魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん

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第四章

222『大陸に向かって飛ぶ竜』

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 船上は阿鼻叫喚の極みだった。
 こうなればもう、船の沈没は避けられない。
 船長たちは我に返ると海上に木箱などを投げ込み始めた。
 これで、運の良いものは船とその運命を共にしなくて済むだろう。
 ただ、その後と言えば……絶望的だが。


 その時、ただならぬ気配に振り返った船長は、その場から飛び立とうとするドラゴンを見た。
 漆黒のドラゴンは素早く上空に昇り、まるで、沈みゆくこの船を見守るように一周すると、さらに高度を上げて飛び去ってしまった。

 あちこちで小さな爆発が続き、とうとう船体が傾き始めた。
 すすり泣きや怒号が響き、この船はたくさんの人間を道連れにして水中に没しようとしている。
 そこで初めて船長は、あの風変わりな少女とその一行の事を思い出した。

「姿を見てない」

 あれほど目立つ4人の、誰一人その姿を見かけていない事が不自然だと、ふと思った。
 そして上空の、今ではもうほとんど姿の見えない漆黒のドラゴンを思った。

「ドラゴン……そうか」

 上位竜の中にはドラゴニュートに変化出来る個体もいると言う。
 あの、少々浮世離れした御仁がそうだったのかもしれない。

「そうか、ドラゴンか」

 今はもう船体が二つに折れ、あとは沈んでいくばかりの船から、船長は遥か遠くの大陸に想いを馳せた。

「無事、着けるといいな」

 旅程を3分の2こなしたとはいえ、船でひと月の距離と言うのは半端な距離ではない。
 いくらドラゴンとはいえ到着出来るのは五分五分だろう。
 そして船長はもうすぐ訪れるだろう自分の運命が、十中八九海の藻屑と消えるのを理解している。

「リーナ嬢、元気で!」


 大陸に向かっていた定期船は途中【悪食の魔獣】に襲われ、その運命を閉じた。
 船とともにその命を散らしたのはアンナリーナたちを除いた、乗客、船員の全員……生存者はいなかった。




 大陸の方向に飛び始めて見えるのは、青い海と白い波頭。
 アンナリーナがセトに抱かれて飛び立ってから一昼夜が経っていた。
 島影ひとつ見えず単調な時間、それでもアンナリーナたちは船長に見せてもらった地図の方向に、少しのズレもなく向かっていた。
 そして彼女は昨夜、久しぶりに【魔力倍増】を行使した。
 同時にセトも魔力値と体力値をかさ上げし、これからの旅に備える。
 彼はこれから、羽を休める事も寝る事も出来ずに、ただ大陸を目指すのだ。

「せめて島でもあればいいのだけど」

 アンナリーナはセトによって守られているが、セトの負担は計り知れない。

「主人、大丈夫です。
 俺は主人の黒竜ですから」

 アンナリーナに出来ることはインベントリから新鮮な肉を取り出し、セトに与える事だけだ。
 そして食べ物だけでなくアンナリーナから与えるものはもうひとつある。
 それは【魔力】だ。
 アンナリーナは自らの魔力をセトに渡し、セトは自らの魔力とアンナリーナの魔力で、不眠不休で飛び続けた。
 それが、もうそろそろ10日になる。

 さすがのセトも、昨日くらいから飛ぶ速度が落ちてきた。
 ここまで島影ひとつなく、セトの疲れも目に見えてきて、アンナリーナはそろそろ決断を迫られていた。
 これはテオドールとの約束、空中からツリーハウスに転移するのだ。

「セト、今回は諦めよう?
 大陸に向かう手段はいくつもあるよ。
 セト、聞いてる?」

 セトからは返事もなく、鬼気迫った雰囲気だ。

「……主人、あともう1日、このままでお願いしたい」

 セトは野生の勘で何かを感じているのだろう。
 アンナリーナも【探査】の範囲を最大限に広げ、魔力を行き渡らせた。

 それが、どれほど続いただろう。
 目を閉じて集中していたアンナリーナの方がピクリと動いた。

「あ……」

「主人?」

 アンナリーナの震える手がゆるゆると持ち上がり、人差し指が進路を指し示した。

「見えたよ、セト!
 このまま真っ直ぐ……陸地が、大陸がある」

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