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第2章 地球活動編
第32話 裁きの塔の攻略の開始
しおりを挟む結論から言おう。15分後、入口でチェックしている名簿上の全冒険者は近衛師団のメンバーに全員無事救助された。
流石の僕らでも15分間で難易度が桁はずれに高くなった《裁きの塔》の1階から30階層までの全冒険者を保護するのは不可能だ。
要するに2階層以上の全冒険者達は1階層の上層への階段付近にあるセーフティエリアに一斉転移されていたのだ。
彼らは何年もの間、第一線で強力な魔物と命のやり取りをしてきたベテラン冒険者達。生き残るために最も必要な能力である危機感知能力に優れている。
周囲に出没する高レベルの魔物は自分たちでは対応できないと判断すると救助が来るまで横になって体を休めていた。何とも図太い人達だ。
結局、この騒ぎにより冒険者組合から《裁きの塔》の立ち入り禁止令が発令される。
冒険者とは命のやり取りをする職業だ。だからダンジョンに生息する魔物のレベルが上がったくらいで立ち入り禁止令など発令はされない。
立ち入りが禁止された理由は僕が塔に入ってからほどなく石板が粉々の粒子まで分解されて消失してしまったからだ。《裁きの塔》からは未だ嘗て塔内の魔物が塔外へ出現したことはない。これは塔を作った神アルスの加護によると考えられていたわけだ。
本事件におけるアルス神が造った石板が消失。この現象を冒険者組合は《裁きの塔》による神の加護も消失した可能性を考慮して厳重警戒態勢を敷いたのだ。
冒険者組合はグラムにいる上位ギルドの精鋭達に《裁きの塔》の入り口付近を包囲、警戒に当たるよう指示してきた。勿論、《終焉の迷宮》の完全攻略で冒険者ランクがSSSランクとなった僕、ステラ、アリスも要請され仕方なくこの不毛な任務につくことになったわけだ。
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待機中、アリスは初めての冒険者としての大役のせいかやけにハイテンションであり、女性の冒険者達と終始話し込んでいた。
ステラも機嫌がすこぶるよく、およそ一晩中、僕と話し込んでいたと思う。ステラとこうしてほぼ徹夜で話し込んだのは初めての経験であり、修学旅行のようで妙に心が踊った。
ちなみにアリスはまだ子供ということで、テントで眠るよう指示したわけだが、友達となった比較的年齢が近い女人族の女冒険者と遅くまで話し込み、聞いちゃいなかった。
結局、《裁きの塔》の立ち入り禁止令が解除されたのは翌日の正午。解除された理由は、思金神と冒険者組合との交渉がようやく妥結に至ったためである。
合意内容は以下の通りだ。
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《裁きの塔》警備契約
◎冒険者組合と《妖精の森》は《裁きの塔》警備契約を結ぶ。
■1:《妖精の森》は《裁きの塔》周辺を警備し、外に出た魔物を殲滅する。
■2:《妖精の森》は《裁きの塔》周辺に高さ10メートルの防壁を形成し、冒険者組合はその防壁内への《妖精の森》のギルドメンバー以外の一切の侵入の禁止を発令する。
■3:冒険者組合は《裁きの塔》警護の対価として組合が所持するグラム城壁南方の草原一体を《妖精の森》に譲渡する。
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十メートルの防壁など《妖精の森》の技術力があればすぐにでも完成できるし、何より《裁きの塔》への《妖精の森》のギルドメンバー以外の侵入を防止できる。
僕らが今この異世界アリウスで欲しているのは金ではなく土地だ。この点、グラム城壁南方の草原はかなり広大な土地だ。具体的に言えば、グラムクラスの都市ができそうな広さである。
冒険者組合としても元々、《裁きの塔》周辺は魔物による襲撃の危険性があるため、住むのを組合が認めた例外的場合を除き原則禁止していた土地だ。使い物にならなった土地が対価にすぎず、負担などないに等しい。
こうして《裁きの塔》は僕ら《妖精の森》が今後管理することに相成った。
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2082年9月5日(土曜日) 14時00
冒険者達が一斉に退去し、最後のステラとアリスが地球の屋敷に転移するのを確認して僕も《裁きの塔》での探索を再開する。
2階への階段を上がると青一色という風景こそ変化はなかったが、魔物の平均レベルは明らかに跳ね上がった。
レベル99の《死の百足》、レベル105の《怨嗟》。他にも伝説級の魔物がまるでゴキブリのように湧いて出て僕に襲いかかって来た。
そこで《終焉の迷宮》と同様、マッピングしつつも魔物を倒し上層を目指す。
1階層、2階層共に《終焉の迷宮》で散々悩まされていたトラップ等がなく、純粋に戦闘に没頭できた。
ただ設置されていた宝物等が一つも存在しなかったことを鑑みると、《裁きの塔》の最下層はレベルアップのため造られた階層なのかもしれない。
ここまでアルスがお膳立てするのは勿論、優しさなどでは断じてない。
既に判明しているだが、この《裁きの塔》内での転移は一階ごとに置かれているセーフティエリア以外不可能であるようなのだ。
つまり魔物やトラップで瀕死の重傷を負っても僕には地上に帰還する術がない事を意味する。
アルスにとって僕はゲーム上の絶好のキャラクター。そう簡単に死んでしまってはつまらない。だからレベルを上げる手段を僕に提供する。そんなところだろう。
兎も角、この《裁きの塔》は危険すぎる。僕以外一切立ち入り禁止にすべきだ。少なくともこの転移無効化の効果が切れるまでは――。
こうして僕は命懸けの修練に没頭していく。
僕の予想通り、1階層上がるごとに魔物の強さは桁はずれに強くなっていった。
3階層の魔物の平均レベル150。
4階層の魔物の平均レベル200。
5階層の魔物の平均レベル250。
6階層の魔物の平均レベル300。
《終焉の迷宮》も10階層ごとに試練が与えられていた。ならば試練のある10階層までは魔物の強さが跳ね上がる傾向が続くと思われる。
僕のレベル上げにおける魔物の適正レベルは僕のスキルや魔術を鑑みれば450。当面は9階層まで行きそこでレベルを上げるのが吉だ。
2082年9月5日(土曜日) 22時10分
《裁きの塔》到達階数――第6階層
第1試練における試練討伐魔物
〇死の百足(LV99)――99匹
〇怨嗟(LV105)――87匹
〇口裂け女(LV150)――61匹
〇肉食空魚(LV200)――90匹
〇魔道猿人(LV250)――74匹
〇餓鬼王(LV297)――80匹
〇猛毒邪竜(LV300)――20体
・楠恭弥――レベル338
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