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第四章

321『貶めようとするもの』

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 アンナリーナが浮島を前にはしゃぎ過ぎて、公爵邸に帰ってきたのは真夜中になっていた。
 さすがに中に入るわけにはいかず、アンナリーナは早速持って帰ってきた小型の浮島(公爵邸の半分もない)を出して、そこで野営する事にする。
 高度は約100m、明るくなれば一目で気づくだろう距離だ。


 タープを張って、テーブルや椅子、簡易ベッドを出し遅い夕食を摂る。
 隅に吊るした魔導ランプが唯一の灯りだが今の2人にとって十分だった。

「しかし、これほど気候が違うって、信じられないよね」

 魔人領では厳冬期直前だったが、こちらでは初夏の陽気だ。
 今も心地よい風が吹いていて、地上では少し蒸し暑いかもしれない。

「領都に帰れば冬かぁ~
 あちらでの冬籠りの準備は終わってるんだよね?」

「俺たちが向こうに戻れるとは思ってもいないだろうからな。
 一応、それらしく見えるように用意している」

「この北半球でダンジョン巡りしても面白そうだし、セトたちもずっと篭っているのは退屈でしょう?」

「俺らは向こうの大陸でもやる事はあるが、主人が言うのなら喜んで参加させてもらう」

 セトとテオドールは基本、アンナリーナの護衛を務めている。
 はっきり言えば無茶を無茶と思わないアンナリーナのストッパーなわけだが、アンナリーナは彼らの苦労を知らない。

「主人、そろそろ休んだ方がいいと思う。
 ほら、あちらの空が白んできた」

 簡易ベッドの寝袋式の布団に潜り込み、眠りにつく。
 その時アンナリーナは、このあとに起きる騒動を予測すらせずに呑気に惰眠を貪っていた。



 その悲鳴に最初に気づいたのは、当然のことながらセトだった。
 夜明け前の短い時間、仮眠をとった彼はそのほかは夜番をしていたのだ。
 アンナリーナも悲鳴に気づいて目を覚ましたが、いささかぼんやりとしている。

「主人、邸で何かあったようだ」

 今日は何も予定のないアンナリーナは、1日リフレッシュしようと思っていたのだが。

「わかった、行くよ!」

 2人は浮島から飛び降りて【飛行】で邸のバルコニーに向かう。そしてそのまま中に入ると、そこはジャクリーヌの居室のはずだ。
 今の公爵邸で何かトラブルが起きそうなのはここしかない。そんな思いで飛び込んできたが、そこではアンナリーナの考えを大きく上回る事が起きていた。

「誰か!誰かっ! お嬢様が!!」

 取り乱す乳母。
 テーブルに突っ伏して動かないジャクリーヌ。
 そして見知らぬ青年。彼はジャクリーヌの上体を起こそうとしている。

「触らないで!」

 すでに【解析】をかけ、ジャクリーヌのその状態を知ったアンナリーナは毒状態異常無効の魔法をかけ、解毒薬を取り出した。

「そちらこそ近づかないでもらおうか。僕はジャクリーヌ様のお薬を任されている薬師だ。
 おまえ、ジャクリーヌ様に何をした?」

「はあ? いったい何を言ってるのかわからないわ」

「とぼけるんじゃない!
 きさまがジャクリーヌ様に毒を盛ったのはわかっているんだぞ!
 証人もいるんだ」

 青年はアンナリーナを貶める事に夢中でジャクリーヌをかえりみようとしない。
 今はもうアンナリーナが解毒したので問題ないが、本来解毒しなければならない青年は一切何もしない。
 と、言う事は、そう言う事なのだ。
 彼にジャクリーヌを救う気はない。
 アンナリーナが思うに、これは決定的だ。
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