462 / 577
第四章
222『大陸に向かって飛ぶ竜』
しおりを挟む
船上は阿鼻叫喚の極みだった。
こうなればもう、船の沈没は避けられない。
船長たちは我に返ると海上に木箱などを投げ込み始めた。
これで、運の良いものは船とその運命を共にしなくて済むだろう。
ただ、その後と言えば……絶望的だが。
その時、ただならぬ気配に振り返った船長は、その場から飛び立とうとするドラゴンを見た。
漆黒のドラゴンは素早く上空に昇り、まるで、沈みゆくこの船を見守るように一周すると、さらに高度を上げて飛び去ってしまった。
あちこちで小さな爆発が続き、とうとう船体が傾き始めた。
すすり泣きや怒号が響き、この船はたくさんの人間を道連れにして水中に没しようとしている。
そこで初めて船長は、あの風変わりな少女とその一行の事を思い出した。
「姿を見てない」
あれほど目立つ4人の、誰一人その姿を見かけていない事が不自然だと、ふと思った。
そして上空の、今ではもうほとんど姿の見えない漆黒のドラゴンを思った。
「ドラゴン……そうか」
上位竜の中にはドラゴニュートに変化出来る個体もいると言う。
あの、少々浮世離れした御仁がそうだったのかもしれない。
「そうか、ドラゴンか」
今はもう船体が二つに折れ、あとは沈んでいくばかりの船から、船長は遥か遠くの大陸に想いを馳せた。
「無事、着けるといいな」
旅程を3分の2こなしたとはいえ、船でひと月の距離と言うのは半端な距離ではない。
いくらドラゴンとはいえ到着出来るのは五分五分だろう。
そして船長はもうすぐ訪れるだろう自分の運命が、十中八九海の藻屑と消えるのを理解している。
「リーナ嬢、元気で!」
大陸に向かっていた定期船は途中【悪食の魔獣】に襲われ、その運命を閉じた。
船とともにその命を散らしたのはアンナリーナたちを除いた、乗客、船員の全員……生存者はいなかった。
大陸の方向に飛び始めて見えるのは、青い海と白い波頭。
アンナリーナがセトに抱かれて飛び立ってから一昼夜が経っていた。
島影ひとつ見えず単調な時間、それでもアンナリーナたちは船長に見せてもらった地図の方向に、少しのズレもなく向かっていた。
そして彼女は昨夜、久しぶりに【魔力倍増】を行使した。
同時にセトも魔力値と体力値をかさ上げし、これからの旅に備える。
彼はこれから、羽を休める事も寝る事も出来ずに、ただ大陸を目指すのだ。
「せめて島でもあればいいのだけど」
アンナリーナはセトによって守られているが、セトの負担は計り知れない。
「主人、大丈夫です。
俺は主人の黒竜ですから」
アンナリーナに出来ることはインベントリから新鮮な肉を取り出し、セトに与える事だけだ。
そして食べ物だけでなくアンナリーナから与えるものはもうひとつある。
それは【魔力】だ。
アンナリーナは自らの魔力をセトに渡し、セトは自らの魔力とアンナリーナの魔力で、不眠不休で飛び続けた。
それが、もうそろそろ10日になる。
さすがのセトも、昨日くらいから飛ぶ速度が落ちてきた。
ここまで島影ひとつなく、セトの疲れも目に見えてきて、アンナリーナはそろそろ決断を迫られていた。
これはテオドールとの約束、空中からツリーハウスに転移するのだ。
「セト、今回は諦めよう?
大陸に向かう手段はいくつもあるよ。
セト、聞いてる?」
セトからは返事もなく、鬼気迫った雰囲気だ。
「……主人、あともう1日、このままでお願いしたい」
セトは野生の勘で何かを感じているのだろう。
アンナリーナも【探査】の範囲を最大限に広げ、魔力を行き渡らせた。
それが、どれほど続いただろう。
目を閉じて集中していたアンナリーナの方がピクリと動いた。
「あ……」
「主人?」
アンナリーナの震える手がゆるゆると持ち上がり、人差し指が進路を指し示した。
「見えたよ、セト!
このまま真っ直ぐ……陸地が、大陸がある」
こうなればもう、船の沈没は避けられない。
船長たちは我に返ると海上に木箱などを投げ込み始めた。
これで、運の良いものは船とその運命を共にしなくて済むだろう。
ただ、その後と言えば……絶望的だが。
その時、ただならぬ気配に振り返った船長は、その場から飛び立とうとするドラゴンを見た。
漆黒のドラゴンは素早く上空に昇り、まるで、沈みゆくこの船を見守るように一周すると、さらに高度を上げて飛び去ってしまった。
あちこちで小さな爆発が続き、とうとう船体が傾き始めた。
すすり泣きや怒号が響き、この船はたくさんの人間を道連れにして水中に没しようとしている。
そこで初めて船長は、あの風変わりな少女とその一行の事を思い出した。
「姿を見てない」
あれほど目立つ4人の、誰一人その姿を見かけていない事が不自然だと、ふと思った。
そして上空の、今ではもうほとんど姿の見えない漆黒のドラゴンを思った。
「ドラゴン……そうか」
上位竜の中にはドラゴニュートに変化出来る個体もいると言う。
あの、少々浮世離れした御仁がそうだったのかもしれない。
「そうか、ドラゴンか」
今はもう船体が二つに折れ、あとは沈んでいくばかりの船から、船長は遥か遠くの大陸に想いを馳せた。
「無事、着けるといいな」
旅程を3分の2こなしたとはいえ、船でひと月の距離と言うのは半端な距離ではない。
いくらドラゴンとはいえ到着出来るのは五分五分だろう。
そして船長はもうすぐ訪れるだろう自分の運命が、十中八九海の藻屑と消えるのを理解している。
「リーナ嬢、元気で!」
大陸に向かっていた定期船は途中【悪食の魔獣】に襲われ、その運命を閉じた。
船とともにその命を散らしたのはアンナリーナたちを除いた、乗客、船員の全員……生存者はいなかった。
大陸の方向に飛び始めて見えるのは、青い海と白い波頭。
アンナリーナがセトに抱かれて飛び立ってから一昼夜が経っていた。
島影ひとつ見えず単調な時間、それでもアンナリーナたちは船長に見せてもらった地図の方向に、少しのズレもなく向かっていた。
そして彼女は昨夜、久しぶりに【魔力倍増】を行使した。
同時にセトも魔力値と体力値をかさ上げし、これからの旅に備える。
彼はこれから、羽を休める事も寝る事も出来ずに、ただ大陸を目指すのだ。
「せめて島でもあればいいのだけど」
アンナリーナはセトによって守られているが、セトの負担は計り知れない。
「主人、大丈夫です。
俺は主人の黒竜ですから」
アンナリーナに出来ることはインベントリから新鮮な肉を取り出し、セトに与える事だけだ。
そして食べ物だけでなくアンナリーナから与えるものはもうひとつある。
それは【魔力】だ。
アンナリーナは自らの魔力をセトに渡し、セトは自らの魔力とアンナリーナの魔力で、不眠不休で飛び続けた。
それが、もうそろそろ10日になる。
さすがのセトも、昨日くらいから飛ぶ速度が落ちてきた。
ここまで島影ひとつなく、セトの疲れも目に見えてきて、アンナリーナはそろそろ決断を迫られていた。
これはテオドールとの約束、空中からツリーハウスに転移するのだ。
「セト、今回は諦めよう?
大陸に向かう手段はいくつもあるよ。
セト、聞いてる?」
セトからは返事もなく、鬼気迫った雰囲気だ。
「……主人、あともう1日、このままでお願いしたい」
セトは野生の勘で何かを感じているのだろう。
アンナリーナも【探査】の範囲を最大限に広げ、魔力を行き渡らせた。
それが、どれほど続いただろう。
目を閉じて集中していたアンナリーナの方がピクリと動いた。
「あ……」
「主人?」
アンナリーナの震える手がゆるゆると持ち上がり、人差し指が進路を指し示した。
「見えたよ、セト!
このまま真っ直ぐ……陸地が、大陸がある」
4
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@コミカライズ連載中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
留学してたら、愚昧がやらかした件。
庭にハニワ
ファンタジー
バカだアホだ、と思っちゃいたが、本当に愚かしい妹。老害と化した祖父母に甘やかし放題されて、聖女気取りで日々暮らしてるらしい。どうしてくれよう……。
R−15は基本です。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる