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第二章
45『グレイストへの置き土産と馬車の旅の始まり』
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潔く馬車から出て行ったグレイストを見送りながら、憤ったりとか達観したりとか忙しかったアンナリーナが、急に思いついたように後ろを向いた。
「フランク、ごめんけど私の姿が周りから見えないように覆って」
そう言って、座席を台にして何か作業を始めた。
ふんわりと甘い香りが漂う。
喉を鳴らしたフランクを笑い、後でおすそ分けしてあげるから我慢するように言うと、手早く手を動かした。
振り返ったアンナリーナの手には、今までフランクが見たこともないものを持っている。
「リーナ、それは?」
円柱形の、鮮やかな模様が描きこまれた、前世であれば見慣れたもの。
「菓子缶だよ。
フランク、ちょっと付き合って」
直径25cm、高さ10cmほどあるそれを小脇に抱え、アンナリーナは立ち上がる。
ぴょんぴょんと馬車のステップを降りてギルド出張所に向かった。
「すみません」
カウンターからやっと肩が出る程度の身長のアンナリーナが所長兼宿屋の主人に声を掛ける。
「あの、ちょっとお願いがあって……
これ、グレイストさんに渡して欲しいのですけど」
そう言って差し出された【菓子缶】を見て、所長は目を見張る。
見たところ金属のようだが彼にとって未知の物体だ。
詳しい事を問いただそうとした時、アンナリーナの姿はもうドアを出て行くところだった。
例の女はあまり金を持っていないのか、肉屋の出店はずいぶん商品を余らせていた。
「イゴルさんところのお品は間違いないもの。
もう誰も買いに来ないようなら全部、頂きます」
遠慮する女将に金貨1枚を押し付け、またフランクに目隠しになってもらって、アイテムバッグに放り込んでいく。
前回買っていなかった干し肉などが手にはいり、アンナリーナはまたホクホク顔だ。
今度こそ皆に別れを告げ、馬車に乗る。
「それでは皆さん、お待たせしました。これから出発させてもらいます。
遅れた分、休憩の数が減るかと思いますが、所用を訴えられた方は遠慮なく申し出て下さい」
なんのことはない、トイレはいつでも言ってくれ……と言うことだ。
フランクに、露骨に「漏らすなよ」と子供扱いされ思いっきり内腿をつねっておいた。
「?」
また、後ろの馬車が騒いでいる。
ザルバはそれを無視して出発した。
「おおぅ……結構揺れるね」
「リーナ、本当に初めて乗るんだな」
別に隔離している訳ではないが、他の客たちに慣れるまで、フランクはアンナリーナを皆から遮るように座って、窓から外を監視していた。
本来はザルバの隣に座って監視するのが彼の仕事である。
「お疲れ様です。昼の休憩です」
ゲルトがステップに降りてドアを開ける。それを見てアンナリーナは前世の乗り合いバスのようだと思った。
もちろん、手動でドアを開けていたのは彼女の祖父母の時代だったが。
「各自、昼食を摂って下さい。
休憩時間は少し長めに取ります」
ここは旅人などが休憩や宿泊に使う【中継地】と呼ばれる場所で、竃が設置され、焚き火がしやすいようになっている。
井戸もあるがこんなところの水を飲むものはいない。
ゲルトが火魔法を使って、手早く火を着けて回る。
アンナリーナも馬車の裏、ちょうど乗客からは死角になる場所で昼食の準備を始めた。
昼は簡単に作り置きしていたサンドイッチだ。
量も種類もたっぷりあるそれを、ザルバとアンナリーナ、そして魔獣などの襲撃を警戒しながらゲルトとフランクも交代で食べた。
「はい、紅茶」
乗客たちの焚き火にいたゲルトにアンナリーナがミルクティーを運んだ。
後ろからフランクもついてきている。
行儀の悪い事に片手にロールサンド、もう片手に紅茶のカップを持っていた。
「おぅ、ありがとうよ」
すぐにフランクの持ったロールサンドが乗客たちの目にとまり、興味を示す者も出てくる。
今日は出発日という事で、宿屋から2食分の弁当を受け取っている。
これも所謂サンドイッチなのだが、黒パンに薫製肉やトマトを挟んだ簡単なものだ。
それを水や茶で流し込むのが通常なのだが、アンナリーナの作ったロールサンドは青菜やローストビーフ、玉子などにマヨネーズやグレービーソースがかかっている、いかにも美味しそうなものだ。
そして護衛の2人が持っているカップにはたっぷりのミルクが入ったミルクティー。
これも、いくら例年と比べて涼しい夏でも、ミルクを持ち歩くなど非常識にもほどがある。
「自分ら、随分と美味そうなもん食ってるじゃないか」
そして、こうして絡んでくるものもいる。
「フランク、ごめんけど私の姿が周りから見えないように覆って」
そう言って、座席を台にして何か作業を始めた。
ふんわりと甘い香りが漂う。
喉を鳴らしたフランクを笑い、後でおすそ分けしてあげるから我慢するように言うと、手早く手を動かした。
振り返ったアンナリーナの手には、今までフランクが見たこともないものを持っている。
「リーナ、それは?」
円柱形の、鮮やかな模様が描きこまれた、前世であれば見慣れたもの。
「菓子缶だよ。
フランク、ちょっと付き合って」
直径25cm、高さ10cmほどあるそれを小脇に抱え、アンナリーナは立ち上がる。
ぴょんぴょんと馬車のステップを降りてギルド出張所に向かった。
「すみません」
カウンターからやっと肩が出る程度の身長のアンナリーナが所長兼宿屋の主人に声を掛ける。
「あの、ちょっとお願いがあって……
これ、グレイストさんに渡して欲しいのですけど」
そう言って差し出された【菓子缶】を見て、所長は目を見張る。
見たところ金属のようだが彼にとって未知の物体だ。
詳しい事を問いただそうとした時、アンナリーナの姿はもうドアを出て行くところだった。
例の女はあまり金を持っていないのか、肉屋の出店はずいぶん商品を余らせていた。
「イゴルさんところのお品は間違いないもの。
もう誰も買いに来ないようなら全部、頂きます」
遠慮する女将に金貨1枚を押し付け、またフランクに目隠しになってもらって、アイテムバッグに放り込んでいく。
前回買っていなかった干し肉などが手にはいり、アンナリーナはまたホクホク顔だ。
今度こそ皆に別れを告げ、馬車に乗る。
「それでは皆さん、お待たせしました。これから出発させてもらいます。
遅れた分、休憩の数が減るかと思いますが、所用を訴えられた方は遠慮なく申し出て下さい」
なんのことはない、トイレはいつでも言ってくれ……と言うことだ。
フランクに、露骨に「漏らすなよ」と子供扱いされ思いっきり内腿をつねっておいた。
「?」
また、後ろの馬車が騒いでいる。
ザルバはそれを無視して出発した。
「おおぅ……結構揺れるね」
「リーナ、本当に初めて乗るんだな」
別に隔離している訳ではないが、他の客たちに慣れるまで、フランクはアンナリーナを皆から遮るように座って、窓から外を監視していた。
本来はザルバの隣に座って監視するのが彼の仕事である。
「お疲れ様です。昼の休憩です」
ゲルトがステップに降りてドアを開ける。それを見てアンナリーナは前世の乗り合いバスのようだと思った。
もちろん、手動でドアを開けていたのは彼女の祖父母の時代だったが。
「各自、昼食を摂って下さい。
休憩時間は少し長めに取ります」
ここは旅人などが休憩や宿泊に使う【中継地】と呼ばれる場所で、竃が設置され、焚き火がしやすいようになっている。
井戸もあるがこんなところの水を飲むものはいない。
ゲルトが火魔法を使って、手早く火を着けて回る。
アンナリーナも馬車の裏、ちょうど乗客からは死角になる場所で昼食の準備を始めた。
昼は簡単に作り置きしていたサンドイッチだ。
量も種類もたっぷりあるそれを、ザルバとアンナリーナ、そして魔獣などの襲撃を警戒しながらゲルトとフランクも交代で食べた。
「はい、紅茶」
乗客たちの焚き火にいたゲルトにアンナリーナがミルクティーを運んだ。
後ろからフランクもついてきている。
行儀の悪い事に片手にロールサンド、もう片手に紅茶のカップを持っていた。
「おぅ、ありがとうよ」
すぐにフランクの持ったロールサンドが乗客たちの目にとまり、興味を示す者も出てくる。
今日は出発日という事で、宿屋から2食分の弁当を受け取っている。
これも所謂サンドイッチなのだが、黒パンに薫製肉やトマトを挟んだ簡単なものだ。
それを水や茶で流し込むのが通常なのだが、アンナリーナの作ったロールサンドは青菜やローストビーフ、玉子などにマヨネーズやグレービーソースがかかっている、いかにも美味しそうなものだ。
そして護衛の2人が持っているカップにはたっぷりのミルクが入ったミルクティー。
これも、いくら例年と比べて涼しい夏でも、ミルクを持ち歩くなど非常識にもほどがある。
「自分ら、随分と美味そうなもん食ってるじゃないか」
そして、こうして絡んでくるものもいる。
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