これこそが、ボクの人生史上最高の

金糸雀

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昔の話

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3年に無事上がった。
そう。3年に。無事に!!クラスが上がることもなく下がることもなく、ボクは3年生になれた。
カナもアキもシマ君も変わりない。ただミナミだけはなんと、クラスが上がったんだ!おめでとう!本人はボク達と同じが良かったってちょっと半泣きだったけど。大丈夫。クラスが違えど友情に変わりはないよ。

3回目の、1学期の初めの日。
やっぱりカナはボクの前の席。
今日もふわふわの明るい茶色の髪が、空いた窓から優しく吹き込む風で揺れている。
カナの髪は見た目通り柔らかくて少しクセがあって、ちょっとくらいの寝癖じゃわからない。
出会った頃から、この髪の毛のふわふわが好きだったけど、最近はちょっとそこに別の感情が乗ってきた。
羨ましい。
ボクの髪に寝癖なんてつこうものなら、うねーって跳ねてどこからどうみても、紛うことなく、これぞ寝癖。

ちくしょう、羨ましい。

ボクはカナの髪の毛にガッと手をやり、そのままぐしゃぐしゃーっと撫でた。
「え?え!!な、なに??」
いきなりぐしゃぐしゃにされたからか、びっくりしたような声を上げ、カナが振り返る。
「なんでこんなふわっふわなんだろう。羨ましさが増しすぎてちょっと殺意湧くよね。」
黒髪は仕方ないと飲み込む。ボクの家系はみんな黒だ。色素薄い子はどこにもいない。
でもせめて、せめてちょっとふわふわしててもいいんじゃないかと思う。
「殺意?!なんで?」
冗談多め本音もだいぶ多めに有りなのが伝わったんだろう。
カナは驚いたように目を向いた。
「ボクもふわふわが良かったなぁ。」
寝癖がバレない程度にはふわふわになりたかった。
「オレはアオのまっすぐな髪の毛好きだよ?」
カナがボクの髪に手を伸ばしてきた。
「ふわふわすぎて、いっつもどこか絡まっちゃうんだ。アオのはほら、指に髪の毛絡まないし。いつ触っても艶々で、いつまでだって触ってたくなる。オレから見たら、アオの方が断然羨ましいよ。」
ゆっくり優しく、頭を撫でながら、カナはそう言った。
「そういうもん?」
「うん。それにアオの黒髪はすごい綺麗。いつも言ってるけどさ、ほんとに綺麗だなって思う。」


(ほんとかなぁ。)


真っ黒黒のボクからしてみたら、カナのふわふわはものすごく羨ましい超羨望!の髪だけど。カナからしたらボクの髪の毛のほうが羨ましいらしい。癖のない艶々ストレートが『綺麗』って。
なんだそれ。って。
初めて言われた時は納得いかなくて首を捻ったりしたけれど、言われ続けて慣れてきてしまった自分もいる。
納得はいってないけど。
あんまりに、カナが真顔で言うものだから。
「そっかぁ、ありがと」
最近はちょっと、自分の髪も好きになりました。
(羨ましすぎてまだまだ殺意湧くけども!)


カナは真顔でボクの髪を綺麗と褒めて。
それからふわっと笑った。
にこっ、とは違う、なんかちょっと心臓に悪い、笑だ。



3年になってから、なんとなく。なんとなくだけど、カナのボクに接する態度が前と違う、気がする。たぶん。
前からスキンシップ過多と思っていたけど、最近は特に多い。登校中に会えば背中に乗っかってくる…のは今まで通り。そこからするっと肩を抱かれたり腰を抱かれたりする。
腰?腰。腰だ。
『???』
腰にするっと手を回されると流石におかしかろうと、訝し気にカナを見るんだけど。
『?どうかした?』
って、可愛く首を傾げるんだ。
どうかしたって、キミこそがどしたの?って、ボクも首を傾げてカナを見上げるんだけど。
カナはボクを見てふわっと、笑うんだ。
さっきみたいに笑うんだよ?
優しく柔らかく。だからボクは何にも言えなくなっちゃう。


カナはいつも笑ってる人間、だと思う。
ボクを見つけておっきく手を振りながら走ってくる時。
友だちとわちゃわちゃ話をしてる時。
授業中も、部活中も。真面目にやれーって周りからどつかれた時も。
ボクがふと、後ろを振り返った先でも。
カナはにこにこ笑ってるんだ。



でも最近見せるその笑みは、にこにこなのとはちょっと違う、ふわっと浮かべるあの笑みは。




最近ほんとに心臓に悪い。




ーーそれともう一つ、3年になってからのカナの変化、こちらも大変悪い。主に胃に。

「見せて、ね。アオ、それを見せて、ね?いいよね?」
カナがにこにこしながら手を出してくる。
ボクの胸に抱きしめた紙を寄越せと、全身で言いながら。
「いーやーだーって何度言わせるの?絶対無理。」
「無理じゃない大丈夫。オレに任せて、ね?」
「何が任せてでなにがね?なの!絶対嫌です断固拒否。」
「大丈夫だよ、アオ。悪いようにはしないから、ね?」
「ボクの進路をどうしたいの?!意味わかんないよね?!」

カナがさっきから狙ってるのは、明日提出の進路希望調査票だ。もちろんボクの。カナのは見たくないのに見せられた、そのお返しに見せろと。悪いようにしないからってなにを?!

意味がわからなすぎて、何かしら読み取ってやろうとばかりに。じとっと、カナのにこやかな目を見る。見る、けど。
…にこやかすぎて何もわかんない。

ボクは胸に抱き締める紙を、さらにぎゅっと抱きしめる。絶対に離さない絶対見せないぞ!



そう、やたらとボクの進路を気にしてくるのだ。
2年の途中くらいから、思えば大学どこ行くの?とか、聞かれ始めてはいたけど。だんだん進路に真剣味を帯びるとともにカナの気にし度も高まってきた。困ったことだ。


「アオ…」

あぁまた、垂れた耳と尻尾が見える。
ワンコだ、わんこがいるうぅう…!!



本当に、困ったことだ。
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