149 / 577
第三章
42『冒険者、個々の思い』
しおりを挟む
ぐったりとしている盗賊以外の者が唖然と、その姿を見ていた。
テントから出て、自分たちに声をかけて来たのは “ 少女 ”いや “ 女の子 ”と言っても良いほどの歳で、これほどこの場にそぐわない者はいない。
「あんたは……」
仕立ての良さそうなチュニックにレギンス、柔らかそうな皮のフラットシューズ。
手入れの行き届いた髪に白い肌……
どこを取ってみても、こんなダンジョンにいる存在ではない。
ここはもう8階層なのだ。
ただ、彼女が連れている魔獣を見て魔術師が真っ青になって震えだす。
魔法騎士や治癒師も顔色を変えた。
3mを超えるブラック・リザード。
6人パーティ全員が束になってかかっても歯が立たない存在の魔獣。
「あんた、どうやってこんな所まで……いや、そのブラック・リザードがいたら軽いものか」
アンナリーナは否定も肯定もしない。
「そんな事より、その人怪我してますよね?」
次の瞬間、魔術師が目を見開いてあたりを見回した。
見るからに、今までとは空気が違う。
「私の結界の外側にもう一つ、結界を張りました。
これで今夜はゆっくり眠れるでしょう?」
アンナリーナはにっこりと笑った。
「すぐそこにまでミノタウロスが来ています。このままでは危ないですからね……明朝10刻くらいまで保ちますけど、一度外に出るともう入れないですから気をつけて下さいね」
「済まない、感謝する」
リーダーが頭を下げる。
その様子に重戦士などは眉をひそめたが、頭を下げるだけで命が保証されるなら安いものだ。
「この結界の中で火を焚いても大丈夫ですよ。
あ、そうそう……よかったらこれ、召し上がって下さい」
フワフワとテントから出てきたジェリーフィッシュが、寸胴鍋を持っている。
「2食分くらいはあるでしょう。
お鍋は返して下さいね」
柔らかな物言いと愛想の良い物腰、だがその目が笑っていない事にリーダーは気づいていた。
見た目は少女ながら中身は達観した老女のような、言い知れない恐ろしさを感じる。
決して侮ってはならない相手だ。
「ああ、本当にありがとう」
「いいえ、どういたしまして。
じゃ、おやすみなさい」
アンナリーナは踵を返し、セトとアマルを引き連れテントに戻っていった。
アンナリーナの姿が見えなくなって、長い長い溜め息を吐き出したのは魔術師の男だった。
「いつもは浅慮なあなたが黙っていたのを褒めて差し上げますよ」
重戦士の男に対しての言葉も辛辣だ。
「何言ってるんだよ。
あんなガキ、身ぐるみ剥いじまおうぜ」
「しぃっ、何言ってるんですか。
きっと聞かれていますよ。
いい加減にして下さい」
重戦士の男はアンナリーナのテントを睥睨した。
「とにかく、好意はいただこう。
サフラの様子はどうだ?
それからロビン、回復系の備品の在庫はどうなってる?」
ロビンと呼ばれた治癒師の男が腰のポシェットに手を差し入れた。
実は彼、ロビンは治癒師としては壊滅的に魔力値が低い。
だが貴重な治癒師の為、大手クランに加入を許された。
現在はポーションと併用してパーティで活躍している。
「ポーションがあと10本しかありません。そろそろ引き返した方がいいと思います」
「待てよ! このもやし野郎!!
お前がしっかりすればもっと下まで潜れるんだ」
「しかしサフラさんだってまだ回復してない」
「それもお前が役立たずだからじゃないか」
外で始まった醜い諍いに、アンナリーナは顔を歪めた。
「……今夜は不測の事態に備えて、こっちで寝るかな。
しかし最低だね……」
テントから出て、自分たちに声をかけて来たのは “ 少女 ”いや “ 女の子 ”と言っても良いほどの歳で、これほどこの場にそぐわない者はいない。
「あんたは……」
仕立ての良さそうなチュニックにレギンス、柔らかそうな皮のフラットシューズ。
手入れの行き届いた髪に白い肌……
どこを取ってみても、こんなダンジョンにいる存在ではない。
ここはもう8階層なのだ。
ただ、彼女が連れている魔獣を見て魔術師が真っ青になって震えだす。
魔法騎士や治癒師も顔色を変えた。
3mを超えるブラック・リザード。
6人パーティ全員が束になってかかっても歯が立たない存在の魔獣。
「あんた、どうやってこんな所まで……いや、そのブラック・リザードがいたら軽いものか」
アンナリーナは否定も肯定もしない。
「そんな事より、その人怪我してますよね?」
次の瞬間、魔術師が目を見開いてあたりを見回した。
見るからに、今までとは空気が違う。
「私の結界の外側にもう一つ、結界を張りました。
これで今夜はゆっくり眠れるでしょう?」
アンナリーナはにっこりと笑った。
「すぐそこにまでミノタウロスが来ています。このままでは危ないですからね……明朝10刻くらいまで保ちますけど、一度外に出るともう入れないですから気をつけて下さいね」
「済まない、感謝する」
リーダーが頭を下げる。
その様子に重戦士などは眉をひそめたが、頭を下げるだけで命が保証されるなら安いものだ。
「この結界の中で火を焚いても大丈夫ですよ。
あ、そうそう……よかったらこれ、召し上がって下さい」
フワフワとテントから出てきたジェリーフィッシュが、寸胴鍋を持っている。
「2食分くらいはあるでしょう。
お鍋は返して下さいね」
柔らかな物言いと愛想の良い物腰、だがその目が笑っていない事にリーダーは気づいていた。
見た目は少女ながら中身は達観した老女のような、言い知れない恐ろしさを感じる。
決して侮ってはならない相手だ。
「ああ、本当にありがとう」
「いいえ、どういたしまして。
じゃ、おやすみなさい」
アンナリーナは踵を返し、セトとアマルを引き連れテントに戻っていった。
アンナリーナの姿が見えなくなって、長い長い溜め息を吐き出したのは魔術師の男だった。
「いつもは浅慮なあなたが黙っていたのを褒めて差し上げますよ」
重戦士の男に対しての言葉も辛辣だ。
「何言ってるんだよ。
あんなガキ、身ぐるみ剥いじまおうぜ」
「しぃっ、何言ってるんですか。
きっと聞かれていますよ。
いい加減にして下さい」
重戦士の男はアンナリーナのテントを睥睨した。
「とにかく、好意はいただこう。
サフラの様子はどうだ?
それからロビン、回復系の備品の在庫はどうなってる?」
ロビンと呼ばれた治癒師の男が腰のポシェットに手を差し入れた。
実は彼、ロビンは治癒師としては壊滅的に魔力値が低い。
だが貴重な治癒師の為、大手クランに加入を許された。
現在はポーションと併用してパーティで活躍している。
「ポーションがあと10本しかありません。そろそろ引き返した方がいいと思います」
「待てよ! このもやし野郎!!
お前がしっかりすればもっと下まで潜れるんだ」
「しかしサフラさんだってまだ回復してない」
「それもお前が役立たずだからじゃないか」
外で始まった醜い諍いに、アンナリーナは顔を歪めた。
「……今夜は不測の事態に備えて、こっちで寝るかな。
しかし最低だね……」
6
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@コミカライズ連載中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの
山田 バルス
ファンタジー
王宮の広間は、冷え切った空気に満ちていた。
玉座の前にひとり、少女が|跪い《ひざまず》ていた。
エリーゼ=アルセリア。
目の前に立つのは、王国第一王子、シャルル=レインハルト。
「─エリーゼ=アルセリア。貴様との婚約は、ここに破棄する」
「……なぜ、ですか……?」
声が震える。
彼女の問いに、王子は冷然と答えた。
「貴様が、カリーナ嬢をいじめたからだ」
「そ、そんな……! 私が、姉様を、いじめた……?」
「カリーナ嬢からすべて聞いている。お前は陰湿な手段で彼女を苦しめ、王家の威信をも|貶めた《おとし》さらに、王家に対する謀反を企てているとか」
広間にざわめきが広がる。
──すべて、仕組まれていたのだ。
「私は、姉様にも王家にも……そんなこと……していません……!」
必死に訴えるエリーゼの声は、虚しく広間に消えた。
「黙れ!」
シャルルの一喝が、広間に響き渡る。
「貴様のような下劣な女を、王家に迎え入れるわけにはいかぬ」
広間は、再び深い静寂に沈んだ。
「よって、貴様との婚約は破棄。さらに──」
王子は、無慈悲に言葉を重ねた。
「国外追放を命じる」
その宣告に、エリーゼの膝が崩れた。
「そ、そんな……!」
桃色の髪が広間に広がる。
必死にすがろうとするも、誰も助けようとはしなかった。
「王の不在時に|謀反《むほん》を企てる不届き者など不要。王国のためにもな」
シャルルの隣で、カリーナがくすりと笑った。
まるで、エリーゼの絶望を甘美な蜜のように味わうかのように。
なぜ。
なぜ、こんなことに──。
エリーゼは、震える指で自らの胸を掴む。
彼女はただ、幼い頃から姉に憧れ、姉に尽くし、姉を支えようとしていただけだったのに。
それが裏切りで返され、今、すべてを失おうとしている。
兵士たちが進み出る。
無骨な手で、エリーゼの両手を後ろ手に縛り上げた。
「離して、ください……っ」
必死に抵抗するも、力は弱い。。
誰も助けない。エリーゼは、見た。
カリーナが、微笑みながらシャルルに腕を絡め、勝者の顔でこちらを見下ろしているのを。
──すべては、最初から、こうなるよう仕組まれていたのだ。
重い扉が開かれる。
婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします
タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。
悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる