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第四章
81『今年も、年越し大舞踏会』
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今年も大晦日の王宮での、年越し大舞踏会に参加する為、アンナリーナは前日に学院の寮に戻っていた。
ゆったりと、本を読みながら紅茶を嗜む。
その傍ではアラーニェが明日の準備の仕上げに忙しくしていた。
「アラーニェ、忙しくさせてごめんなさい……アラーニェだけでもこちらに残しておけばよかったわね」
そんな事は御免だ。
アラーニェは己の主人の側で、いついかなる時も控えていたい。
お世話していたいのだ。
「ちょくちょくこちらに戻っていましたので、ちゃんと仕上がっていたのですよ。もちろん今回も渾身の出来です」
アラーニェがその素晴らしい胸を張って、少し恥ずかしそうに笑みを浮かべる。
そしてこれから、大好きな主人を磨き上げる事に思いを馳せていた。
「本当に戻っていたのだな」
ユングクヴィストは開口一番、そう言った。
「あら、ユングクヴィスト様とは約束していましたでしょう?
少し遠征していますが、ちゃんと帰って参りましてよ?」
すでにすっかり社交界モードのアンナリーナは、従者の手を借りて馬車に乗り込んでいた。
ユングクヴィストは溜息している。
「王の執着を厭うのはわかる。
そなたが姿を消したことで、王も反省しておられるのだ」
「まあ……その事については私も過剰反応だったと思っています。
最悪、この国から出奔すれば良いのですが、今はまだ学院で勉強したいです」
やはりそのつもりだったかと、ユングクヴィストは胸の奥でほぞを噛んだ。
だから王と深く関わらせるのは反対だったのだ。
「でも今夜は楽しませていただきます。前回はできなかったダンスも……ダメですか?」
苦虫を噛み潰したようなユングクヴィストを見て、アンナリーナはシュンとする。
ユングクヴィストもう一度溜息を吐いた。
王宮の高位の従僕が、到着した参加者たちの名を滔々と呼び上げている。
その中でアンナリーナたちの名が呼ばれると、今年もどよめきが起きた。
今宵の、アラーニェの最高傑作のひとつ……アラクネ絹を光沢が出るように織り上げ、たっぷりフリルとレースとリボンを使った、今回はダンスをする事を重視したデザインだ。
あえて原色を使わず桃花色に染められたドレスにはたっぷりとメレダイヤが縫い付けられていた。
2人の進路の前が自然に割れて、苦労することなく王座へと向かい、アンナリーナは深々とカーテシーをする。
「ようこそ参ったな。
今宵はそなたを煩わせぬゆえ、楽しんでいって欲しい」
再び頭を下げたアンナリーナは早々に御前を辞し、ようやく重圧から解放された。
「リーナよ、伴侶殿はどうしておられる?」
「熊さんは、今夜はクランの方々と年越し宴会です。
そちらも楽しそうですが、彼は今年も私と過ごせない事を拗ねています」
ユングクヴィストはしばし考える。
「伴侶殿は確か……A級冒険者であったか?SS級になれば貴族と同じ扱いて招待される事になるだろう」
「そうなのですか?
実は今年S級に上がったのですよ。
ひょっとしたら来年は一緒に来れるかもしれませんね」
アンナリーナは嬉しそうだ。
こんなところは年相応の少女、なのだが。
ファーストダンスは去年と同様ユングクヴィストと踊り、あとは申し込まれるまま、くるくると踊る。
その時々のパートナーたちも、アンナリーナに気を遣って無難な会話しかしてこないが、それなりに楽しめていたアンナリーナだった。
その曲が終わり、礼をして別れたアンナリーナの前に、背の高い男が立ちはだかった。
「陛下……」
「その……私とも踊ってもらえるだろうか?」
ずいぶんと下手に出た誘い方だが、アンナリーナに拒否できるはずがない。
小さく頷くと、途端に喜色を浮かべた王がホールドしてくる。
ゆったりと、本を読みながら紅茶を嗜む。
その傍ではアラーニェが明日の準備の仕上げに忙しくしていた。
「アラーニェ、忙しくさせてごめんなさい……アラーニェだけでもこちらに残しておけばよかったわね」
そんな事は御免だ。
アラーニェは己の主人の側で、いついかなる時も控えていたい。
お世話していたいのだ。
「ちょくちょくこちらに戻っていましたので、ちゃんと仕上がっていたのですよ。もちろん今回も渾身の出来です」
アラーニェがその素晴らしい胸を張って、少し恥ずかしそうに笑みを浮かべる。
そしてこれから、大好きな主人を磨き上げる事に思いを馳せていた。
「本当に戻っていたのだな」
ユングクヴィストは開口一番、そう言った。
「あら、ユングクヴィスト様とは約束していましたでしょう?
少し遠征していますが、ちゃんと帰って参りましてよ?」
すでにすっかり社交界モードのアンナリーナは、従者の手を借りて馬車に乗り込んでいた。
ユングクヴィストは溜息している。
「王の執着を厭うのはわかる。
そなたが姿を消したことで、王も反省しておられるのだ」
「まあ……その事については私も過剰反応だったと思っています。
最悪、この国から出奔すれば良いのですが、今はまだ学院で勉強したいです」
やはりそのつもりだったかと、ユングクヴィストは胸の奥でほぞを噛んだ。
だから王と深く関わらせるのは反対だったのだ。
「でも今夜は楽しませていただきます。前回はできなかったダンスも……ダメですか?」
苦虫を噛み潰したようなユングクヴィストを見て、アンナリーナはシュンとする。
ユングクヴィストもう一度溜息を吐いた。
王宮の高位の従僕が、到着した参加者たちの名を滔々と呼び上げている。
その中でアンナリーナたちの名が呼ばれると、今年もどよめきが起きた。
今宵の、アラーニェの最高傑作のひとつ……アラクネ絹を光沢が出るように織り上げ、たっぷりフリルとレースとリボンを使った、今回はダンスをする事を重視したデザインだ。
あえて原色を使わず桃花色に染められたドレスにはたっぷりとメレダイヤが縫い付けられていた。
2人の進路の前が自然に割れて、苦労することなく王座へと向かい、アンナリーナは深々とカーテシーをする。
「ようこそ参ったな。
今宵はそなたを煩わせぬゆえ、楽しんでいって欲しい」
再び頭を下げたアンナリーナは早々に御前を辞し、ようやく重圧から解放された。
「リーナよ、伴侶殿はどうしておられる?」
「熊さんは、今夜はクランの方々と年越し宴会です。
そちらも楽しそうですが、彼は今年も私と過ごせない事を拗ねています」
ユングクヴィストはしばし考える。
「伴侶殿は確か……A級冒険者であったか?SS級になれば貴族と同じ扱いて招待される事になるだろう」
「そうなのですか?
実は今年S級に上がったのですよ。
ひょっとしたら来年は一緒に来れるかもしれませんね」
アンナリーナは嬉しそうだ。
こんなところは年相応の少女、なのだが。
ファーストダンスは去年と同様ユングクヴィストと踊り、あとは申し込まれるまま、くるくると踊る。
その時々のパートナーたちも、アンナリーナに気を遣って無難な会話しかしてこないが、それなりに楽しめていたアンナリーナだった。
その曲が終わり、礼をして別れたアンナリーナの前に、背の高い男が立ちはだかった。
「陛下……」
「その……私とも踊ってもらえるだろうか?」
ずいぶんと下手に出た誘い方だが、アンナリーナに拒否できるはずがない。
小さく頷くと、途端に喜色を浮かべた王がホールドしてくる。
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