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第四章

34『ビーフシチューとアラーニェ』

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 ハルメトリア国の王都バルシュミーデ。
 そこの冒険者ギルド本部所属、副ギルドマスターのアルバイン・アベルコスヴァーは目の前で起きている事が信じられなかった。

 そもそも今回の件は、始まりから通常とは言えないものだった。
 昨年のある日、辺境のハンネケイナから届いた報せは、この世界では貴重な【錬金薬師】がこの王都に留学すると言うもの。
 アルバインは直接、この件には関わっていなかったのだが、色々な逸話が聞こえてきていた。
 そして一体、どのような存在なのか好奇心を刺激されていたところ、今回の獣魔の冒険者登録だ。
 ……彼女と初めて中央門で出会ったとき、まずその幼さに吃驚した。
 そして次は彼女の溢れ出る魔力の量と質にだ。
 なるほどこれなら【錬金薬師】でありながら【従魔魔法】を操り従魔を従えられると納得した。
 そしてその従魔も、ドラゴニュートとグレーオーガという稀有な存在たちだ。
 彼らがあっという間に昇級することは想像に難くない事だった。

 そして今日、トラブルを言い訳に無理やり護衛任務にねじ入ったのだが、はっきり言って自分の存在は要らなかったと思い始めていた。
 それは野営地に着いた時から始まっていた。

 テキパキと指図しながら、所謂【薬師のアイテムバッグ】から取り出される物、物、物。
 それらはとても野営の場所にあってよいものではない。
 テーブルに椅子、魔導コンロや作業台の上に鍋や食器が並べられていく。

「タイニスさんとアルバインさん、そしてサルバドールさんはこちらのテーブルに。
 軽い食前酒を用意しました」

 小ぶりのグラスに杏のホワイトリカー漬けを注ぎ、テーブルを離れる。

「やっぱり手が足りないな~
 ……ちょっと待ってて下さいね」

 そして取り出したのは一張りのテントだったのだが、さっさと入っていったアンナリーナがしばらくして出てきたときは、ひとりでは無かった。

 その人物は、王都に暮していて貴族とも面識のある彼らがお目にかかったことがないほどの美貌の女性だ。

「彼女はアラーニェ。私の従魔です」

 優雅なカーテシーで礼をしたアラーニェはすぐにアンナリーナに向き直った。

「急なお召しで、このようななりのままやって来てしまいましたが、よろしいですか?」

 今アラーニェは、いつもの普段着でシンプルだが質の良いドレスを着ている。

「うん、食事のお手伝いをお願いしたいだけだから。
 あと、夜の見張りも手伝って欲しいの」

「承知致しました」

 すぐに配膳の準備にかかる。
 その姿を男3人が呆然と見つめていた。

 3つのテーブルに分かれて、セトとテオドール以外が席に着く。
 とても野外での食事と思えないような料理の、食欲をそそる香りがする。

「リーナ殿、これは何ですかな?」

「ミノタウロスのモモ肉を使ったビーフシチューです。
 赤ワインをたっぷりと使ったシチューで、美味しいですよ」

 実はこのシチュー【異世界買物】で購入した、インスタントのルーを使って作ったものだ。
 アンソニーにあちらの料理に慣れてもらう為、昨日作ってもらった。
 彼は今、地球の料理に夢中なのだ。

「何と濃厚な……」

 匙でひとすくいして口に運んだアルバインは唸るようにそう言った。
 あまり行儀のよろしくないサルバドールはガツガツとシチューをかき込んでいる。

「お野菜も食べて下さいね。
 先日、サバベント侯爵家のアレクセイくんが、とっても美味しいって言ってくれたんですよ」

 旬のキャベツの蒸したものは、まだ湯気を立てている。

「トマトとチーズにはオリーブオイルをかけてあります。
 塩胡椒はこうしてね」

 それぞれ岩塩と胡椒の入ったミルを回す。

「こうすると挽きたての香りが楽しめるでしょう?お好みでどうぞ」

 そして、今夜のパンはしっかりとした食感のフランスパンだ。
 アンナリーナはそれをナイフで一口大に切り、シチューにつけて食べる。
 パンのサクサクした食感と濃厚な味のシチュー。

「ああ、美味しい」
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