66 / 577
第二章
45『グレイストへの置き土産と馬車の旅の始まり』
しおりを挟む
潔く馬車から出て行ったグレイストを見送りながら、憤ったりとか達観したりとか忙しかったアンナリーナが、急に思いついたように後ろを向いた。
「フランク、ごめんけど私の姿が周りから見えないように覆って」
そう言って、座席を台にして何か作業を始めた。
ふんわりと甘い香りが漂う。
喉を鳴らしたフランクを笑い、後でおすそ分けしてあげるから我慢するように言うと、手早く手を動かした。
振り返ったアンナリーナの手には、今までフランクが見たこともないものを持っている。
「リーナ、それは?」
円柱形の、鮮やかな模様が描きこまれた、前世であれば見慣れたもの。
「菓子缶だよ。
フランク、ちょっと付き合って」
直径25cm、高さ10cmほどあるそれを小脇に抱え、アンナリーナは立ち上がる。
ぴょんぴょんと馬車のステップを降りてギルド出張所に向かった。
「すみません」
カウンターからやっと肩が出る程度の身長のアンナリーナが所長兼宿屋の主人に声を掛ける。
「あの、ちょっとお願いがあって……
これ、グレイストさんに渡して欲しいのですけど」
そう言って差し出された【菓子缶】を見て、所長は目を見張る。
見たところ金属のようだが彼にとって未知の物体だ。
詳しい事を問いただそうとした時、アンナリーナの姿はもうドアを出て行くところだった。
例の女はあまり金を持っていないのか、肉屋の出店はずいぶん商品を余らせていた。
「イゴルさんところのお品は間違いないもの。
もう誰も買いに来ないようなら全部、頂きます」
遠慮する女将に金貨1枚を押し付け、またフランクに目隠しになってもらって、アイテムバッグに放り込んでいく。
前回買っていなかった干し肉などが手にはいり、アンナリーナはまたホクホク顔だ。
今度こそ皆に別れを告げ、馬車に乗る。
「それでは皆さん、お待たせしました。これから出発させてもらいます。
遅れた分、休憩の数が減るかと思いますが、所用を訴えられた方は遠慮なく申し出て下さい」
なんのことはない、トイレはいつでも言ってくれ……と言うことだ。
フランクに、露骨に「漏らすなよ」と子供扱いされ思いっきり内腿をつねっておいた。
「?」
また、後ろの馬車が騒いでいる。
ザルバはそれを無視して出発した。
「おおぅ……結構揺れるね」
「リーナ、本当に初めて乗るんだな」
別に隔離している訳ではないが、他の客たちに慣れるまで、フランクはアンナリーナを皆から遮るように座って、窓から外を監視していた。
本来はザルバの隣に座って監視するのが彼の仕事である。
「お疲れ様です。昼の休憩です」
ゲルトがステップに降りてドアを開ける。それを見てアンナリーナは前世の乗り合いバスのようだと思った。
もちろん、手動でドアを開けていたのは彼女の祖父母の時代だったが。
「各自、昼食を摂って下さい。
休憩時間は少し長めに取ります」
ここは旅人などが休憩や宿泊に使う【中継地】と呼ばれる場所で、竃が設置され、焚き火がしやすいようになっている。
井戸もあるがこんなところの水を飲むものはいない。
ゲルトが火魔法を使って、手早く火を着けて回る。
アンナリーナも馬車の裏、ちょうど乗客からは死角になる場所で昼食の準備を始めた。
昼は簡単に作り置きしていたサンドイッチだ。
量も種類もたっぷりあるそれを、ザルバとアンナリーナ、そして魔獣などの襲撃を警戒しながらゲルトとフランクも交代で食べた。
「はい、紅茶」
乗客たちの焚き火にいたゲルトにアンナリーナがミルクティーを運んだ。
後ろからフランクもついてきている。
行儀の悪い事に片手にロールサンド、もう片手に紅茶のカップを持っていた。
「おぅ、ありがとうよ」
すぐにフランクの持ったロールサンドが乗客たちの目にとまり、興味を示す者も出てくる。
今日は出発日という事で、宿屋から2食分の弁当を受け取っている。
これも所謂サンドイッチなのだが、黒パンに薫製肉やトマトを挟んだ簡単なものだ。
それを水や茶で流し込むのが通常なのだが、アンナリーナの作ったロールサンドは青菜やローストビーフ、玉子などにマヨネーズやグレービーソースがかかっている、いかにも美味しそうなものだ。
そして護衛の2人が持っているカップにはたっぷりのミルクが入ったミルクティー。
これも、いくら例年と比べて涼しい夏でも、ミルクを持ち歩くなど非常識にもほどがある。
「自分ら、随分と美味そうなもん食ってるじゃないか」
そして、こうして絡んでくるものもいる。
「フランク、ごめんけど私の姿が周りから見えないように覆って」
そう言って、座席を台にして何か作業を始めた。
ふんわりと甘い香りが漂う。
喉を鳴らしたフランクを笑い、後でおすそ分けしてあげるから我慢するように言うと、手早く手を動かした。
振り返ったアンナリーナの手には、今までフランクが見たこともないものを持っている。
「リーナ、それは?」
円柱形の、鮮やかな模様が描きこまれた、前世であれば見慣れたもの。
「菓子缶だよ。
フランク、ちょっと付き合って」
直径25cm、高さ10cmほどあるそれを小脇に抱え、アンナリーナは立ち上がる。
ぴょんぴょんと馬車のステップを降りてギルド出張所に向かった。
「すみません」
カウンターからやっと肩が出る程度の身長のアンナリーナが所長兼宿屋の主人に声を掛ける。
「あの、ちょっとお願いがあって……
これ、グレイストさんに渡して欲しいのですけど」
そう言って差し出された【菓子缶】を見て、所長は目を見張る。
見たところ金属のようだが彼にとって未知の物体だ。
詳しい事を問いただそうとした時、アンナリーナの姿はもうドアを出て行くところだった。
例の女はあまり金を持っていないのか、肉屋の出店はずいぶん商品を余らせていた。
「イゴルさんところのお品は間違いないもの。
もう誰も買いに来ないようなら全部、頂きます」
遠慮する女将に金貨1枚を押し付け、またフランクに目隠しになってもらって、アイテムバッグに放り込んでいく。
前回買っていなかった干し肉などが手にはいり、アンナリーナはまたホクホク顔だ。
今度こそ皆に別れを告げ、馬車に乗る。
「それでは皆さん、お待たせしました。これから出発させてもらいます。
遅れた分、休憩の数が減るかと思いますが、所用を訴えられた方は遠慮なく申し出て下さい」
なんのことはない、トイレはいつでも言ってくれ……と言うことだ。
フランクに、露骨に「漏らすなよ」と子供扱いされ思いっきり内腿をつねっておいた。
「?」
また、後ろの馬車が騒いでいる。
ザルバはそれを無視して出発した。
「おおぅ……結構揺れるね」
「リーナ、本当に初めて乗るんだな」
別に隔離している訳ではないが、他の客たちに慣れるまで、フランクはアンナリーナを皆から遮るように座って、窓から外を監視していた。
本来はザルバの隣に座って監視するのが彼の仕事である。
「お疲れ様です。昼の休憩です」
ゲルトがステップに降りてドアを開ける。それを見てアンナリーナは前世の乗り合いバスのようだと思った。
もちろん、手動でドアを開けていたのは彼女の祖父母の時代だったが。
「各自、昼食を摂って下さい。
休憩時間は少し長めに取ります」
ここは旅人などが休憩や宿泊に使う【中継地】と呼ばれる場所で、竃が設置され、焚き火がしやすいようになっている。
井戸もあるがこんなところの水を飲むものはいない。
ゲルトが火魔法を使って、手早く火を着けて回る。
アンナリーナも馬車の裏、ちょうど乗客からは死角になる場所で昼食の準備を始めた。
昼は簡単に作り置きしていたサンドイッチだ。
量も種類もたっぷりあるそれを、ザルバとアンナリーナ、そして魔獣などの襲撃を警戒しながらゲルトとフランクも交代で食べた。
「はい、紅茶」
乗客たちの焚き火にいたゲルトにアンナリーナがミルクティーを運んだ。
後ろからフランクもついてきている。
行儀の悪い事に片手にロールサンド、もう片手に紅茶のカップを持っていた。
「おぅ、ありがとうよ」
すぐにフランクの持ったロールサンドが乗客たちの目にとまり、興味を示す者も出てくる。
今日は出発日という事で、宿屋から2食分の弁当を受け取っている。
これも所謂サンドイッチなのだが、黒パンに薫製肉やトマトを挟んだ簡単なものだ。
それを水や茶で流し込むのが通常なのだが、アンナリーナの作ったロールサンドは青菜やローストビーフ、玉子などにマヨネーズやグレービーソースがかかっている、いかにも美味しそうなものだ。
そして護衛の2人が持っているカップにはたっぷりのミルクが入ったミルクティー。
これも、いくら例年と比べて涼しい夏でも、ミルクを持ち歩くなど非常識にもほどがある。
「自分ら、随分と美味そうなもん食ってるじゃないか」
そして、こうして絡んでくるものもいる。
4
あなたにおすすめの小説
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~
松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。
なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。
生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。
しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。
二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。
婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
【完結】 学園の聖女様はわたしを悪役令嬢にしたいようです
はくら(仮名)
ファンタジー
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にて掲載しています。
とある国のお話。
※
不定期更新。
本文は三人称文体です。
同作者の他作品との関連性はありません。
推敲せずに投稿しているので、おかしな箇所が多々あるかもしれません。
比較的短めに完結させる予定です。
※
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる