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第2章 地球活動編
第56話 拉致
しおりを挟む2082年9月6日(日曜日)午後8時25分 新宿2丁目の公園のベンチ。
渋谷から原宿をつなぐ遊歩道をお洒落なファッションショップを眺めつつもぶらぶら歩く。
気の向くままに晩夏の東京を満喫した結果、午後8時を過ぎるころには新宿まで辿り着き、付近のファミリーレストランで軽い夕食を取る。現在、ファミリーレストランの近くにある公園のベンチでまったりと休憩中。
約一年ぶりにもなる親友との触れ合いはこの頃常にあったジメジメした陰鬱し気持ちを綺麗さっぱり吹き飛ばしてくれた。
魂が洗われるような実に愉快な一日だった。名残惜しいが何事にも終わりというものは存在する。
そろそろ、御堂組の幹部達の耳にも茜が帰国したことが知られているはず。
父――御堂泰三の旧友である米国のホームステイした家族に茜の気持ちを打ち明けると快く一連の計画に賛同してくれた。今や彼らは茜の味方だ。だから茜の帰国の事実につき父に知らせないでくれることになっている。
だが御堂泰三は二日に一度、茜がホームステイした米国の家族に電話をしている。彼らは嘘をつけるような人達ではない。今頃は帰国の事実につきその耳に入っているはずだ。
直ぐにでも千葉の祖父母の実家へ向かわなければならない。
「さてと……」
茜がベンチから腰を上げると、鏡も立ち上がる。
「茜、またね。
遊びに行くぞ」
「ええ、いつでも」
そうだ。茜が住む場所は日本。しかも、千葉は東京からさほど遠くない。今後は頻繁に会える。分かれを惜しむ必要はないのだ。今度こそゆっくり数日かけて語りあかすとしよう。
鏡に右手を軽く上げ、公園の出口へ歩を進める。
公園の出口前に設置されている照明灯がその場に佇む黒のスーツに黒髪、黒のバックを肩に掛けている女性を映し出していた。
その女性が視界に入った途端、雷に打たれたような震えが全身に荒い脈拍を伝える。
多分、それは生物的な本能。
即ち、絶対強者による捕食の視線。
「見つけたわよぉ~。家畜ちゃん」
その女性の言葉を最後に茜の意識は深い霧の中に溶けていく。
「茜ぇ!!」
背後から鏡の悲鳴染みたい声が聞こえた気がした。
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お読みいただきありがとうございます。
時系列は読み手に混乱が生じないための一つの目安とお考えください。(私もその方がわかりやすいわけでして)
応援ありがとうございます!
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