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旲瑓
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「旲瑓。また、来てくれたのね、嬉しいわ、有難う。」
青い衣裳を華麗に着こなした妙齢の娘がそう言った。
「永寧姉さん。私達は姉弟なんだ、立場を考えないといけないよ。姉さんだって、公主様じゃないか。」
永寧公主は簪を一本引き抜いて、旲瑓と呼ばれた少年の髪に挿した。
「でも、そう言っても、貴方は此処に来るのよ。ね。不思議。そう、思わない?」
「姉さん。堕ちてしまうよ。私はそれを望まない。姉さんには幸せになって欲しいから。」
旲瑓は簪を返そうとして、やめた。
弟に恋心を抱く憐れな姉を、見捨てることが出来なかった。
身分があるというだけで、人生は半ば決定されていた。
天の上に存在する国の王族として、生まれてしまった。
旲瑓。これが、彼の名だった。無論、諱ではない。高貴な人間は、名を軽々しく明かしたりしない。
『可愛い子。旲瑓。でも、貴方に用意された人生は、地獄よりも辛いものなのですね。』
いくつも歳をとっていた永寧公主は言った。
永寧公主は旲瑓の異母姉で、活発な姫だった。すっきりと結った髪が、素朴ながら彼女の魅力を引き立てていた。
「ねぇ、旲瑓。貴方の、一番最初のお妃は、誰なの?」
永寧公主が聞いた。
「一番最初の妃は父上が決めるんだったね。」
溜息をついて、鬢をいじった。
「圓妃だったかな、名前は。」
圓氏は、名家の令嬢で、生まれた時から旲瑓に嫁ぐことが決まっていた。だが、想い人がいたらしい。引き裂かれて、無理矢理後宮に連れて来られた。
初めて垣間見た圓氏は、焦点のずれた目をして、窓辺にただ座っていた。
「父上に頼んで、破約したいよ。あの妃、怖いよ、焦点何処にあるのだろう。」
永寧公主は少し哀しそうな顔で旲瑓を見ていた。
「仕方が無いわよ。高貴な人間は、結婚なんて割り切らなくてはならないもの。恋情なんて、関係ないわ。余程嫌いじゃない限り、ね。」
「死んだような女は嫌だよ。それなら、まだ、毳毳しい女の方がましさ。」
旲瑓は長椅子にドカッと座り込んだ。
「なら、今度私が会いに行きましょう。義妹がどんな娘か、私も見てみたいわ。」
永寧公主、ポンと手を叩いた。
「良いけど、愛想がないから、姉さんとはあまり合わないよ?それに、圓妃の宮は、姉さんの永寧宮とは近くないのに。」
旲瑓は呆れ顔だ。余程圓氏が気に入らなかったのだろう。
「旲瑓、お茶を持ってこさせるわね。侍女を呼んできましょうか。」
永寧公主は旲瑓に背を向けた。
どうしてなのか、分からない。旲瑓は永寧公主の着ている背子を掴んだ。
「此処にいて欲しいの?」
「…………」
「分かった、此処に居るわ。如何したの?」
「…………」
永寧公主は何も聞かず、可愛い弟の頭を撫でた。
「疲れたのね、可哀想に。初めて会った相手に、悪意の目を向けられるのは辛いわ。そうよね。」
旲瑓は永寧公主の膝を借りて眠ってしまった。弟はまだ、見た目によらず幼かった。
「哀れな子。」
青い衣裳を華麗に着こなした妙齢の娘がそう言った。
「永寧姉さん。私達は姉弟なんだ、立場を考えないといけないよ。姉さんだって、公主様じゃないか。」
永寧公主は簪を一本引き抜いて、旲瑓と呼ばれた少年の髪に挿した。
「でも、そう言っても、貴方は此処に来るのよ。ね。不思議。そう、思わない?」
「姉さん。堕ちてしまうよ。私はそれを望まない。姉さんには幸せになって欲しいから。」
旲瑓は簪を返そうとして、やめた。
弟に恋心を抱く憐れな姉を、見捨てることが出来なかった。
身分があるというだけで、人生は半ば決定されていた。
天の上に存在する国の王族として、生まれてしまった。
旲瑓。これが、彼の名だった。無論、諱ではない。高貴な人間は、名を軽々しく明かしたりしない。
『可愛い子。旲瑓。でも、貴方に用意された人生は、地獄よりも辛いものなのですね。』
いくつも歳をとっていた永寧公主は言った。
永寧公主は旲瑓の異母姉で、活発な姫だった。すっきりと結った髪が、素朴ながら彼女の魅力を引き立てていた。
「ねぇ、旲瑓。貴方の、一番最初のお妃は、誰なの?」
永寧公主が聞いた。
「一番最初の妃は父上が決めるんだったね。」
溜息をついて、鬢をいじった。
「圓妃だったかな、名前は。」
圓氏は、名家の令嬢で、生まれた時から旲瑓に嫁ぐことが決まっていた。だが、想い人がいたらしい。引き裂かれて、無理矢理後宮に連れて来られた。
初めて垣間見た圓氏は、焦点のずれた目をして、窓辺にただ座っていた。
「父上に頼んで、破約したいよ。あの妃、怖いよ、焦点何処にあるのだろう。」
永寧公主は少し哀しそうな顔で旲瑓を見ていた。
「仕方が無いわよ。高貴な人間は、結婚なんて割り切らなくてはならないもの。恋情なんて、関係ないわ。余程嫌いじゃない限り、ね。」
「死んだような女は嫌だよ。それなら、まだ、毳毳しい女の方がましさ。」
旲瑓は長椅子にドカッと座り込んだ。
「なら、今度私が会いに行きましょう。義妹がどんな娘か、私も見てみたいわ。」
永寧公主、ポンと手を叩いた。
「良いけど、愛想がないから、姉さんとはあまり合わないよ?それに、圓妃の宮は、姉さんの永寧宮とは近くないのに。」
旲瑓は呆れ顔だ。余程圓氏が気に入らなかったのだろう。
「旲瑓、お茶を持ってこさせるわね。侍女を呼んできましょうか。」
永寧公主は旲瑓に背を向けた。
どうしてなのか、分からない。旲瑓は永寧公主の着ている背子を掴んだ。
「此処にいて欲しいの?」
「…………」
「分かった、此処に居るわ。如何したの?」
「…………」
永寧公主は何も聞かず、可愛い弟の頭を撫でた。
「疲れたのね、可哀想に。初めて会った相手に、悪意の目を向けられるのは辛いわ。そうよね。」
旲瑓は永寧公主の膝を借りて眠ってしまった。弟はまだ、見た目によらず幼かった。
「哀れな子。」
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