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「貸しなさい。」
女は小瓶を手に取る。
「これは、砒素と、言っていたわね。」
「えぇ、そうね。砒素だわ。小明がくれたのよ。」
小明は笑っていた。廃后が殺されるのを、楽しみにしている様だった。
狭い宮に、一人、女が倒れていた。名は、魖闉黤。首をつった女だ。以前まで、賢妃の位を持っていた。
(刺客に、失敗は、許されないのよね。)
闉黤は、永寧大長公主を殺すために、廃后が後宮に送り込んできた。莫迦な女だと思っていた。だが、この女には、刺客としての自覚があったらしい。
(私を殺すのは、やはり、無理、だったのね。)
付き人もいなかった昔と違い、永寧大長公主を心配した璡姚と旲瑓が腕のたつ護衛を用意してくれた。
永寧はもう、自ら剣を持って戦うことは出来ない。廃后がそうした。櫖姮殷淑妃がそうした。それを、永寧大長公主は憎んでいる。何も一人では出来ないわけなのだから。
もう、刺客が送られたとしても、永寧大長公主が殺される可能性は、低くなるのだろう。それを、無意識に闉黤は悟ったのかもしれない。莫迦ではない。賢しい女だ。
(ごめんなさい、闉黤。)
廃后は室の隅で座り込んでいる。その近くの寝台では、闉黤がのびている。ほんの少しだけ、砒素を飲ませた。死なない程度に。首をつったが、適切な処置を施されてないので、死に体だ。
廃后は、自分の身の振り方を考えていた。どうせ人に晒されながら死刑にされるならば、此処で、毒をあおった方がましだ。でも-
(逃げたみたいだわ。)
廃后はかなり自尊心の高い女だ。見栄っ張りだ。それだけの、つまらない女だ。
(だけど。)
最後くらいは、楽になりたい。今まで気を張りすぎて、疲れた。此処で砒素を飲んでしまえば、死ねる。苦しむのは、少しの間だけだ。
死刑、恐らく、凌遅刑になれば、生きたままに、肉を削がれる。それが何度かは分からないが、謀反に関わった家なので、多い。しかも、執行中に死ねぬよう、止血をしながら肉を削がれる。なんて、残虐な。
だが、永寧大長公主にしたことは、それだけのことだったのだろうか。脚の腱を切った。そのまま、飼い殺しにしていた。人道に外れたことをしてしまったのだ。
(もう、私は終わりだなぁ。)
あんなに強気でいたのに、もう、心は折れてしまったのだろうか。とても、情けない。
(姉さんか女帝様でなければ、どうすれば良い?)
旲瑓が所持していた砒素は、永寧大長公主が持ち去った。そして、旲瑓はその行方を案じていた。
あれは、廃后と廃賢妃を処するために小明が渡した物だ。それを、別の人間に使われてしまったら。
(厄介な物を渡して来たな。)
旲瑓はため息をつく。
菫児廃后と闉黤廃賢妃は、後宮の一角に軟禁中だ。今までその理由が分からなかった。
(成程ね………)
窓の外から、女達の声がする。その中には、廃后や魖家を嬲る者、貶す者、罵る者、それが溢れかえっていた。
妃嬪達としては、鬱憤が溜まっていたのだろう。それが無くなって、ほっとしているかもしれない。そして、廃后という、不名誉な身分にまで堕とされた嘗ての太后を、嘲笑っているのかもしれない。
恥を晒させるために、此処に閉じ込められているのだ。何で、そんな簡単なことが、分からなかったのだろう。
(私の頭、もう、使い物にならないわね。)
「菫児。いるか。」
人の声がした。随分と、懐かしかった。
女は小瓶を手に取る。
「これは、砒素と、言っていたわね。」
「えぇ、そうね。砒素だわ。小明がくれたのよ。」
小明は笑っていた。廃后が殺されるのを、楽しみにしている様だった。
狭い宮に、一人、女が倒れていた。名は、魖闉黤。首をつった女だ。以前まで、賢妃の位を持っていた。
(刺客に、失敗は、許されないのよね。)
闉黤は、永寧大長公主を殺すために、廃后が後宮に送り込んできた。莫迦な女だと思っていた。だが、この女には、刺客としての自覚があったらしい。
(私を殺すのは、やはり、無理、だったのね。)
付き人もいなかった昔と違い、永寧大長公主を心配した璡姚と旲瑓が腕のたつ護衛を用意してくれた。
永寧はもう、自ら剣を持って戦うことは出来ない。廃后がそうした。櫖姮殷淑妃がそうした。それを、永寧大長公主は憎んでいる。何も一人では出来ないわけなのだから。
もう、刺客が送られたとしても、永寧大長公主が殺される可能性は、低くなるのだろう。それを、無意識に闉黤は悟ったのかもしれない。莫迦ではない。賢しい女だ。
(ごめんなさい、闉黤。)
廃后は室の隅で座り込んでいる。その近くの寝台では、闉黤がのびている。ほんの少しだけ、砒素を飲ませた。死なない程度に。首をつったが、適切な処置を施されてないので、死に体だ。
廃后は、自分の身の振り方を考えていた。どうせ人に晒されながら死刑にされるならば、此処で、毒をあおった方がましだ。でも-
(逃げたみたいだわ。)
廃后はかなり自尊心の高い女だ。見栄っ張りだ。それだけの、つまらない女だ。
(だけど。)
最後くらいは、楽になりたい。今まで気を張りすぎて、疲れた。此処で砒素を飲んでしまえば、死ねる。苦しむのは、少しの間だけだ。
死刑、恐らく、凌遅刑になれば、生きたままに、肉を削がれる。それが何度かは分からないが、謀反に関わった家なので、多い。しかも、執行中に死ねぬよう、止血をしながら肉を削がれる。なんて、残虐な。
だが、永寧大長公主にしたことは、それだけのことだったのだろうか。脚の腱を切った。そのまま、飼い殺しにしていた。人道に外れたことをしてしまったのだ。
(もう、私は終わりだなぁ。)
あんなに強気でいたのに、もう、心は折れてしまったのだろうか。とても、情けない。
(姉さんか女帝様でなければ、どうすれば良い?)
旲瑓が所持していた砒素は、永寧大長公主が持ち去った。そして、旲瑓はその行方を案じていた。
あれは、廃后と廃賢妃を処するために小明が渡した物だ。それを、別の人間に使われてしまったら。
(厄介な物を渡して来たな。)
旲瑓はため息をつく。
菫児廃后と闉黤廃賢妃は、後宮の一角に軟禁中だ。今までその理由が分からなかった。
(成程ね………)
窓の外から、女達の声がする。その中には、廃后や魖家を嬲る者、貶す者、罵る者、それが溢れかえっていた。
妃嬪達としては、鬱憤が溜まっていたのだろう。それが無くなって、ほっとしているかもしれない。そして、廃后という、不名誉な身分にまで堕とされた嘗ての太后を、嘲笑っているのかもしれない。
恥を晒させるために、此処に閉じ込められているのだ。何で、そんな簡単なことが、分からなかったのだろう。
(私の頭、もう、使い物にならないわね。)
「菫児。いるか。」
人の声がした。随分と、懐かしかった。
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