これこそが、ボクの人生史上最高の

金糸雀

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だいぶ昔の話

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「無理です」
ボクは目の前の人に向かって、一片の躊躇なく言い切って、がばりと頭を下げた。
「ごめんなさい。」


ハロウィンイベントが大盛況のまま終わってから、ボクの生活には幾つか変化があった。
以前よりシマ君と話すようになったとか、ちょっとだけ服飾関係に興味が出ただとか、クラスがより団結しただとか。
カナが背中に乗っかってくると、ちょっと顔が赤くなる時があるのも、少し、変化の一つ。意味はわからないけど。
ーーなによりもっと大きくて尚且つわからない変化が、これだ。


「うん、いいんだ。わかっていたし、話聞いてくれてありがとう。でももう少しだけ、アオ君好きでいるのだけは、許してな。」
ボクを呼び出した先輩は、眼鏡の奥の優しそうな目を細めて、ごめんねって、最後に一言。
それから。ボクをその場に残していってしまった。




告白。




告白、だ。
今まで恋愛関連に無縁だったボクに訪れた、最大級の変化がこれ。
3年生からの告白。
今の先輩で3人目。


「はぁぁあ…なんなんだろ。」
ボクは毎度のことながら、意味がわからなすぎて。
頭抱えてその場にしゃがみ込んでしまう。
「ちょっとみんな、受験で頭おかしくなりすぎだよ。」
好き?いやない。ボクを好きとかないわぁ。
だってボクだよ?
背は普通。髪は何にもいじってない真っ黒ストレートで、顔が特別可愛いでも綺麗でもかっこいいでもなく。目が大っきくきゅるんでもないし、性格だって自分で言っちゃうけどかわいかない。
「ちょっとうさメイドフィルターかかりすぎじゃない?女装はボクだけじゃなかったはずなのに」
ボクのクラスでは確かにボク1人だった。
他はなんやかんや理由をつけて逃げたらしい。
ーーうんみんな、正解だよ!!
他のクラスや下の学年には何人もいたみたいで。
最後体育館に集まった時に、他のとこの衣装が気になっていたらしいミナミが、興奮気味にボクのそばで騒いでた。どこのクラスのどの子(の衣装)が可愛いだとか生地が気になるだとか。その合間に女装男子がどうとか言ってた。
疲れていたボクは、右から左だったけど。女装がいたのだけは伝わってきた。
どんな女装かは知らないけど。


「もしかして、他の女装者もみんなこんな感じなのかも?」


ふと、気付く。

(そうだよね、ボクだけ特別なわけないや。)







「大好きです!!」

気を取り直して立ち上がり、教室目指して歩き出してすぐ。曲がり角を曲がろうと闊歩してた足を、ぴたっと止める。
(スキデス?)
突如聞こえてきた大きすぎるその声。
ボクは空中で止めたままの右足をそうっと静かに下ろすと、最善の注意で持って音を立てずに顔だけそろり。曲がり角の向こうに覗かせようとして。

「えーと…??ん?んんん??」
続いて聞こえてくるのは、戸惑ってます。困ってます。そんな気持ちを隠しもしてない、声。
聞いたことある、声。
頭で考えるよりも先に、覗いた先で見慣れた背中を見つけた。
その前に立つ、ちょっと小柄な誰かの姿も。
(カナ…告白されとる)
この前は綺麗目な子で、その前はほんわかおっとりな子。その前は確か…学校一の美人さん、だったかな?ボクはここしばらくの記憶を目まぐるしくおさらいしながら、
今度はどんな子だろう?ふと、気になってしまって。
もう少しだけ、そちらがよく見えるよう身体を乗り出した。


小柄な子だ。ちょっとだけ明るい髪色。細そうな腕が、ぎゅっと上着の裾を握ってる。顔は見えない、俯いちゃってるから。
旋毛が見える。
真ん中よりちょい後ろ気味な小さな旋毛。ちょっと揺れてるように見えるのは、震えてるのかもしれない。
ふるふる、緊張で、もしかしたらば。
それに気づいた瞬間、ボクは後悔した。



上着を握る手が震えてる。



(だめだ!)
ボクはザッと身を戻す。見たらダメ、ここにいてもダメ。すぐにここを離れなくちゃ…!!


まるで彼の震えが移ったみたいに、ぶるぶる震え出した足をどうにか動かし、ボクはその場を離れたんだった。




「おかえりー、カナ君いた?」
教室にたどり着いたボクに気付き、ミナミが席から声をかけてくる。
「うっ、…」
「う?」
「うん…いた。みたいな?」
ボクは何をどう言えばいいかわからなくて。
出せたのは煮え切らない返事。
ミナミは首を傾げる。
「え?みたいな??」
「あれだろ、現場に遭遇。」
ミナミの席の前に、後ろ向きに座ったシマ君が呆れたような声を出す。
みんなの方に向かうボクの肩がわかりやすく跳ねるのをみて、シマ君の横の席に座ってたアキがなるほどって顔をした。
「現場?そりゃまぁ、タイミングの悪いことで」
「だから言ったろ、探しに行くなって。」
シマ君が、やっぱり呆れたように言うので、ボクの気分はどどーんと下がった。


確かに言われましたね。


昼休みが始まってすぐに、いつものように連れ立って学食に行こうとしたんだ。そしたらカナの姿が無くって。
とりあえず食べ始めてはみたけど、カナは戻ってこなくて。
探しに行ってくる、って。
早めに食べ終わったボクは席を立ったんだけど、シマ君が何故か止めとけって止めてきたんだ。
でもボクは探しに行って。カナを見つける前に先輩に呼び止められ、告白されたんだ。

「朝、一年に声かけられてだからそうじゃないかと思ってた。」
「…なるほど」
ご明察だよシマ君。
ボクはまだ震えてる手足を動かし、ミナミ君の隣の自分の席にようやく着いた。ガタガタって無駄に大きな音たてて力尽きたように座って。
で、そのまま机に突っ伏す。
「なにへこたれてんだよ。別にカナが告白されるなんて今に始まったことじゃないだろ?」
アキの不思議そうな声。
確かにそれは今更なことだ。




「ボク、最低なことしちゃった」
「最低なことって…アオ、現場に乗り込みでもした?」
アキの言葉に、ふるふる首を横に振る。
「邪魔しちゃった、とか?」
ミナミ君の戸惑いがちな言葉にもふるふる。
「何したんだ?」
ストレートなシマ君の言葉に、ボクはグッと唇を噛んで。
懺悔した。
「覗いちゃって…」
「「「…」」」


3人は一瞬で無言になってしまった。
ボクは益々唇を噛み締める。


「…告白現場に遭遇したら俺でも覗くわ。」
「確かに褒められた行為じゃないけど、最低ではないかなぁ。」
「好奇心で見守りたくなるかも」
アキの、続くミナミとシマ君の優しさに、ボク泣きそう。
ちょっと、涙出た。

…でも、ダメだ。3人はそうは言ってくれても、ボクはやっぱり最低だ。

「だってその子、震えてたんだ。」
違うんだって、ボクの行為は最低なんだって。
ボクは何度も首を横に振る。
「カナに好きって言って、震えてた。きっとすごく緊張して勇気振り絞り切って伝えたんだよ。それなのにボク、どんな子だろうって軽い気持ちで覗いちゃったんだ。それに。」



あの震える手を見た瞬間、ボクこそが震えた。
なんて最低なことしたんだろうって。



そして同時に。
もう一つの最低な行為に気づいてしまったんだ。


…先輩だってもしかしたら、勇気振り絞ってくれたのかも、って。先輩の手も震えていたかもしれないんだって。ことに。
先輩の気持ちは、受験の疲れやうさメイドフィルターのせいなんかじゃなくて、本当だったのかもなんてそんな、当たり前なことに。
気付こうとも、知ろうとも、考えもせずに。



『無理です』


なんてそんな一言で片付けてしまった。


「ボク、先輩の言葉を信じてあげなかった。最低最悪だよ。」


涙交じりの声が出るけど、泣きたいのは先輩の方だ…



「先輩?なんの話だ?」


3人が首を捻っていたことには気づかず、ボクはただただ後悔をしていた。
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