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昨日も

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インターホンが鳴って、ボクはチラリと壁の時計に目をやる。
12時丁度の針の位置。
学生時代からルーズな方ではなかったけれど、社会人になってからよりいっそう時間に正確になった。
早くもなく遅くもなく、丁度の時間。

「はーい、今開けるね」
インターホンを受け、マンション入り口のロックを開ける。
『ありがとう』
律儀に、お礼の言葉。ボクは見えないと分かっていても思わず微笑んでしまう。変わらず、ミナミはいい子だ。


程なくして。買い物袋を両手に、ミナミは部屋に上がってきた。
「わー!すごい荷物!ボク何か頼んでたっけ」
まるまるっとした体型に沿ったぷにぷにの手に、ビニールが食い込んでる。見てるだけで重そうな荷物だ。
ミナミが遊びに来てくれるのに合わせて買い物を頼むことが多々ある。今回も頼んだかなぁとちょっと考え込んだボクに、頼まれてないよとミナミは笑った。
「久しぶりにアオ君と鍋したくなっちゃって。駅前のスーパーで買い物したら、思ったより荷物になってしまったよ。」
よく見れば、確かに駅前スーパーのロゴが袋に印字されてる。
「駅から持って歩いてきたの?大変だったでしょ。」
ミナミから受けとった袋は2つとも、やっぱりそれなりにずっしりしてる。駅からマンションまでは遠くはないけど近くもない。この重さの荷物持っての移動は成人男性といえども大変だ。
「平気、ではなかったけど、たまには運動しないとさ。また体重増えたんだよね。」
ミナミは眉毛を困ったようにへにゃっと下げて、自分のお腹に目をやるから。ボクもつられて、視線がそこに。
「確かにちょっと増えた?ぽよぽよ具合に磨きがかかったね。」
ボクの率直な意見に、うっ、とわざとらしくミナミの息が詰まる。
「相変わらずアオ君は正直だ。」
「ありがと、褒め言葉。」
ボクは笑って続ける。
「でもボク、ミナミのお腹好きだよ。なんでか見てて安心するんだよね。幸せの象徴みたいで、あったかい感じがする。」
丸くて大きくて、ぽよんとしてて。
幸せが詰まってるみたいだ。

ミナミは袋を受け取ったボクの手首を見て、ちょっとだけ。また眉を下げた。
今度は悲しそうに、でもすぐにまた、柔らかな表情で「ありがとう」って言った。



「忘れるところだった」
ダイニングテーブルに袋を置き、2人で中身を確認し始めてすぐ。ミナミは声を上げて。椅子に置いたトートバックに手を突っ込むと中をがさごそ。そこから何かを取り出し、ボクにはいって手渡してきた。
「この前地方に行った時に見つけたお水、カナ君とアオ君にお土産」
瓢箪みたいな変わった形の容器に入ったお水だ。
「わーありがとう!わざわざ2つも!嬉しいなぁ。」
フォルムは同じなのに、フィルムの絵柄がそれぞれちょっと違う。2つあってもボクが気にしないようにって、ミナミはわざわざ別の柄を選んでくれたに違いない。

1つでいいのに。1つあれば足りるのに。
でも、カナとボクにって2つ。

ミナミのそんな柔らかな優しさが、ボクは大好きだ。
「せっかくだからこのままカナにあげようかな。ミナミ、こっち持ってカナのとこ行ってて。ボク冷蔵庫にしまっちゃうね。」
ミナミはうんって頷いて、青色がたくさん使われている方の水を手にして寝室に向かう。
その姿を見送ってから。ボクはさてと、と、袋に向き合った。





ミナミが買ってきてくれた食材は、きのこ多めの肉多め、野菜は少なめだった。ヘルシーさを求めたのか求めなかったのか。鍋の素もいくつかあったなかで。(重量の原因は、ほぼこの鍋の素)
ミナミのぽにぽにボディにつやつやさを求めたく、ボクは豆乳鍋にした。
豚肉と鶏肉の両方を入れて、しめじに椎茸、えのきにエリンギ。きのこ盛りだくさん。きのこ好きなボクとしては大変満足なラインナップだ。
野菜はなぜかレタスと茄子。
茄子?
立派なそれを手に、ボクはしばし熟考。
うん、豆乳鍋にはなくてもいいかな。
レタスだけ鍋に入れ、茄子は副菜。ひき肉と甘辛に。





カナと食べたのは、もっぱら海鮮鍋だった。
カナがエビ大好きだったのもあって、とにかくエビカニいれた海鮮鍋を食べたがった。
人参と大根と、それからエビカニ鮭。高すぎて、時々の贅沢だった丹波のしめじを入れて味噌仕立て。
偶に違う鍋にすると、美味しいねってたくさん食べた後で、次は海鮮がいいんじゃない?って毎回。ちょっとボクにお伺い立てるみたいにあのワンコな目線とワンセットで言うんだ。
ボクはその度に、わかったよって頷いて。
次に海鮮にしたり次の次くらいに海鮮にしたり、して。カナの喜んだり、ちょっぴりしょんぼりしつつも、美味しそうに鍋を食べる姿を楽しんだ。
カナのコロコロ変わる表情が大好きだったから。




締めの雑炊まできちんと楽しんだミナミのお腹は来た時よりさらにぽよんぽよんだ。
食べすぎたってお腹触りながらしょんぼりするから、ボクは笑顔でそのお腹を撫でてあげた。
幸せの詰まったお腹。
「いい食べっぷりだったよ。ほんと美味しそうに食べるから、僕もたくさん食べちゃっておなか苦しいよ。」
いつもより、ちょっとだけぽっこりしたボクのお腹を突き出して、ミナミによく見えるようにした。薄いお腹がちょっとだけ、ぽよん。
それを見て、ミナミは嬉しそうに顔を綻ばせた。
「そうみたい。アオ君のお腹もぽよんだ。」
「ね。ぽよん。もう今日は何も入らないよー」

あったかくて美味しいお鍋に優しい友達の笑顔で、僕のお腹にも幸せが詰まったみたいだ。
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