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第四章
166『市場にて』
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結局、翌日もキャセロールを取り置いてもらう事となり、内金を入れて店を後にする。
そのあとは、とりわけアンナリーナの興味を誘ったものはなく、屋台の串焼きを買い食いし、気に入ったら大人買いをしての繰り返しを行なっていた。
「熊さん、このお肉は……なんだろう? オークに似ている気もするけど」
「お嬢さん、これは魔獣ではなく森に繁殖しているイノーブタという種なんだよ」
【イノーブタ】初めて聞く獣だ。
だがおそらく、前世の猪豚と同じ種だろう。
「猪の獣臭さがなくて、脂がのってる。おじさん、これって肉屋で買えるのかしら?」
「ああ、この町の肉屋ならどこでも売っているよ」
「ありがとう。
おじさん、もし問題なければあるだけ買わせていただきたいのですが」
「本当かい?
もちろん大歓迎だよ。どんどん焼いていくが、構わないのかい?」
「では、よろしく。
ひと回りしてくるので、お願いします。それから他のお客さんが来たらその人にも売ってあげてね。
……残りは全部いただきます」
テオドールは、アンナリーナのいつもの節操のない買い方に呆れはてていたが、実は今回アンナリーナが注目していたのは肉だけではなかった。
『あのジューシーなつけダレは何を原材料にしているのだろう。
甘みは果実系だと思うのだけど……
アンソニーなら再現できるかしら』
次は肉屋に突進である。
目当てはもちろん【イノーブタ】である。
「解体前の現物を拝見したいのですが、可能ですか?」
「イノーブタを? あんた変わってるね。こっちだよ、おいで」
店の裏にある解体場で吊るされていた “ それ ”は、まさしく前世の猪豚だった。
アンナリーナは考える。
これはひょっとして、町の人間が忘れてしまうほど昔に、猪と豚を掛け合わせて品種改良した者がいたのではないだろうか。
前世の猪豚は放っておくと猪に近い種に戻ってしまうのだが、こちらのイノーブタは固定種になったようだ。
それが何かの折に逃げ出して、森で繁殖するようになったのだろう。
アンナリーナはとりあえず一頭分の肉を買って、串焼き屋に戻ってきた。
すると屋台の前には長蛇の列ができていて……大繁盛している。
アンナリーナの姿を見つけた店主は、困ったように眉尻を下げた。
「嬢ちゃん、すまねえ」
「大丈夫だよ、どんどん売っていって」
行列をみた通行人が列に並ぶ相乗効果で、串焼き屋は嬉しい悲鳴を上げている。
「嬢ちゃんたちもこの町に足留めされてるのかい」
声をかけてきたのはこの学研都市に連れてきてくれた乗り合い馬車の御者、ダマスクで、一緒にいたのは護衛で冒険者のマルセル、ダン、シーメイ、ワライアの4人組だ。
「ダマスクさん!? どうしてここに?」
思わぬ再会に、アンナリーナは破顔した。
冒険者たちも手を上げて挨拶してくる。
「そうか、知らなかったんだな。
実は俺たちは、アシードと王都の中間地点であるここで交代するんだ。
ここまで約ひと月、馬も俺たちも疲れが溜まっちまうだろう?
大体5日くらい休息して、また他のグループと交代するんだ」
「今回はそれが幸いしたけどな」
マルセルの説明に、いつもは無口なシーメイが呟いた。
「俺たちが乗っていた馬車が、ここを出発した後、行方不明になったんだ」
まさかの、今現在乗り合い馬車が運行停止になっている原因の情報だった。
「そうだったんだ……運行再開のめどは?」
シャルメンタルは、乗り合い馬車の件には言及していなかった。
「うちは客もやられているからなぁ」
ダマスクの表情は暗い。
「え? 馬車の乗客……?」
「ああ、馬車や馬、御者も護衛も客も一切合切ドロンだよ。
蹄鉄ひとつ見つかってない」
アンナリーナが発見した隊商の様子とはあまりに違う状況に、首を捻った。
そのあとは、とりわけアンナリーナの興味を誘ったものはなく、屋台の串焼きを買い食いし、気に入ったら大人買いをしての繰り返しを行なっていた。
「熊さん、このお肉は……なんだろう? オークに似ている気もするけど」
「お嬢さん、これは魔獣ではなく森に繁殖しているイノーブタという種なんだよ」
【イノーブタ】初めて聞く獣だ。
だがおそらく、前世の猪豚と同じ種だろう。
「猪の獣臭さがなくて、脂がのってる。おじさん、これって肉屋で買えるのかしら?」
「ああ、この町の肉屋ならどこでも売っているよ」
「ありがとう。
おじさん、もし問題なければあるだけ買わせていただきたいのですが」
「本当かい?
もちろん大歓迎だよ。どんどん焼いていくが、構わないのかい?」
「では、よろしく。
ひと回りしてくるので、お願いします。それから他のお客さんが来たらその人にも売ってあげてね。
……残りは全部いただきます」
テオドールは、アンナリーナのいつもの節操のない買い方に呆れはてていたが、実は今回アンナリーナが注目していたのは肉だけではなかった。
『あのジューシーなつけダレは何を原材料にしているのだろう。
甘みは果実系だと思うのだけど……
アンソニーなら再現できるかしら』
次は肉屋に突進である。
目当てはもちろん【イノーブタ】である。
「解体前の現物を拝見したいのですが、可能ですか?」
「イノーブタを? あんた変わってるね。こっちだよ、おいで」
店の裏にある解体場で吊るされていた “ それ ”は、まさしく前世の猪豚だった。
アンナリーナは考える。
これはひょっとして、町の人間が忘れてしまうほど昔に、猪と豚を掛け合わせて品種改良した者がいたのではないだろうか。
前世の猪豚は放っておくと猪に近い種に戻ってしまうのだが、こちらのイノーブタは固定種になったようだ。
それが何かの折に逃げ出して、森で繁殖するようになったのだろう。
アンナリーナはとりあえず一頭分の肉を買って、串焼き屋に戻ってきた。
すると屋台の前には長蛇の列ができていて……大繁盛している。
アンナリーナの姿を見つけた店主は、困ったように眉尻を下げた。
「嬢ちゃん、すまねえ」
「大丈夫だよ、どんどん売っていって」
行列をみた通行人が列に並ぶ相乗効果で、串焼き屋は嬉しい悲鳴を上げている。
「嬢ちゃんたちもこの町に足留めされてるのかい」
声をかけてきたのはこの学研都市に連れてきてくれた乗り合い馬車の御者、ダマスクで、一緒にいたのは護衛で冒険者のマルセル、ダン、シーメイ、ワライアの4人組だ。
「ダマスクさん!? どうしてここに?」
思わぬ再会に、アンナリーナは破顔した。
冒険者たちも手を上げて挨拶してくる。
「そうか、知らなかったんだな。
実は俺たちは、アシードと王都の中間地点であるここで交代するんだ。
ここまで約ひと月、馬も俺たちも疲れが溜まっちまうだろう?
大体5日くらい休息して、また他のグループと交代するんだ」
「今回はそれが幸いしたけどな」
マルセルの説明に、いつもは無口なシーメイが呟いた。
「俺たちが乗っていた馬車が、ここを出発した後、行方不明になったんだ」
まさかの、今現在乗り合い馬車が運行停止になっている原因の情報だった。
「そうだったんだ……運行再開のめどは?」
シャルメンタルは、乗り合い馬車の件には言及していなかった。
「うちは客もやられているからなぁ」
ダマスクの表情は暗い。
「え? 馬車の乗客……?」
「ああ、馬車や馬、御者も護衛も客も一切合切ドロンだよ。
蹄鉄ひとつ見つかってない」
アンナリーナが発見した隊商の様子とはあまりに違う状況に、首を捻った。
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