私はどこの令嬢かと見間違うほどだ。お父様はドレスが買えないと言っていたのに、こんなにも上等なドレスを準備していただくなんて……身分差をありありと感じる。
そして、扉を開けたルーカスは、
「セシリア、綺麗だ」
低く甘い声で私に告げる。
「俺の瞳の色のドレスだ。……俺の女だということを、分からせてやらないとな」
こんなはずではなかった。だが、不覚にも嬉しいと思ってしまった。そして、また触れてほしいと願ってしまう。
会えば会うほど、ルーカスに惹かれていく。後戻り出来ないほど堕ちていく。私はこんなにもルーカスに夢中になり、どうなるのだろうか。のめり込めばのめり込むほど辛いのは、よく分かっているのに。
「さあ、お嬢様」
ルーカスが跪いて、私に手を差し出す。その様子が、いちいち紳士でかっこいい。ルーカスの本性なんて分かっているのに、このギャップにやられてしまう。
「花祭りに参りましょう」
ルーカスは私の手を取って、大切そうに口付けをする。ルーカスの仕草一つ一つに、胸のときめきが止まらない。そして、瞬く間に堕ちていく。
私だけを女の子扱いしてくれて、私だけに愛していると言ってくれる。私だけに甘い言葉を囁いて、私だけに頬を染める……そんなルーカスに、惹かれないわけがない。
「可愛いだろ。セシリアなら、喜んでくれると思った」
ルーカスが嬉しそうに告げる。いつもはクソ犬と呼んでいるのに、今日は可愛いだなんて言っている。その様子に笑いを隠せない。
「こいつ、大好きな使用人がいなくなってから、ずっと寂しがっていて。
使用人以外にはそんなに懐かないのに、お前には懐くんだな」
マッシュを抱えながらドキッとした。使用人とは、紛れもなく私のことだ。そしてルーカスは、本当にセリオが私だと気付いていないようだ。ジョエル様が何も言っていないようで、心底ホッとした。
なおもマッシュは喜んで、私の頬を舐め続けた。可愛いマッシュをぎゅっと抱きしめながら、寂しい思いをさせてごめんと心の中で謝る。
ルーカスは、こんな私からマッシュをひょいと取り上げた。マッシュは名残惜しそうに私を見ているものの、ルーカスの腕の中で嬉しそうにしている。なんだかんだで、マッシュもルーカスに懐いているようだ。安心する私の頬を……ルーカスは不意にぺろっと舐めた。
「!!?? 」
私は声のならない声を出し、ルーカスが舐めた箇所を手で押さえる。そして案の定、顔が真っ赤だ。
「な、何するのよ!? 」
慌てて聞いた私に、ルーカスは熱っぽい瞳で告げる。
「こいつばっかりずるい」
「なっ、何それ!マッシュは犬なんだから!! 」
大慌てしながらも、胸のドキドキが止まらない。ルーカスに会ってからずっと、胸が甘く痺れている。私の体、おかしい。
だが、ルーカスはぽかーんと私を見ていた。
「お前……どうしてこいつの名前を……? 」
まずい。私としたことが、ついつい口が滑って。
心臓がドキドキバクバクとうるさい。体が震え、冷や汗が背中を伝う。私がこうも動揺して全身で狂っているのは、紛れもなくルーカスのせいだ。
「お前ってやっぱり……」
息を呑んだ私に、ルーカスは熱っぽい瞳のまま告げたのだ。
「運命の人だったんだな」
その瞬間、ずっこけそうになった。
バレなかったのは幸いだが、ルーカスは天然なのだろうか。それとも、鈍すぎるのだろうか。いずれにせよ、命拾いした。
ホッとしたのも束の間、熱っぽい瞳のルーカスは、マッシュを抱いたままそっと唇を重ねてくる。不意打ちすぎて飛び上がる私を、ルーカスは離さない。馬車の中と同様に、隅々まで舐め尽くされ、唇を離しては「愛してる」と言われ、挙げ句の果てに「抱きたい」と連呼され、頭がおかしくなってしまいそうだ。
長い長いキスの後、ようやく私を離してくれたルーカスは、切なげに呟いた。
「このまま、二人で部屋に篭ってしまいたい。
だが、俺はお前のために花祭りの準備をしてきた。
お楽しみは、祭りの後だ」
「な、なんでそうなるの? 」
必死に抵抗する。抱かれてはいけないと、頭では思う。だが、体は予想以上に素直なようだ。男性経験なんてないのに、体の芯がとろけてしまいそうに熱く、ルーカスを待っている。……ルーカスを欲している。
「セシリア、愛しているよ」
恥ずかしげもなく告げられるその言葉が、素直に嬉しいと思ってしまった。
ルーカスに散々誑かされた私は、ようやく館の小部屋に案内された。何が始まるのだろうと思ったが、あれよあれよと言う間に体を洗われ、青色のドレスに着替えさせられる。髪は編み込まれ、綺麗な花が挿される。そして、鏡を見ると、見知らぬ人が私を見返していて、正直狼狽えた。
使用人のセリオとして働いていた私。公爵邸ではもちろん制服を着用しており、実家では薄汚れたワンピースを着ていた。それなのに、今の私はどこの令嬢かと見間違うほどだ。お父様はドレスが買えないと言っていたのに、こんなにも上等なドレスを準備していただくなんて……身分差をありありと感じる。
そして、扉を開けたルーカスは、
「セシリア、綺麗だ」
低く甘い声で私に告げる。
「俺の瞳の色のドレスだ。……俺の女だということを、分からせてやらないとな」
こんなはずではなかった。だが、不覚にも嬉しいと思ってしまった。そして、また触れてほしいと願ってしまう。
会えば会うほど、ルーカスに惹かれていく。後戻り出来ないほど堕ちていく。私はこんなにもルーカスに夢中になり、どうなるのだろうか。のめり込めばのめり込むほど辛いのは、よく分かっているのに。
「さあ、お嬢様」
ルーカスが跪いて、私に手を差し出す。その様子が、いちいち紳士でかっこいい。ルーカスの本性なんて分かっているのに、このギャップにやられてしまう。
「花祭りに参りましょう」
ルーカスは私の手を取って、大切そうに口付けをする。ルーカスの仕草一つ一つに、胸のときめきが止まらない。そして、瞬く間に堕ちていく。
私だけを女の子扱いしてくれて、私だけに愛していると言ってくれる。私だけに甘い言葉を囁いて、私だけに頬を染める……そんなルーカスに、惹かれないわけがない。
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