魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん

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第四章

322『薬師 ヤーコブ』

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 その男、薬師ヤーコブは苛立っていた。
 昨年、長い間師事していた老薬師が死去し、彼が処方していた薬のレシピはヤーコブのものとなった。
 同時に長年付き合いのあるテラシォン公爵家の令嬢への処方も任され、順風満帆と言える今、他領から招聘されてきた薬師にその場を奪われようとしている。
 懇意にしている公爵家の執事によると、その薬師は年端もいかぬ少女であると言う。

「やっと、やっと専属の薬師になれたと言うのに、今更邪魔者が現れるなんて」

 それ以上詳しい話は聞いていない。
 だが、情報を漏らしてくれた執事によると、何か強い薬を使ってからジャクリーヌの容態が劇的に回復したのだと言う。

「なんて事だ……
 これでは俺の存在価値がなくなってしまうじゃないか」

 彼にとって患者の健康より、自身の地位名声が勝った瞬間、ライバルを蹴落とす事しか考えられなくなってしまっていた。
 それに火に油を注いだのはあの青年執事だ。
 本来なら貴族の、それも公爵家の執事には厳格な守秘義務があるはずなのに、アンナリーナの事を自分の知る限り漏らしている。
 そしてヤーコブは、薬師として人間としてしてはいけない事をしてしまった。彼は事もあろうに、アンナリーナを陥れる為にジャクリーヌに毒を盛ったのだ。
 彼の師匠と彼が、ジャクリーヌの為に長年処方してきた薬湯に軽微な毒を混ぜて飲ませてアンナリーナに責任を押し付けようと言うのだ。
 これは……何という極悪非道な行いだろう。
 長い間病に侵され、この度やっと全快したジャクリーヌに毒を盛る。
 本人は命を奪うつもりはさらさらないが、ずっと病に臥せっていた、弱り切った身体がどうなるか、想像出来ないはずがないのに。



「ジャクリーヌ様!」

 バルコニーから飛び込んできたのは小柄な少女と竜人だ。
 ヤーコブはすぐに彼女が例の薬師だと気づき、罵倒する。

「そちらこそ近づかないでもらおうか。僕はジャクリーヌ様のお薬を任されている薬師だ。
 おまえ、ジャクリーヌ様に何をした?」

「とぼけるんじゃない!
 きさまがジャクリーヌ様に毒を盛ったのはわかっているんだぞ!
 証人もいるんだ」

 その間、そっと頭を起こされたジャクリーヌは酷く顔色が悪い。
 息は浅く身体が小刻みに震えていた。
 即座にアンナリーナは【解析】し、解毒の魔法をかける。
 これで命に別状のある毒素は抜けたが、弱った身体に起きた不具合は計り知れない。
 そこに現れた筆頭執事とアンナリーナ、セトは素早く視線を交わし、ジャクリーヌはすぐにベッドに運ばれた。
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