それでは明るくさようなら

金糸雀

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帰宅しました。

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約束通り1晩泊めていただいた翌日。
帰りました。ボクの家、浮気現場にね!!

ドアの前まで辿り着き、鍵を片手にボクは一つ、大きく深呼吸。

そう。ここは浮気現場。
開けたドアの向こう。玄関にはまだ靴があるかもしれない。
リビングに。或いは寝室に。
うっかりとまだ、見知らぬ男がいるかもしれない。
雪と見知らぬ男とがいまだアレの最中。なんてことだって、あるかもしれない!

ボクの心臓が、どきどきどきどき早鐘を打つ。
鍵を持たない方の手で、ぎゅうっと握った拳を胸に当てる。
血湧き肉躍る。
ボクはドアをまっすぐ見据え。もう一度、深呼吸。
(あぁ!緊張する。ちょっといきなり修羅場かも?!)






昨日と、その前までと全く変わらずいつもとおんなじ様に、ボクはただいまーと明るく声をかけながらドアを開けた。
すると。

葉海はる!」
どたどたどた!
ものすごい音をを立てながら、昨日と違って雪が。
ついでにボクの名前を呼びながら玄関まで駆け寄ってきた。


やだ!大きな音とか!
まるで!昨日の揺れまくってたベッドの音みたい!ですね!!


途端に脳内に再現される、昨日のあの浮気場面。
薄暗い部屋、鼻を掠める独特の臭い。聞きたかない知らん男のよがり声、荒い息遣い。ベッドの煩い軋む音。
全く。雪はなんでも音立てすぎです。
ガタガタガタガタ、煩すぎ。
ボク、1周まわって照れちゃいそう!


「は、葉海!」
ボクの前まで素早く駆けてきた雪が、またボクの名前を呼んだ。
すぐ目の前にボクいるのになんでだか声がデカすぎ。呼ぶというより叫ぶ感じ?
「なぁに?」
煩いなぁって、思わず寄りそうだった眉根にぐぐいと力こめて耐えたボク。
あざとーい感じに小首を傾げ、雪の目を真っ直ぐ、見た。
そこで初めて気づく。
雪、なんだか小汚い?


「昨日、どこにいたんだよ?!」


目とか、赤いし。
髭とか伸びてるし。
隈できてるし。


「昨日?」
ボクは首を傾げながら、頭の中で疑問符を飛ばす。
(なんか雪、くすんでない?いつもの浮気常習!キラキラオーラはどうした。どこかに落としたの?)
大事な髪型だってボサボサだ。
お風呂、はいってないのかなぁ?いやそんなことないか。
やってたんだし。


「電話でねーし!何回かけたと思ってんだよ!」
雪が叫ぶ。


電話。


ふんふん、そういえばかかってきてましたね。
傾げてた首を戻す。
サークルの業務連絡しなきゃで入れた電源。
宮君と美味しくご飯食べてる時からやたらとブーブー鳴ってた。
宮君も、
『先輩鳴ってますけど。また鳴ってますけど。』
って、何度も教えてくれたけど。
『えぇー?鳴ってる?そう?そうかもー!』
宮君が次から次へと作ってくれたお酒がとにかく美味しくて!
正直言って電話どころじゃなかったんだよねぇ。
しばらくブーブー煩かったけど!そのうち静かになったからすっかり忘れてた。
(宮君のお酒、本当にどれも美味しかったなぁ。)
味を思い出して思わずにこにこ。
あぁまた、飲みたい。




「葉海!笑ってないで答えろよ!」
雪がまた叫びながら、ボクの腕を掴んだ。
そんでそのまま揺さぶられる。
「葉海!」
眉根にギュッと皺が寄って、雪の声には怒りが乗って。
ボクの腕を掴む手は、そりゃあ強くて。
痛いんだけど。
しかも片腕掴まれてのゆさゆさはすこぶる気持ち悪いんですけど!!

 




「雪」

名前を呼べば、ピタリと動きが止まって。
「…葉海?」
さっきまでと打って変わっておずおずと、雪はボクの名前を呼んだ。
ボクは、ボクの腕を掴む雪の手に、そっと反対の手を重ねると、
「心配かけてごめんね、ありがとう。」
殊更優しく!美しく!
穏やかさを心掛けた笑みで、お礼を伝えた。




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