追放された貧乏令嬢ですが、特技を生かして幸せになります。〜前世のスキル《ピアノ》は冷酷将軍様の心にも響くようです〜

湊一桜

文字の大きさ
18 / 58
第一章

18. こうなったら、ヤケクソです!

しおりを挟む
 ホールの中央に立つ偉そうな男性が話し始めた。

「このたび、王女であるルイーズ殿下がピアノを習われ始めました。指導者は、アンドレ国軍総指揮官の妻である、リア夫人です」

 (えぇッ!? )

 咄嗟の出来事に、心臓が一回止まった。そしてその後、狂ったようにバクバクと音を立て始める。これから何が始まるのだろうか。まさか……

「ルイーズ殿下の弾かれる曲があまりにも美しいため、国王陛下の意向により皆様にも聴いていただくことになりました」

 (ちょっと待ってください。それって、発表会みたいなものですよね?
 私は確かにルイーズ殿下にピアノを教えましたが、まだ人前で披露できるほどの完成度ではありません)

 もし、ルイーズ殿下が失敗してしまったらどうしようかと思った。まさか私が処刑されるとか……身体を震えが走る。
 さらに、男性は信じられないことを口走ったのだ。

「曲は、リア夫人作曲の『エリーゼのために』です」

 (わ、私作曲ではありません!!!
 なんということですか!? )

 食べるのも忘れ、一人であたふたしていた。

 (止めたい。でも、ここで止める勇気はありません!)



 そうこうしている間に、ルイーズ殿下の演奏が始まった。もう私は下を向いて祈るばかりだ。私は、どうなってしまうのだろう……

 だが、ルイーズ殿下は意外にも、大きなミスをすることなく弾き続けた。ピアニストを目指していた私からすれば、改善点はたくさんある演奏だった。だが、音楽後進国のこの国では、それすら気にならないほどの素晴らしい演奏だったようだ。

 ルイーズ殿下が弾き終えた瞬間、割れんばかりの拍手が湧き起こる。

「なんと美しい曲ですこと……」

「ルイーズ殿下も素晴らしいですが、あんな曲を作ったリア様は天才でしょう……」

 (いや、私が作ったわけではないのです!)

 だが、今まで誰一人として信じてくれなかったのだ。ここで否定する勇気も出ず、私は真っ赤になって俯いた。



 だが、これで終わりではなかったのだ。
 偉そうな男性は、急に私に無茶振りをしてきたのだ。

「噂によると、リア夫人のピアノの腕も相当のものらしいです。
 もしよろしければ、一曲お手前を見せていただけないでしょうか」

 (えっ!? 冗談じゃないですわ!)

 私は周りをきょろきょろ見回すが、皆が私を見つめていた。そして、笑顔で拍手をしている。盛大な拍手が鳴り響くなか、私はがたんと立ち上がった。

 (もう、こうなったらヤケクソです!! )

 断れるはずもない私は、深呼吸してピアノに歩み寄る。そして、深々と一礼をしてから、ピアノの椅子に腰掛けた。

 (さあ、前世では出来なかった大ステージを、ここで繰り広げてあげましょう!! )



◆◆◆◆◆

《アンドレside》


 (何を無茶振りさせているんだろう……)

 俺は椅子に座りながら、ピアノを弾いている妻を見た。彼女はあからさまに引きつった顔で頭を下げたが……だが、今はピアノの世界に入り込んでいる。そして彼女の弾くピアノ曲を聴きながら、前世のことを思い出していた。


 香織はこの曲をよく弾いていた。『ラ・カンパネラ』という曲だ。香織がこの曲を弾いているところを見ると、指が残像みたいに無数に見え、魔術師ではないかと思った。香織にそのことを告げると、頬を膨らませて拗ねた顔をする。そんな香織も愛しかった。

 俺は香織が音大を卒業する頃に出会い、てっきり彼女はピアニストになるのかと思っていた。だが、この曲を弾きこなす香織でさえ、ピアニストになれなかったのだ。俺は何度も彼女に舞台に立たせてあげたいと思ったが、どうすることも出来なかった。

 香織は夢を諦めてて生きていた。夢を諦め、俺に「結婚しない」などと言われた香織が自暴自棄になったのはよく分かる。それほど、香織は一人で抱え込んで生きていたのだ。

 俺がもっと香織のことを分かってやれば……香織に寄り添ってやれば……香織は死ぬ道を選ばなかったかもしれない。

 ……俺のせいだ。


 妻はこの曲を弾き、少しはにかんだように頭を下げる。頭を上げた妻はなんだか恥ずかしそうで、俺は彼女に香織を重ねてしまった。

 そして、自分でも訳が分からないが、

「香織!!」

愛する元恋人の名前を叫び、彼女に駆け寄っていた……ーー
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妹に全て奪われて死んだ私、二度目の人生では王位も恋も譲りません

タマ マコト
ファンタジー
第一王女セレスティアは、 妹に婚約者も王位継承権も奪われた祝宴の夜、 誰にも気づかれないまま毒殺された。 ――はずだった。 目を覚ますと、 すべてを失う直前の過去に戻っていた。 裏切りの順番も、嘘の言葉も、 自分がどう死ぬかさえ覚えたまま。 もう、譲らない。 「いい姉」も、「都合のいい王女」もやめる。 二度目の人生、 セレスティアは王位も恋も 自分の意思で掴み取ることを決める。

婚約破棄された氷の令嬢 ~偽りの聖女を暴き、炎の公爵エクウスに溺愛される~

ふわふわ
恋愛
侯爵令嬢アイシス・ヴァレンティンは、王太子レグナムの婚約者として厳しい妃教育に耐えてきた。しかし、王宮パーティーで突然婚約破棄を宣告される。理由は、レグナムの幼馴染で「聖女」と称されるエマが「アイシスにいじめられた」という濡れ衣。実際はすべてエマの策略だった。 絶望の底で、アイシスは前世の記憶を思い出す――この世界は乙女ゲームで、自分は「悪役令嬢」として破滅する運命だった。覚醒した氷魔法の力と前世知識を武器に、辺境のフロスト領へ追放されたアイシスは、自立の道を選ぶ。そこで出会ったのは、冷徹で「炎の公爵」と恐れられるエクウス・ドラゴン。彼はアイシスの魔法に興味を持ち、政略結婚を提案するが、実は一目惚れで彼女を溺愛し始める。 アイシスは氷魔法で領地を繁栄させ、騎士ルークスと魔導師セナの忠誠を得ながら、逆ハーレム的な甘い日常を過ごす。一方、王都ではエマの偽聖女の力が暴かれ、レグナムは後悔の涙を流す。最終決戦で、アイシスとエクウスの「氷炎魔法」が王国軍を撃破。偽りの聖女は転落し、王国は変わる。 **氷の令嬢は、炎の公爵に溺愛され、運命を逆転させる**。 婚約破棄の屈辱から始まる、爽快ザマアと胸キュン溺愛の物語。

婚約破棄された公爵令嬢エルカミーノの、神級魔法覚醒と溺愛逆ハーレム生活

ふわふわ
恋愛
公爵令嬢エルカミーノ・ヴァレンティーナは、王太子フィオリーノとの婚約を心から大切にし、完璧な王太子妃候補として日々を過ごしていた。 しかし、学園卒業パーティーの夜、突然の公開婚約破棄。 「転入生の聖女リヴォルタこそが真実の愛だ。お前は冷たい悪役令嬢だ」との言葉とともに、周囲の貴族たちも一斉に彼女を嘲笑う。 傷心と絶望の淵で、エルカミーノは自身の体内に眠っていた「神級の古代魔法」が覚醒するのを悟る。 封印されていた万能の力――治癒、攻撃、予知、魅了耐性すべてが神の領域に達するチート能力が、ついに解放された。 さらに、婚約破棄の余波で明らかになる衝撃の事実。 リヴォルタの「聖女の力」は偽物だった。 エルカミーノの領地は異常な豊作を迎え、王国の経済を支えるまでに。 フィオリーノとリヴォルタは、次々と失脚の淵へ追い込まれていく――。 一方、覚醒したエルカミーノの周りには、運命の攻略対象たちが次々と集結する。 - 幼馴染の冷徹騎士団長キャブオール(ヤンデレ溺愛) - 金髪強引隣国王子クーガ(ワイルド溺愛) - 黒髪ミステリアス魔導士グランタ(知性溺愛) - もふもふ獣人族王子コバルト(忠犬溺愛) 最初は「静かにスローライフを」と願っていたエルカミーノだったが、四人の熱烈な愛と守護に囲まれ、いつしか彼女自身も彼らを深く愛するようになる。 経済的・社会的・魔法的な「ざまぁ」を経て、 エルカミーノは新女王として即位。 異世界ルールで認められた複数婚姻により、四人と結ばれ、 愛に満ちた子宝にも恵まれる。 婚約破棄された悪役令嬢が、最強チート能力と四人の溺愛夫たちを得て、 王国を繁栄させながら永遠の幸せを手に入れる―― 爽快ざまぁ&極甘逆ハーレム・ファンタジー、完結!

異世界転生公爵令嬢は、オタク知識で世界を救う。

ふわふわ
恋愛
過労死したオタク女子SE・桜井美咲は、アストラル王国の公爵令嬢エリアナとして転生。 前世知識フル装備でEDTA(重金属解毒)、ペニシリン、輸血、輪作・土壌改良、下水道整備、時計や文字の改良まで――「ラノベで読んだ」「ゲームで見た」を現実にして、疫病と貧困にあえぐ世界を丸ごとアップデートしていく。 婚約破棄→ザマァから始まり、医学革命・農業革命・衛生革命で「狂気のお嬢様」呼ばわりから一転“聖女様”に。 国家間の緊張が高まる中、平和のために隣国アリディアの第一王子レオナルド(5歳→6歳)と政略婚約→結婚へ。 無邪気で健気な“甘えん坊王子”に日々萌え悶えつつも、彼の未来の王としての成長を支え合う「清らかで温かい夫婦日常」と「社会を良くする小さな革命」を描く、爽快×癒しの異世界恋愛ザマァ物語。

『龍の生け贄婚』令嬢、夫に溺愛されながら、自分を捨てた家族にざまぁします

卯月八花
恋愛
公爵令嬢ルディーナは、親戚に家を乗っ取られ虐げられていた。 ある日、妹に魔物を統べる龍の皇帝グラルシオから結婚が申し込まれる。 泣いて嫌がる妹の身代わりとして、ルディーナはグラルシオに嫁ぐことになるが――。 「だからお前なのだ、ルディーナ。俺はお前が欲しかった」 グラルシオは実はルディーナの曾祖父が書いたミステリー小説の熱狂的なファンであり、直系の子孫でありながら虐げられる彼女を救い出すために、結婚という名目で呼び寄せたのだ。 敬愛する作家のひ孫に眼を輝かせるグラルシオ。 二人は、強欲な親戚に奪われたフォーコン公爵家を取り戻すため、奇妙な共犯関係を結んで反撃を開始する。 これは不遇な令嬢が最強の龍皇帝に溺愛され、捨てた家族に復讐を果たす大逆転サクセスストーリーです。 (ハッピーエンド確約/ざまぁ要素あり/他サイト様にも掲載中) もし面白いと思っていただけましたら、お気に入り登録・いいねなどしていただけましたら、作者の大変なモチベーション向上になりますので、ぜひお願いします!

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

聖女じゃない私の奇跡

あんど もあ
ファンタジー
田舎の農家に生まれた平民のクレアは、少しだけ聖魔法が使える。あくまでもほんの少し。 だが、その魔法で蝗害を防いだ事から「聖女ではないか」と王都から調査が来ることに。 「私は聖女じゃありません!」と言っても聞いてもらえず…。

政略結婚した旦那様に「貴女を愛することはない」と言われたけど、猫がいるから全然平気

ハルイロ
恋愛
皇帝陛下の命令で、唐突に決まった私の結婚。しかし、それは、幸せとは程遠いものだった。 夫には顧みられず、使用人からも邪険に扱われた私は、与えられた粗末な家に引きこもって泣き暮らしていた。そんな時、出会ったのは、1匹の猫。その猫との出会いが私の運命を変えた。 猫達とより良い暮らしを送るために、夫なんて邪魔なだけ。それに気付いた私は、さっさと婚家を脱出。それから数年、私は、猫と好きなことをして幸せに過ごしていた。 それなのに、なぜか態度を急変させた夫が、私にグイグイ迫ってきた。 「イヤイヤ、私には猫がいればいいので、旦那様は今まで通り不要なんです!」 勘違いで妻を遠ざけていた夫と猫をこよなく愛する妻のちょっとずれた愛溢れるお話

処理中です...