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それまでのボクには、友達のカテゴリーしか存在してなかったのだから。
「そういえば、ヨフネ先輩とはまだ連絡取り合ってるの?」
「うん、連絡取ってるよ。最近は子供が生まれて、その子の写真ばっかり送られてくるんだ。」
「そうなんだ、お子さんが。」
「ミナミのとこが最近出した赤ちゃんのレーベル、先輩に出産祝いで贈ったら奥さん大興奮だったよ。」
ボクは食後の珈琲をテーブルに置きながら、ミナミの問いに答えていく。
ボクはブラック。ミナミは牛乳プラス。
それからカナに。
小さなデミタスカップに入れた、牛乳とお砂糖増し増し。
お鍋の時。大きめの器に一通りの具とスープをよそってボクの隣に置いた時と同じように、ミナミはちらっとそれを見ただけで何も言わない。
慣れたのかも、しれないし。
何も言わないでいてくれるのかも、しれない。
「それは嬉しいなぁ。」
ミナミは珈琲を一口こくりと飲んで。
「ヨフネ先輩と繋がってるのいまだに不思議だけど、それがアオ君なのかもしれないね。」
ふふッと、小さく笑う。
確かに、とボクもこくんと頷く。
ヨフネ先輩は、ハロウィンイベント後。
ボクに告白してくれた3番目の先輩だ。
カナが告白される場面に遭遇し、自分が酷い事をしたと、ようやく自覚したあと。ボクは3人の先輩に謝りに行ったんだ。
1人目の先輩から順に、ボクにできる限りの誠心誠意で。
1人目の先輩も、2人目の先輩もとても優しくて。間違っていたボクを笑って許してくれた。
そして、3番目のヨフネ先輩も。
『ごめんなさい。』
先輩に来てもらい、早々にボクは頭を下げた。
『え?どうしたの?』
困惑したような先輩の声。
『ボク、先輩の気持ち信じてなかった。間違いだろうって勝手に決めつけて、ちゃんと向きあってのごめんなさいじゃなかった。だからもう一度、ちゃんと謝りたくて。』
ごめんなさい。
ボクはグッとまた、頭を下げた。
知らなかったんだ、ボク。
告白してきたのも、される側も男だったから。
そこに間違いなく恋愛感情があるなんて、思ってなかったんだ。
でも、あの震える姿を見てしまったら。
ボクはもう、知らないままではいられなかった。
『そうか…うん、わかった。きちんと向き合ってくれてありがとう。』
先輩は、やっぱり眼鏡の奥の目を細めて柔らかく笑った。
その柔らかさにボクはつい。聞いてしまったんだ。
『どうしてボクのこと、す…うっ…あの、どこかいい要素ありましたぁ?!』
ストレートにどこが好きですかなんて聞けなくて、そんなヘンテコな尋ね方。
顔だって、変に赤くておかしな表情してるのがわかる。手にも汗が!!
挙動不審に陥りそうなボクに、先輩はやっぱり柔らかく教えてくれたんだ。
『シマがアオ君の手を掴んでただろう?どんな状況かわからなくて、見てたんだ。助けに入っ方がいいかって。そしたらアオ君が叫んで、シマを飛び蹴りみたいに足で蹴り倒して。』
『え?けり、蹴り倒す?』
『そう、綺麗にどんって。』
『どんって!?!』
『その姿が美しくて、忘れられなくなったんだ』
『えぇえぇぇ…』
ボクの失われてた数分の出来事で、ヨフネ先輩はどうしてだか、恋に落ちたそうだ。
「いまだに不思議なのは、なんであれでヨフネ先輩は血迷っちゃったか。だよ。」
ボクも珈琲に口をつける。
安定のブラック。甘いお菓子は好きだけど、甘い飲み物ものはちょっと苦手で、ボクはいつもブラックだ。カナはたまにボクのブラックを飲んで顔を萎ませてた。甘い飲み物、大好きだったから。
「まぁ、そうだね。アオ君のうさメイドに惹かれた人は多かったけど。あの蹴りでは、先輩だけだったよね。」
不思議。
それから何故か連絡先を交換し、細く長く、先輩とは繋がっている。
先輩が大学時代に出会った女性と式を挙げた時はなんでだか呼ばれたし。赤ちゃんが生まれた時はお祝いにも行った。実は奥さんとも連絡先交換していて、洋服の話や美味しいレシピの話で盛りがったり。たくさん。言葉をくれたり。多分先輩よりも仲良しだ。
先輩はいつも、眼鏡の奥の目を優しく柔らかく細めて笑ってて。ボクはいつだって幸せな気持ちになるんだ。
そこにある、たくさんの幸せを感じて。
「じゃぁ、そろそろ帰るね。お邪魔しました。」
ミナミはカナに向かってお暇の挨拶をする。
本当にミナミはいい子だ。
「次もお鍋しようね。シマ君とアキも誘って、何種類かの鍋するのも楽しそう。」
なにせ、買ってきてくれた鍋の素がまだまだたくさんある。いろんな種類の素が。
「それもいいね。」
ミナミは軽くなったバッグを肩にかけ、玄関で最後、振り返る。
「それじゃぁ、お邪魔しました。また連絡するね。」
「うん、ありがとう。またね。」
ボクは片手をあげてばいばい、って手を振った。
ありがとう。
ありがとうね。
ボクは手を下げて。
鍵をかけ。
部屋に戻る。
目に入るのは、テーブルに置かれた角とヘッドドレス。
2年の秋の、ハロウィンイベント。
あの時まで、ボクは告白してくれる相手の気持ちを信じてはいなかった。恋愛が、いろんな形を持つものだと知らずにいた。
だから。
そんな、転機の時だった。
「そういえば、ヨフネ先輩とはまだ連絡取り合ってるの?」
「うん、連絡取ってるよ。最近は子供が生まれて、その子の写真ばっかり送られてくるんだ。」
「そうなんだ、お子さんが。」
「ミナミのとこが最近出した赤ちゃんのレーベル、先輩に出産祝いで贈ったら奥さん大興奮だったよ。」
ボクは食後の珈琲をテーブルに置きながら、ミナミの問いに答えていく。
ボクはブラック。ミナミは牛乳プラス。
それからカナに。
小さなデミタスカップに入れた、牛乳とお砂糖増し増し。
お鍋の時。大きめの器に一通りの具とスープをよそってボクの隣に置いた時と同じように、ミナミはちらっとそれを見ただけで何も言わない。
慣れたのかも、しれないし。
何も言わないでいてくれるのかも、しれない。
「それは嬉しいなぁ。」
ミナミは珈琲を一口こくりと飲んで。
「ヨフネ先輩と繋がってるのいまだに不思議だけど、それがアオ君なのかもしれないね。」
ふふッと、小さく笑う。
確かに、とボクもこくんと頷く。
ヨフネ先輩は、ハロウィンイベント後。
ボクに告白してくれた3番目の先輩だ。
カナが告白される場面に遭遇し、自分が酷い事をしたと、ようやく自覚したあと。ボクは3人の先輩に謝りに行ったんだ。
1人目の先輩から順に、ボクにできる限りの誠心誠意で。
1人目の先輩も、2人目の先輩もとても優しくて。間違っていたボクを笑って許してくれた。
そして、3番目のヨフネ先輩も。
『ごめんなさい。』
先輩に来てもらい、早々にボクは頭を下げた。
『え?どうしたの?』
困惑したような先輩の声。
『ボク、先輩の気持ち信じてなかった。間違いだろうって勝手に決めつけて、ちゃんと向きあってのごめんなさいじゃなかった。だからもう一度、ちゃんと謝りたくて。』
ごめんなさい。
ボクはグッとまた、頭を下げた。
知らなかったんだ、ボク。
告白してきたのも、される側も男だったから。
そこに間違いなく恋愛感情があるなんて、思ってなかったんだ。
でも、あの震える姿を見てしまったら。
ボクはもう、知らないままではいられなかった。
『そうか…うん、わかった。きちんと向き合ってくれてありがとう。』
先輩は、やっぱり眼鏡の奥の目を細めて柔らかく笑った。
その柔らかさにボクはつい。聞いてしまったんだ。
『どうしてボクのこと、す…うっ…あの、どこかいい要素ありましたぁ?!』
ストレートにどこが好きですかなんて聞けなくて、そんなヘンテコな尋ね方。
顔だって、変に赤くておかしな表情してるのがわかる。手にも汗が!!
挙動不審に陥りそうなボクに、先輩はやっぱり柔らかく教えてくれたんだ。
『シマがアオ君の手を掴んでただろう?どんな状況かわからなくて、見てたんだ。助けに入っ方がいいかって。そしたらアオ君が叫んで、シマを飛び蹴りみたいに足で蹴り倒して。』
『え?けり、蹴り倒す?』
『そう、綺麗にどんって。』
『どんって!?!』
『その姿が美しくて、忘れられなくなったんだ』
『えぇえぇぇ…』
ボクの失われてた数分の出来事で、ヨフネ先輩はどうしてだか、恋に落ちたそうだ。
「いまだに不思議なのは、なんであれでヨフネ先輩は血迷っちゃったか。だよ。」
ボクも珈琲に口をつける。
安定のブラック。甘いお菓子は好きだけど、甘い飲み物ものはちょっと苦手で、ボクはいつもブラックだ。カナはたまにボクのブラックを飲んで顔を萎ませてた。甘い飲み物、大好きだったから。
「まぁ、そうだね。アオ君のうさメイドに惹かれた人は多かったけど。あの蹴りでは、先輩だけだったよね。」
不思議。
それから何故か連絡先を交換し、細く長く、先輩とは繋がっている。
先輩が大学時代に出会った女性と式を挙げた時はなんでだか呼ばれたし。赤ちゃんが生まれた時はお祝いにも行った。実は奥さんとも連絡先交換していて、洋服の話や美味しいレシピの話で盛りがったり。たくさん。言葉をくれたり。多分先輩よりも仲良しだ。
先輩はいつも、眼鏡の奥の目を優しく柔らかく細めて笑ってて。ボクはいつだって幸せな気持ちになるんだ。
そこにある、たくさんの幸せを感じて。
「じゃぁ、そろそろ帰るね。お邪魔しました。」
ミナミはカナに向かってお暇の挨拶をする。
本当にミナミはいい子だ。
「次もお鍋しようね。シマ君とアキも誘って、何種類かの鍋するのも楽しそう。」
なにせ、買ってきてくれた鍋の素がまだまだたくさんある。いろんな種類の素が。
「それもいいね。」
ミナミは軽くなったバッグを肩にかけ、玄関で最後、振り返る。
「それじゃぁ、お邪魔しました。また連絡するね。」
「うん、ありがとう。またね。」
ボクは片手をあげてばいばい、って手を振った。
ありがとう。
ありがとうね。
ボクは手を下げて。
鍵をかけ。
部屋に戻る。
目に入るのは、テーブルに置かれた角とヘッドドレス。
2年の秋の、ハロウィンイベント。
あの時まで、ボクは告白してくれる相手の気持ちを信じてはいなかった。恋愛が、いろんな形を持つものだと知らずにいた。
だから。
そんな、転機の時だった。
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