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第二章
25『異世界買物とモロッタイヤ村からの旅立ち』
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悶絶しながらバタバタと暴れるアンナリーナを、セトは醒めた目で見つめていた。
「わーっ! やったよ! やっちゃったよ!」
一目で苦しんでいるわけではないとわかるので放置しているわけだが、セトもいい加減呆れている。
そんななか、ひとしきり暴れたアンナリーナが我に返ったのは【ナビ】の声がきっかけだった。
“ 漠然と唱えた【異世界買物】だが、どういったシステムになっているんだろう? “
少し冷静になってきたときに思った、その応えだった。
『ずいぶんとお久しぶりです、主人様』
幾分拗ねたような声が聞こえてくる。口調もどことなく刺々しい。
「えっと……ごめん? 別に用がなかったから」
『ひどい……
まあ、よろしいです。
今回は質問してくださったので、ようやく出て来れました訳ですし』
まだ質問してないよ……とは言わないでおく。
【異世界買物】
異世界……この場合はアンナリーナの前世の世界、地球の事である。
原則、地球で販売されているものならば、どのようなものでも購入出来る。
取り引きされる金銭は、アンナリーナの魔力値を1ポイント=日本の貨幣1円と換算される。
買物出来る物品のリストはステータスパネルから操作出来る。
「とりあえず、一度やってみるか。
ステータスオープン」
アンナリーナと彼女の魔力を与えられているセトにしか見えないパネルの【異世界買物】に触れてみる。
そこには【検索】の文字が浮かんでいて、アンナリーナは食用油を思い浮かべてみた。
すると、あらゆる種類の植物油、動物性油脂が並び、その中からクセのないサラダ油を選びタッチする。
そして金額が提示され、実行をタッチすると……あら不思議。
アンナリーナの目の前に突然、どこかで見た事のある宅配大手の段ボール箱が現れた。
「これって、魔力値さえあれば戦車でも戦闘機でも買えるってこと?」
『はい、そのセンシャとかセントウキがどのようなものかわかりませんが、値段がついているものならすべて購入出来ます』
でも多分、貧乏性のアンナリーナは身近なものしか買わないような気がする。ナビはそう思っている。
「ねえ、ナビ。
これって、電化製品買ったとき、その動力はどうなるの?」
実はアンナリーナ、どうしても欲しい家電がある。
「それも主人様の魔力値が変換されます。購入なさって、こちらの世界に到着した時点で通電します。
……常時、主人様の魔力値を食うわけです」
「すっごい、至れり尽くせりなんだね。ふんふん、早速……」
アンナリーナがパネルの操作をしていた次の瞬間、例の段ボール箱が現れ、早速中身を取り出して……涙を浮かべた。
「ああ……夢にまで見たぁぁぁ」
某社の高性能炊飯器、某メーカーのコシヒカリ無洗米5kg、某メーカーの特選丸大豆醤油、有名ブランド生玉子。
速攻で炊飯器に米をセットすると、スイッチをピッ!
本当は水に浸す時間を30分ほど見るのだが、もう我慢出来ない。
小一時間後、炊きあがって蒸らしの時間など涎を垂らさん様子で炊飯器を見つめ、出来上がった玉子かけご飯を涙を流しながら食べた。
その、一粒の米も残さず平らげた椀を、じっと見つめて暫し……。
我に返ったアンナリーナはようやく平静を取り戻した。
長い時を経て、蘇る食に関する記憶。
あれも食べたい、これも食べたいと、次々と浮かんでくるメニューに心躍らせる。
ギフト【異世界買物】を手に入れたアンナリーナにはもう、自重などは存在しない。
興奮のあまり寝つけなかったアンナリーナは、早々に諦めて出発の準備を始めた。
そして気づいたのは階下の気配。
厨房ではアンソニーと女将が寝ずに調理していたようだ。
「ああ、そうだ。忘れてた」
先日ミハイルが言っていた塩の件。
大きな岩石から直接塩を分離して来て、売るのを忘れていた。
「それと、この【異世界買物】で買った塩を売っちゃったらいいんじゃない?」
まず精製塩を25kgの大袋2つ、1kgを2つ、海塩を1kg2つを購入する。
それからキノコの時に作って余っていた布袋を取り出して、ビニール袋に入っている1kgの塩を移し替えた。
そして階下へ降りていく。
アンナリーナの姿を見たアンソニーが、最後の仕上げを前に竃から下ろしていた鍋を次々と火にかけていく。
出来上がりと同時に、インベントリにしまわれていく鍋は10個を越えた。
そうして、日の出を迎える頃には大量の弁当作りにかかっていた。
ピチピチの海老と新鮮なミルクを受け取った後、アンナリーナは雑貨屋のミハイルの元に走った。
「おはよー。ミハイルさん、起きてるー?」
「おや、嬢ちゃん。何か忘れ物か?」
「そうだよ。忘れてたんだよ。これ、これ」
塩25kgを渡され、パニックになったミハイルから金貨10枚を押しつけられたりして、アンナリーナの旅立ちは賑やかなものになった。
宿の部屋に戻り【洗浄】してから下に降りると、7個のバスケットにぎっしりと詰まったサンドイッチの数々がアンナリーナを迎える。
これで金貨2枚……安すぎる。
村人の多くが門で見送るなか、アンナリーナは再会を約束して旅立って行った。
アンナリーナの使った部屋の掃除に向かった女将が、机の上に置かれた布袋を見てびっくりするのはまだ後の事……。
「わーっ! やったよ! やっちゃったよ!」
一目で苦しんでいるわけではないとわかるので放置しているわけだが、セトもいい加減呆れている。
そんななか、ひとしきり暴れたアンナリーナが我に返ったのは【ナビ】の声がきっかけだった。
“ 漠然と唱えた【異世界買物】だが、どういったシステムになっているんだろう? “
少し冷静になってきたときに思った、その応えだった。
『ずいぶんとお久しぶりです、主人様』
幾分拗ねたような声が聞こえてくる。口調もどことなく刺々しい。
「えっと……ごめん? 別に用がなかったから」
『ひどい……
まあ、よろしいです。
今回は質問してくださったので、ようやく出て来れました訳ですし』
まだ質問してないよ……とは言わないでおく。
【異世界買物】
異世界……この場合はアンナリーナの前世の世界、地球の事である。
原則、地球で販売されているものならば、どのようなものでも購入出来る。
取り引きされる金銭は、アンナリーナの魔力値を1ポイント=日本の貨幣1円と換算される。
買物出来る物品のリストはステータスパネルから操作出来る。
「とりあえず、一度やってみるか。
ステータスオープン」
アンナリーナと彼女の魔力を与えられているセトにしか見えないパネルの【異世界買物】に触れてみる。
そこには【検索】の文字が浮かんでいて、アンナリーナは食用油を思い浮かべてみた。
すると、あらゆる種類の植物油、動物性油脂が並び、その中からクセのないサラダ油を選びタッチする。
そして金額が提示され、実行をタッチすると……あら不思議。
アンナリーナの目の前に突然、どこかで見た事のある宅配大手の段ボール箱が現れた。
「これって、魔力値さえあれば戦車でも戦闘機でも買えるってこと?」
『はい、そのセンシャとかセントウキがどのようなものかわかりませんが、値段がついているものならすべて購入出来ます』
でも多分、貧乏性のアンナリーナは身近なものしか買わないような気がする。ナビはそう思っている。
「ねえ、ナビ。
これって、電化製品買ったとき、その動力はどうなるの?」
実はアンナリーナ、どうしても欲しい家電がある。
「それも主人様の魔力値が変換されます。購入なさって、こちらの世界に到着した時点で通電します。
……常時、主人様の魔力値を食うわけです」
「すっごい、至れり尽くせりなんだね。ふんふん、早速……」
アンナリーナがパネルの操作をしていた次の瞬間、例の段ボール箱が現れ、早速中身を取り出して……涙を浮かべた。
「ああ……夢にまで見たぁぁぁ」
某社の高性能炊飯器、某メーカーのコシヒカリ無洗米5kg、某メーカーの特選丸大豆醤油、有名ブランド生玉子。
速攻で炊飯器に米をセットすると、スイッチをピッ!
本当は水に浸す時間を30分ほど見るのだが、もう我慢出来ない。
小一時間後、炊きあがって蒸らしの時間など涎を垂らさん様子で炊飯器を見つめ、出来上がった玉子かけご飯を涙を流しながら食べた。
その、一粒の米も残さず平らげた椀を、じっと見つめて暫し……。
我に返ったアンナリーナはようやく平静を取り戻した。
長い時を経て、蘇る食に関する記憶。
あれも食べたい、これも食べたいと、次々と浮かんでくるメニューに心躍らせる。
ギフト【異世界買物】を手に入れたアンナリーナにはもう、自重などは存在しない。
興奮のあまり寝つけなかったアンナリーナは、早々に諦めて出発の準備を始めた。
そして気づいたのは階下の気配。
厨房ではアンソニーと女将が寝ずに調理していたようだ。
「ああ、そうだ。忘れてた」
先日ミハイルが言っていた塩の件。
大きな岩石から直接塩を分離して来て、売るのを忘れていた。
「それと、この【異世界買物】で買った塩を売っちゃったらいいんじゃない?」
まず精製塩を25kgの大袋2つ、1kgを2つ、海塩を1kg2つを購入する。
それからキノコの時に作って余っていた布袋を取り出して、ビニール袋に入っている1kgの塩を移し替えた。
そして階下へ降りていく。
アンナリーナの姿を見たアンソニーが、最後の仕上げを前に竃から下ろしていた鍋を次々と火にかけていく。
出来上がりと同時に、インベントリにしまわれていく鍋は10個を越えた。
そうして、日の出を迎える頃には大量の弁当作りにかかっていた。
ピチピチの海老と新鮮なミルクを受け取った後、アンナリーナは雑貨屋のミハイルの元に走った。
「おはよー。ミハイルさん、起きてるー?」
「おや、嬢ちゃん。何か忘れ物か?」
「そうだよ。忘れてたんだよ。これ、これ」
塩25kgを渡され、パニックになったミハイルから金貨10枚を押しつけられたりして、アンナリーナの旅立ちは賑やかなものになった。
宿の部屋に戻り【洗浄】してから下に降りると、7個のバスケットにぎっしりと詰まったサンドイッチの数々がアンナリーナを迎える。
これで金貨2枚……安すぎる。
村人の多くが門で見送るなか、アンナリーナは再会を約束して旅立って行った。
アンナリーナの使った部屋の掃除に向かった女将が、机の上に置かれた布袋を見てびっくりするのはまだ後の事……。
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