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選択 弐
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「砒素というのよ。」
廃后は、じっと、永寧大長公主の手にある、小瓶を見つめる。
(私に、死を命ずるのか。)
それだけのことを実家はしてしまった。また、それは、廃后の罪をも、含む。
「其方が、二十数年前に産んだのは、男御子ではない。女御子だったのよ。それが、気に入らなくて、殺したんだわ。そして、旲瑓を攫って来た。上手くやったのね。記録も何も残っていなかったわ。 」
誘拐に関わった者は、全員殺させた。当時の侍女も全て、入れ替えた。だから、それを知る者は、一人もいないはずだ。それなのに………
「私、その頃、其方な下女の真似事をさせられていたでしょう?その時、聞いたのよ。侍女が話していたのをね。無躾だったのね。身から出た錆だわ。」
廃后は俯いた。絶望で、胸が苦しい。
「あれ!」
しまっておいたはずの、例の小瓶が消えている。あれは、猛毒、砒素だ。誰かに拾われたりしていたら、大問題だ。
「主上!大変です!」
旲瑓は振り返る。
「永寧大長公主様が、いらっしゃいません!」
「選ばせてあげる。」
永寧大長公主は小瓶をしまって、代わりに剣を見せた。永寧大長公主のお気に入りの、宝剣だった。
「剣か毒。どちらが良い?」
確実に死ねるのは、砒素の方。剣は上手く急所を斬らないと、死ねない。痛みに喘ぎ苦しむことになる。
「寛大ね、あんたが此処で私を死なせてくれるなんて。」
永寧大長公主が刑を執行させると聞いたとき、真っ先に浮かんだのが、凌遅刑だった。
「まだ、左側を、怨んでると思ったから。」
永寧大長公主は未だに、左半身を動かすことに不自由をさせられている。それを、憐れに思ったことは、ない。
「そうね。」
右手で剣を握る。剣先を首に当てて、笑っている。目は鋭く光っている。美しい女だ。その文、恐ろしい。
「でも、私怨だけでは、ないのよ?だって、それだけで死刑になんて、いくらなんでも、出来ないわ。」
でも、と剣を下ろす。
「良い見せしめになるかしら。」
「なるだろうね。」
廃后は永寧大長公主の腹を見つめている。
(落ちぶれたのね、龗家も。)
俐家の令嬢だと判明した俐小明は、暫し、また、昔語りをしていた。
「私の母は、下界の人間でした。」
小明の足は、異様に小さかった。大陸にある国の習慣らしい。生まれた時から、足を縛り付けて、大きくならないようにする。纏足だ。
「こんな足だから、働かせてもらえなくてね。」
纏足は走れない。それに、この国でそんなことをしている者はほぼ皆無。目立っただろう。
「母は病で死んでしまいましたよ。夜鷹でしたからね。」
最後に残る、母との記憶は、鼻のない痩せた女が言葉にならない言葉を口走っていたこと。
「最後の数年でも、誰かに愛されたんだから、まだ、ましだったでしょうね。」
小明は哀愁漂う表情をしながら、空を仰ぐ。
「人の命など、軽くて、脆いんですよ。」
-軽くて、脆いんですよ。
その言葉が、頭の中で、何度も繰り返される。彼女はあっさりとしていたが、璡姚には辛かった。
(下界から来た者は、何かしら抱えているのかしらね。)
璡姚しかり、榮氏しかり、そして、小明の母親しかり。
「分かった。」
女は低く、暗い声で呟き、手を伸ばした。
廃后は、じっと、永寧大長公主の手にある、小瓶を見つめる。
(私に、死を命ずるのか。)
それだけのことを実家はしてしまった。また、それは、廃后の罪をも、含む。
「其方が、二十数年前に産んだのは、男御子ではない。女御子だったのよ。それが、気に入らなくて、殺したんだわ。そして、旲瑓を攫って来た。上手くやったのね。記録も何も残っていなかったわ。 」
誘拐に関わった者は、全員殺させた。当時の侍女も全て、入れ替えた。だから、それを知る者は、一人もいないはずだ。それなのに………
「私、その頃、其方な下女の真似事をさせられていたでしょう?その時、聞いたのよ。侍女が話していたのをね。無躾だったのね。身から出た錆だわ。」
廃后は俯いた。絶望で、胸が苦しい。
「あれ!」
しまっておいたはずの、例の小瓶が消えている。あれは、猛毒、砒素だ。誰かに拾われたりしていたら、大問題だ。
「主上!大変です!」
旲瑓は振り返る。
「永寧大長公主様が、いらっしゃいません!」
「選ばせてあげる。」
永寧大長公主は小瓶をしまって、代わりに剣を見せた。永寧大長公主のお気に入りの、宝剣だった。
「剣か毒。どちらが良い?」
確実に死ねるのは、砒素の方。剣は上手く急所を斬らないと、死ねない。痛みに喘ぎ苦しむことになる。
「寛大ね、あんたが此処で私を死なせてくれるなんて。」
永寧大長公主が刑を執行させると聞いたとき、真っ先に浮かんだのが、凌遅刑だった。
「まだ、左側を、怨んでると思ったから。」
永寧大長公主は未だに、左半身を動かすことに不自由をさせられている。それを、憐れに思ったことは、ない。
「そうね。」
右手で剣を握る。剣先を首に当てて、笑っている。目は鋭く光っている。美しい女だ。その文、恐ろしい。
「でも、私怨だけでは、ないのよ?だって、それだけで死刑になんて、いくらなんでも、出来ないわ。」
でも、と剣を下ろす。
「良い見せしめになるかしら。」
「なるだろうね。」
廃后は永寧大長公主の腹を見つめている。
(落ちぶれたのね、龗家も。)
俐家の令嬢だと判明した俐小明は、暫し、また、昔語りをしていた。
「私の母は、下界の人間でした。」
小明の足は、異様に小さかった。大陸にある国の習慣らしい。生まれた時から、足を縛り付けて、大きくならないようにする。纏足だ。
「こんな足だから、働かせてもらえなくてね。」
纏足は走れない。それに、この国でそんなことをしている者はほぼ皆無。目立っただろう。
「母は病で死んでしまいましたよ。夜鷹でしたからね。」
最後に残る、母との記憶は、鼻のない痩せた女が言葉にならない言葉を口走っていたこと。
「最後の数年でも、誰かに愛されたんだから、まだ、ましだったでしょうね。」
小明は哀愁漂う表情をしながら、空を仰ぐ。
「人の命など、軽くて、脆いんですよ。」
-軽くて、脆いんですよ。
その言葉が、頭の中で、何度も繰り返される。彼女はあっさりとしていたが、璡姚には辛かった。
(下界から来た者は、何かしら抱えているのかしらね。)
璡姚しかり、榮氏しかり、そして、小明の母親しかり。
「分かった。」
女は低く、暗い声で呟き、手を伸ばした。
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