509 / 577
第四章
269『ピンチ!!』
しおりを挟む
激しい痛みに息をするのもままならない。
アンナリーナは歯を食いしばりながら思念した。
『【回復】【回復】【回復】』
すぐに治癒魔法が効き始め、痛みが消えて呼吸が楽になる。
折れていたであろう肋骨が肺を傷つけていたのだろう。アンナリーナの口の中は血の味がした。
「リーナ!」
真っ青に顔色を変えたテオドールが、アンナリーナを横たえようとする。
その手を遮るようにしてアンナリーナはかぶりを振り【劣化版アムリタ】を取り出して一気にあおった。
……全身の細胞が活性化していく感じがする。
今まで何本も作ってきたこの回復薬だが、自分が口にするのは初めてであった。
「これは……すごい効き目ね」
【回復】をかけた後も残っていた違和感が一瞬にして消え、痛んでいた胸を触っても、深呼吸をしてみても何もない。
「心配かけてごめん。
もう治療したから大丈夫。
それよりも、今の攻撃をしてきた魔獣の方が問題だよ」
アンナリーナは慎重に探査をかけた。
目の前に浮かぶマップのディスプレイには複数の赤い点が展開している。
その中で目に見える魔獣と赤い点を重ねていくと、一点、姿が見えないのに赤い点が点る場所がある。
『これは……カメレオンのような習性を持つ魔獣なのかしら。
前世の私の生きていた時代では空想科学だった【光学迷彩】のようなもの?』
アンナリーナはその対象に向かって【風刃】を放った。
その瞬間、何かを切り裂いた音がして、徐々に現れたのは4m近くあるカメレオンにそっくりな魔獣だ。
「これは……見たことのない魔獣だな」
首を切断されて、完全に事切れた魔獣の側にしゃがみこみ、テオドールが検証している。
アンナリーナに屠られる瞬間、攻撃しようとしていたのか、その長い舌が地面に投げ出されている。
「これにやられたみたいね。
ある意味単純な打撃攻撃だけで助かったかな」
先に進む事に重きを置いて、防御が疎かになっていたのは反省するべきだ。
アンナリーナは周囲に強めの結界を張って、それを徐々に広げていった。
「広範囲【真空】レベル2」
周囲の空気が凍りついた感じがした。
その階層に潜んでいた魔獣だけでなく、全体に生える植物までその効果は及び、あるものは枯れ果て、あるものは粉砕されている。
「イジ、セト。悪いけど取り込まれないうちに回収してきてくれるかな。
特にあのカメレオン擬き、すごく関心があるの」
「リーナ。
今日はもうここで野営をしたらどうだろうか?」
テオドールの提案には一理ある。
「そうだね」
アンナリーナは左腕の時計を見て、時間を確認した。
「うん、もう夕方の5時。
1日目としてはまあまあな時間だね。
ちょうど良い平地だし、馬車を出すよ」
この場での野営が始まった。
「あのカメレオン擬きには結界を弱体化する能力があるのかもしれない。
一番外側に通常の結界をネロに張ってもらって観察しよう。
今夜は気を抜けない夜になるけど、ツリーハウスからも応援を呼ぶので、皆十分に休息を取ってね」
アンナリーナが負傷した……と聞いて、一番取り乱したのはアラーニェだった。それと、言葉は発しないがアマルが傍らから離れようとしない。
「リーナ様、明日からはこのアラーニェもお連れ下さい」
涙ながらに縋るアラーニェの姿は、何も知らない男ならグッと来るものだろう。だが彼女の心の中で激しく燃え盛るものはすべてアンナリーナに捧げられている。
そしてアマルは、その触手でアンナリーナの身体に触れて、患部であった胸部を弄っている。
「アマル~
もう怪我は大丈夫だから。
念のため、アムリタも飲んだから~」
元々脆弱なヒトの身体だ。
特に肺が傷ついていたのは、他の冒険者なら致命傷であっただろう。
アンナリーナは歯を食いしばりながら思念した。
『【回復】【回復】【回復】』
すぐに治癒魔法が効き始め、痛みが消えて呼吸が楽になる。
折れていたであろう肋骨が肺を傷つけていたのだろう。アンナリーナの口の中は血の味がした。
「リーナ!」
真っ青に顔色を変えたテオドールが、アンナリーナを横たえようとする。
その手を遮るようにしてアンナリーナはかぶりを振り【劣化版アムリタ】を取り出して一気にあおった。
……全身の細胞が活性化していく感じがする。
今まで何本も作ってきたこの回復薬だが、自分が口にするのは初めてであった。
「これは……すごい効き目ね」
【回復】をかけた後も残っていた違和感が一瞬にして消え、痛んでいた胸を触っても、深呼吸をしてみても何もない。
「心配かけてごめん。
もう治療したから大丈夫。
それよりも、今の攻撃をしてきた魔獣の方が問題だよ」
アンナリーナは慎重に探査をかけた。
目の前に浮かぶマップのディスプレイには複数の赤い点が展開している。
その中で目に見える魔獣と赤い点を重ねていくと、一点、姿が見えないのに赤い点が点る場所がある。
『これは……カメレオンのような習性を持つ魔獣なのかしら。
前世の私の生きていた時代では空想科学だった【光学迷彩】のようなもの?』
アンナリーナはその対象に向かって【風刃】を放った。
その瞬間、何かを切り裂いた音がして、徐々に現れたのは4m近くあるカメレオンにそっくりな魔獣だ。
「これは……見たことのない魔獣だな」
首を切断されて、完全に事切れた魔獣の側にしゃがみこみ、テオドールが検証している。
アンナリーナに屠られる瞬間、攻撃しようとしていたのか、その長い舌が地面に投げ出されている。
「これにやられたみたいね。
ある意味単純な打撃攻撃だけで助かったかな」
先に進む事に重きを置いて、防御が疎かになっていたのは反省するべきだ。
アンナリーナは周囲に強めの結界を張って、それを徐々に広げていった。
「広範囲【真空】レベル2」
周囲の空気が凍りついた感じがした。
その階層に潜んでいた魔獣だけでなく、全体に生える植物までその効果は及び、あるものは枯れ果て、あるものは粉砕されている。
「イジ、セト。悪いけど取り込まれないうちに回収してきてくれるかな。
特にあのカメレオン擬き、すごく関心があるの」
「リーナ。
今日はもうここで野営をしたらどうだろうか?」
テオドールの提案には一理ある。
「そうだね」
アンナリーナは左腕の時計を見て、時間を確認した。
「うん、もう夕方の5時。
1日目としてはまあまあな時間だね。
ちょうど良い平地だし、馬車を出すよ」
この場での野営が始まった。
「あのカメレオン擬きには結界を弱体化する能力があるのかもしれない。
一番外側に通常の結界をネロに張ってもらって観察しよう。
今夜は気を抜けない夜になるけど、ツリーハウスからも応援を呼ぶので、皆十分に休息を取ってね」
アンナリーナが負傷した……と聞いて、一番取り乱したのはアラーニェだった。それと、言葉は発しないがアマルが傍らから離れようとしない。
「リーナ様、明日からはこのアラーニェもお連れ下さい」
涙ながらに縋るアラーニェの姿は、何も知らない男ならグッと来るものだろう。だが彼女の心の中で激しく燃え盛るものはすべてアンナリーナに捧げられている。
そしてアマルは、その触手でアンナリーナの身体に触れて、患部であった胸部を弄っている。
「アマル~
もう怪我は大丈夫だから。
念のため、アムリタも飲んだから~」
元々脆弱なヒトの身体だ。
特に肺が傷ついていたのは、他の冒険者なら致命傷であっただろう。
3
あなたにおすすめの小説
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@コミカライズ連載中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの
山田 バルス
ファンタジー
王宮の広間は、冷え切った空気に満ちていた。
玉座の前にひとり、少女が|跪い《ひざまず》ていた。
エリーゼ=アルセリア。
目の前に立つのは、王国第一王子、シャルル=レインハルト。
「─エリーゼ=アルセリア。貴様との婚約は、ここに破棄する」
「……なぜ、ですか……?」
声が震える。
彼女の問いに、王子は冷然と答えた。
「貴様が、カリーナ嬢をいじめたからだ」
「そ、そんな……! 私が、姉様を、いじめた……?」
「カリーナ嬢からすべて聞いている。お前は陰湿な手段で彼女を苦しめ、王家の威信をも|貶めた《おとし》さらに、王家に対する謀反を企てているとか」
広間にざわめきが広がる。
──すべて、仕組まれていたのだ。
「私は、姉様にも王家にも……そんなこと……していません……!」
必死に訴えるエリーゼの声は、虚しく広間に消えた。
「黙れ!」
シャルルの一喝が、広間に響き渡る。
「貴様のような下劣な女を、王家に迎え入れるわけにはいかぬ」
広間は、再び深い静寂に沈んだ。
「よって、貴様との婚約は破棄。さらに──」
王子は、無慈悲に言葉を重ねた。
「国外追放を命じる」
その宣告に、エリーゼの膝が崩れた。
「そ、そんな……!」
桃色の髪が広間に広がる。
必死にすがろうとするも、誰も助けようとはしなかった。
「王の不在時に|謀反《むほん》を企てる不届き者など不要。王国のためにもな」
シャルルの隣で、カリーナがくすりと笑った。
まるで、エリーゼの絶望を甘美な蜜のように味わうかのように。
なぜ。
なぜ、こんなことに──。
エリーゼは、震える指で自らの胸を掴む。
彼女はただ、幼い頃から姉に憧れ、姉に尽くし、姉を支えようとしていただけだったのに。
それが裏切りで返され、今、すべてを失おうとしている。
兵士たちが進み出る。
無骨な手で、エリーゼの両手を後ろ手に縛り上げた。
「離して、ください……っ」
必死に抵抗するも、力は弱い。。
誰も助けない。エリーゼは、見た。
カリーナが、微笑みながらシャルルに腕を絡め、勝者の顔でこちらを見下ろしているのを。
──すべては、最初から、こうなるよう仕組まれていたのだ。
重い扉が開かれる。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる