35 / 47
35. 突然の宣戦布告
しおりを挟む
ルーカスは私の手を取って、花祭りのメイン会場まで連れていってくれた。メイン会場となる花畑は、数日前と同じように満開の花で溢れている。だが、数日前とは違って、多くの人で賑わっていた。満開の花に見惚れる人に、久しぶりに会う友人と話に花を咲かせる人々。皆が笑顔で、明るい表情をしている。ルーカスが主体となって準備した花祭りを、こんなにも多くの人が楽しんでいるなんてすごい、と感激してしまった。
数日前に来ていることを悟られないように、
「わぁ!すごく綺麗な花畑ね」
私はありったけの笑顔で、驚いたように言う。
「そうだろう。セシリアに見てもらいたくて、俺は準備したんだ」
ルーカスは静かに言う。以前の予行練習の時と同じようなルーカスの言葉だが、あの時とは全然違う。ルーカスの声や表情はもっと優しげで、もっと嬉しそうだ。こんなルーカスに、ドキドキが止まらない。だから私は、ルーカスに呑まれないように必死に抵抗する。
「私を呼んだのも、下心があるんじゃないの? 」
ルーカスは、私がルーカスを認めさえすれば、祭りを抜け出して朝から晩まで抱き潰すと言っていた。……冗談じゃない。確かに私はルーカスに惹かれているが、下心ありありなのは困る。結婚だって出来ないのに、関係を持てるはずがない。
ルーカスは少し頬を染めて私を見た。そんな様子がいちいちツボにはまる。そして胸をきゅんと甘く鳴らせる。
そしてルーカスは、静かに告げた。
「下心がないと言ったら、嘘かもしれない。
でも俺は、セシリアの喜ぶ顔が見たいんだ」
……え?
「セシリアが隣で笑ってくれる。それだけで、俺は幸せなんだと思えるんだ」
「……やめてよ」
そんなことを言うのは、やめて欲しい。出まかせだったとしても、ますますルーカスに惹かれてしまうから。そして、その罠にまんまと引っかかってしまいそうだから。冷静に冷静にと言っている今でさえ、胸が暑くて苦しい。まるで、何かの病気みたいだ。
「セシリア……」
低く甘い声で名前を呼ばれる。この声で呼ばれるだけで、体をぞぞーっと甘い痺れが走る。
「愛してるよ、セシリア」
惜しげもなく告げられるその言葉が、心地よいと思ってしまう。そしてルーカスに愛を告げられると、安心してしまう自分がいた。
「今ここで、キスしたい」
「だ、駄目よ。こんなにも人がいっぱいいるの……」
断ったつもりだった。だが、ルーカスは私の返事を聞く間もなく、唇を重ねる。抵抗しようとするも、ルーカスの甘くて優しいキスに、体の力が入らなくなってしまう。立っているのもやっとだ。
無抵抗の私を堪能するように、ルーカスは唇を貪った。アイスクリームでも舐めるように、そっと優しく口の中を舐める。ルーカスの熱い体温を感じ、私の体もアイスクリームのように溶けてしまいそう。
長いキスのあと、そっと唇を離したルーカスは、ぞっとするような甘くて色っぽい声で告げた。
「ごちそうさま」
その妖艶な声は、どこから出てくるのだろう。セリオといたルーカスは、いつも乱暴で荒々しかったから、このギャップにやられてしまう。そして愚かな私は、唇を手で押さえて真っ赤になることしか出来ないのだ。
「本当は、お前を抱きたい。でも、俺が好きなのはセシリアだと、皆に分からせないといけない。
お前は美しくいい女だから、他の男に取られないようにしなければ……」
「誰も、目もくれないわよ」
その前に、ルーカスが笑い者になってしまうのではないか。次期公爵のくせに、平民の、犯罪者の娘に惚れているだなんて。
私は浮かない顔をしていたのだろう。そして、悪いことばかり考えて歩いていたのだろう。いつの間にか、来賓席に到着していることなんて、全然気づかなかった。そして不意に聞こえたルーカスの、
「ジョエル」
その人物を呼ぶ声に飛び上がった。
じょ、ジョエル様!? ルーカスは、一番呼んで欲しくない人を呼ぶだなんて。ジョエル様は、私がセリオだということを知っている。私はどんな顔をして会えばいいのだろうか……
思わず俯いてしまった私を、
「俺の妻になる、セシリア・ロレンソだ」
ルーカスはジョエル様に紹介する。私はどぎまぎして、ジョエル様を見ることすら出来なかった。ただひたすら頬を染めて俯く。
こんな私に、ジョエル様はいつもの明るく穏やかな声で告げる。
「はじめまして、弟のジョエルと申します。
話は聞いております。以後、お見知り置きを」
思わず顔を上げると、ジョエル様の優しげな瞳と視線がぶつかった。それで慌ててまた下を向く。私は拗らせっぱなしなのに、ジョエル様はいつも通り優しくスマートだ。それに、私がセリオだと知っていながらも、完璧な芝居だ。ジョエル様が完璧すぎるから、逆に惨めになる……
俯く私を前に、
「おい、ジョエル。間違ってもセシリアに色目を使うな」
イラついたようにルーカスが言う。今までのルーカスが甘すぎたから、久しぶりに見た平常運転のルーカスにホッとする。
だが、ルーカスは色々間違っている。ジョエル様が私に色目を使うはずなんてないし……そもそも、私はルーカスと結婚しない。結婚出来ない。それなのに、ジョエル様はやはりスマートに答えるのだった。
「嫌ですね、色目なんて使うはずがありません。セシリア様が幸せになれるのなら、僕はそれでいいのです。
ですが……」
ジョエル様は、笑顔のまま続けた。
「兄上がセシリア様を大切に扱えず悲しませるのなら、僕がいただくかもしれませんよ? 」
……え!? ジョエル様、何を言っているの!?
私はジョエル様を凝視している。冗談だと言って欲しい。それなのに、ジョエル様は表情一つ変えず、にこにこ笑ったままだった。
数日前に来ていることを悟られないように、
「わぁ!すごく綺麗な花畑ね」
私はありったけの笑顔で、驚いたように言う。
「そうだろう。セシリアに見てもらいたくて、俺は準備したんだ」
ルーカスは静かに言う。以前の予行練習の時と同じようなルーカスの言葉だが、あの時とは全然違う。ルーカスの声や表情はもっと優しげで、もっと嬉しそうだ。こんなルーカスに、ドキドキが止まらない。だから私は、ルーカスに呑まれないように必死に抵抗する。
「私を呼んだのも、下心があるんじゃないの? 」
ルーカスは、私がルーカスを認めさえすれば、祭りを抜け出して朝から晩まで抱き潰すと言っていた。……冗談じゃない。確かに私はルーカスに惹かれているが、下心ありありなのは困る。結婚だって出来ないのに、関係を持てるはずがない。
ルーカスは少し頬を染めて私を見た。そんな様子がいちいちツボにはまる。そして胸をきゅんと甘く鳴らせる。
そしてルーカスは、静かに告げた。
「下心がないと言ったら、嘘かもしれない。
でも俺は、セシリアの喜ぶ顔が見たいんだ」
……え?
「セシリアが隣で笑ってくれる。それだけで、俺は幸せなんだと思えるんだ」
「……やめてよ」
そんなことを言うのは、やめて欲しい。出まかせだったとしても、ますますルーカスに惹かれてしまうから。そして、その罠にまんまと引っかかってしまいそうだから。冷静に冷静にと言っている今でさえ、胸が暑くて苦しい。まるで、何かの病気みたいだ。
「セシリア……」
低く甘い声で名前を呼ばれる。この声で呼ばれるだけで、体をぞぞーっと甘い痺れが走る。
「愛してるよ、セシリア」
惜しげもなく告げられるその言葉が、心地よいと思ってしまう。そしてルーカスに愛を告げられると、安心してしまう自分がいた。
「今ここで、キスしたい」
「だ、駄目よ。こんなにも人がいっぱいいるの……」
断ったつもりだった。だが、ルーカスは私の返事を聞く間もなく、唇を重ねる。抵抗しようとするも、ルーカスの甘くて優しいキスに、体の力が入らなくなってしまう。立っているのもやっとだ。
無抵抗の私を堪能するように、ルーカスは唇を貪った。アイスクリームでも舐めるように、そっと優しく口の中を舐める。ルーカスの熱い体温を感じ、私の体もアイスクリームのように溶けてしまいそう。
長いキスのあと、そっと唇を離したルーカスは、ぞっとするような甘くて色っぽい声で告げた。
「ごちそうさま」
その妖艶な声は、どこから出てくるのだろう。セリオといたルーカスは、いつも乱暴で荒々しかったから、このギャップにやられてしまう。そして愚かな私は、唇を手で押さえて真っ赤になることしか出来ないのだ。
「本当は、お前を抱きたい。でも、俺が好きなのはセシリアだと、皆に分からせないといけない。
お前は美しくいい女だから、他の男に取られないようにしなければ……」
「誰も、目もくれないわよ」
その前に、ルーカスが笑い者になってしまうのではないか。次期公爵のくせに、平民の、犯罪者の娘に惚れているだなんて。
私は浮かない顔をしていたのだろう。そして、悪いことばかり考えて歩いていたのだろう。いつの間にか、来賓席に到着していることなんて、全然気づかなかった。そして不意に聞こえたルーカスの、
「ジョエル」
その人物を呼ぶ声に飛び上がった。
じょ、ジョエル様!? ルーカスは、一番呼んで欲しくない人を呼ぶだなんて。ジョエル様は、私がセリオだということを知っている。私はどんな顔をして会えばいいのだろうか……
思わず俯いてしまった私を、
「俺の妻になる、セシリア・ロレンソだ」
ルーカスはジョエル様に紹介する。私はどぎまぎして、ジョエル様を見ることすら出来なかった。ただひたすら頬を染めて俯く。
こんな私に、ジョエル様はいつもの明るく穏やかな声で告げる。
「はじめまして、弟のジョエルと申します。
話は聞いております。以後、お見知り置きを」
思わず顔を上げると、ジョエル様の優しげな瞳と視線がぶつかった。それで慌ててまた下を向く。私は拗らせっぱなしなのに、ジョエル様はいつも通り優しくスマートだ。それに、私がセリオだと知っていながらも、完璧な芝居だ。ジョエル様が完璧すぎるから、逆に惨めになる……
俯く私を前に、
「おい、ジョエル。間違ってもセシリアに色目を使うな」
イラついたようにルーカスが言う。今までのルーカスが甘すぎたから、久しぶりに見た平常運転のルーカスにホッとする。
だが、ルーカスは色々間違っている。ジョエル様が私に色目を使うはずなんてないし……そもそも、私はルーカスと結婚しない。結婚出来ない。それなのに、ジョエル様はやはりスマートに答えるのだった。
「嫌ですね、色目なんて使うはずがありません。セシリア様が幸せになれるのなら、僕はそれでいいのです。
ですが……」
ジョエル様は、笑顔のまま続けた。
「兄上がセシリア様を大切に扱えず悲しませるのなら、僕がいただくかもしれませんよ? 」
……え!? ジョエル様、何を言っているの!?
私はジョエル様を凝視している。冗談だと言って欲しい。それなのに、ジョエル様は表情一つ変えず、にこにこ笑ったままだった。
15
あなたにおすすめの小説
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…
甘寧
恋愛
主人公リーゼは、婚約者であるロドルフ殿下に婚約破棄を告げられた。その傍らには、アリアナと言う子爵令嬢が勝ち誇った様にほくそ笑んでいた。
身に覚えのない罪を着せられ断罪され、頭に来たリーゼはロドルフの叔父にあたる騎士団長のウィルフレッドとその場の勢いだけで婚約してしまう。
だが、それはウィルフレッドもその場の勢いだと分かってのこと。すぐにでも婚約は撤回するつもりでいたのに、ウィルフレッドはそれを許してくれなくて…!?
利用した人物は、ドSで自分勝手で最低な団長様だったと後悔するリーゼだったが、傍から見れば過保護で執着心の強い団長様と言う印象。
周りは生暖かい目で二人を応援しているが、どうにも面白くないと思う者もいて…
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
枯れ専モブ令嬢のはずが…どうしてこうなった!
宵森みなと
恋愛
気づけば異世界。しかもモブ美少女な伯爵令嬢に転生していたわたくし。
静かに余生——いえ、学園生活を送る予定でしたのに、魔法暴発事件で隠していた全属性持ちがバレてしまい、なぜか王子に目をつけられ、魔法師団から訓練指導、さらには騎士団長にも出会ってしまうという急展開。
……団長様方、どうしてそんなに推せるお顔をしていらっしゃるのですか?
枯れ専なわたくしの理性がもちません——と思いつつ、学園生活を謳歌しつつ魔法の訓練や騎士団での治療の手助けと
忙しい日々。残念ながらお子様には興味がありませんとヒロイン(自称)の取り巻きへの塩対応に、怒らせると意外に強烈パンチの言葉を話すモブ令嬢(自称)
これは、恋と使命のはざまで悩む“ちんまり美少女令嬢”が、騎士団と王都を巻き込みながら心を育てていく、
――枯れ専ヒロインのほんわか異世界成長ラブファンタジーです。
公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています
六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった!
『推しのバッドエンドを阻止したい』
そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。
推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?!
ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱
◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!
皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*)
(外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる