これこそが、ボクの人生史上最高の

金糸雀

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だいぶ昔の話

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「おはよー!アオ!」



どこまでも透き通る、鮮やかな青空みたいな明るい声と一緒に、ドサっと重いものが背中にのしかかってきた。
その重さときたら!しかもすかさず絡まってきた腕の強さに一瞬息がつまる。
遅れて秒後。
「ぐえっ…」
ボクの口から小さくはない声が漏れた。
(重っ!重たいぃ!)
「今日ねー電車乗ってたらね、すっごい可愛い雲が見えて、思わず叫んじゃったよー」
すごいの。形、ちょー可愛いの。
ボクのそんな声など、重さの主はお構いなし。話すうちに興に乗っちゃったのか更に腕に力はこもり、ぎゅうーっとボクの、『アオのパーツってどこもかしこもちいちゃいよね。可愛い。』などと常日頃言われ続ける身体(まぁうん。おっきくはないわな?キミに比べたらそりゃちいちゃいよ。パーツ?なんの?身体だろ!ちいちゃいのは身体!!身体だろー!!)を、抱きしめてくる。
「可愛くてー美味しそうでー。なんかこーお腹空いちゃうような?」
ぐえぇっ。重さの元凶は更に更に抱きしめてくるし、容赦なく背中にのし掛かるもんだから、ボクの身体はグググと前屈。
「バカっ…ちょ、重っ!カ、カナっ、重っ!」
ばしばしばしっ。出来る限りの強さでもって、自分を締め付けてくる2本の腕を叩く。しかし相手に気づく気配はない。まるでない。
いつだってマイペース。のんびりのほほん。え?まじで人の話聞いてる??な、重さの主であるカナは、羨ましいほどふわふわで柔らかな髪をすりすり。ボクの頭やら顔やら頸やらに擦り付けては、ふにゃふにゃ呑気に言葉を紡ぐ。全くもって退く気配なし。

「あー思い出したらお腹すいてきたぁー。ちょっと寝坊しちゃって朝ごはん食べ損ねたよー。アオーお腹すいたぁー。なんかちょーだいっ。できたら甘いやつー。」
「ないっ。持ってないし、ちょっ…!」
「あー、いい匂いするぅ」
どころか。
カナのとはまるっきり正反対な、ボクの黒くてさらさら髪の毛に鼻を突っ込みすんすん匂いを嗅ぎ出す始末。
「ぎゃっ!!」
ボクの腕がぴゃっと跳ねて。
その反応に、カナの足がちょっと後ろに滑ったものだから。
「ひゃぁっ」
それまでも乗っかってた身長180越えのカナの体重は、自称170弱のボクの身体に思い切りずどんと乗っかったぁ!!!
「お、重いぃ…」
悲痛な悲鳴とともに。
背中のカナごととうとうボクは、地面にぐしゃりと潰れてしまった。




ボクとカナの出会いは高校の入学式。
式の始まる前の教室で、ボクは自分の席に知らない人がなんでだか座っていてちょっと困っていた。ただでさえ誰も知り合いのいない教室、なんとなく心細いボクと正反対に、その知らない人は後ろの席の人と楽しげにおしゃべりに夢中でボクにはちっとも気付かない。
困った。
然程人見知りというわけではないボクでも、流石にいきなり、『そこボクの席だからどいてくれる?』などと話しかける勇気は無かった。
だって、知り合いがいなかったんだもの。この学校で一人ぼっち。学校に来るまでで既に心臓バクバクしてて、トイレですーはー沢山深呼吸繰り返したのちの、えいやと教室に足を踏み込んでからほんのちょっと。
楽しげな知らない人に、話しかける勇気はまだ無くて。
けど困った。
このままじゃ座れない。
もう一度トイレ行く?でもそしたらまた気合い溜めて教室に踏み込まなきゃいけない、それはちょっと…しんどいかも。
どうしたものかと。机の脇につったって、パチパチ目を瞬いていたら、前の席に座っていたフワッフワっの頭が、ふいに動いたのが視界に映った。
明るい茶色いの、フワッフワ。
思わず視線が向いた先で、ゆっくり。頭と髪が揺れて、振り返り。

『そこ、君の席なの?』

人懐っこそうににぱっと笑って、ふわふわ頭はそう言ったのだ。




たまたま前後の席で、たまたまふわふわ頭のカナが振り返った先につったってたボクがいた。たまたま2人とも同中の子がいなくて。そのまま式が始まるまで、終わった後も、下校時門を出て、電車のホームでバイバイするまで。始終カナはにこにこ笑ってボクに話しかけ続け。翌日ホームでおはようの挨拶をやっぱりにこにこしながらボクにしてきて。それから一緒に登校して。
そんな出会い方からずっと、ボクらはずうっと一緒にいる。



「あー、美味しいー!」

ボクを潰したカナはあの後。
『ごめんアオ!死なないでー!!』本気?な涙を振り撒きながら地面に突っ伏したボクを慌てて抱き起こし。挙句。なんと小脇に抱え上げようとして!!重しのなくなった身軽なボクに容赦ない足蹴りを喰らわされた。
思いっきり脛に入ったそれに、今度はカナが『ぐえっ』と呻いてしゃがみ込んで数分。
『空腹に、せめて飲み物ー!!』突如飛び起き、叫びながら門を勢いよく通過。1番近くにある校内の自販機に飛びつき迷わず甘そうないちごミルクを購入。それをごくごくっと男らしく一気飲み干しそうしてもろもろようやく落ち着いたカナと、のんびり追いついたボクは、今に至る。

「キミほんと。甘いの好きだよねぇ」
飲み物は基本無糖派なボク。自販機に飾られた見本は、それはそれは甘ったるそうないちごミルクだった…いや、そうなじゃない。絶対甘い。歯が痛くなりそうな甘さの色をしてる。そんな甘そうなやつを一気飲み。甘党すごい。真似しない。
少々呆れたように隣に座ったカナを見やる。長身のカナも座ればそうたいしたことはなくって、並んで座ったボクよりちょい高いくらい。多分。いつもより、ちょっとだけ上を向くくらいで済むから多分そう。

カナはボクの隣に座る時、大抵背中をちょっと丸めるから。カナの、黒より少し、光の加減で藍色に見える綺麗な両目がいつもよりずっと近くに来る。ソレがボクは、なんでだかちょっと嬉しかったりする。
でも今その目は上向いてて。
右手で持った逆さまのペットボトルからピンクないちごミルクが落ちてくるのを受け取ろうとあーんと口を開け、最後の一滴まで余すことなく飲まんと、空のペットボトルを上下に振ってる。
でも残念!もう無いよ、一滴も。
「んーんー。」
上向いたまま、しばらくそうやって粘ったあとで。
「大好き」
いつもの顔で、カナは笑った。
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