名ばかり聖女はかぼちゃパンツ陛下をからかいたい!

ハラペコWASABI

文字の大きさ
17 / 27

17かぼ!武闘会

しおりを挟む
「来週リュスト様の22回目の生誕祭を記念して舞踏会が行われるのですが、奈那様も是非参加して頂きたいとの事です」

「え?リュスト誕生日なの?この前会った時何も言ってなかったのに」

「はい、前から舞踏会が行われるのは決まっていたのですが、奈那様はまだこちらの世界にいらっしゃらなかった時でしたので。突然のお誘いになってしまい申し訳ないのですが是非にとの事です」

 誕生日記念に武闘会を開くなんて。リュスト、意外と闘い好きなんだ。
 武闘会なんてお祭り、格闘技歴20年超えの私は参加するしかないでしょう!

「勿論参加するわ」

「では早速ですが以前行った服屋さんに行って来てくださいますか?私と陛下はトラブルで忙しく、一緒に行けないのです」

 そう、昨日起こったトラブルで今もかぼパンは執務室に篭りっきり。ランはこの事を伝える為にわざわざ来てくれた。

 寂しいけど1人で行ってくるか!

「わかった!お仕事頑張って!」

 早速用意された馬車に乗り込み、服屋さんへ行くと女性従業員が静々と頭を下げる。

「お話は聞いております。どのようなデザインがよろしいでしょうか?」

「えーと、道着か空手衣がある?訳ないよねぇ」

「申し訳ございません、初めてお聞きしました!」

 私は紙に書き出し戦闘服を説明する。

「あの、こんなに簡素な物でよろしいんですか?」

「ええ、私の故郷では皆これを着ているわ。あ、帯は黒でお願い」

「そ、そうでございましたか、故郷の……民族衣装のようなものでございますね?」

「まぁそうね」

 頷くが、少しまだ躊躇いの感じる女性店員さんに採寸をしてもらい、中に着るTシャツもお願いした。

「せめてこの首元に宝石を散りばめては如何でしょうか?」

 不安そうな女性店員が紙を指差し提案してくる。この世界ではそんなに地味なのか?だけど。

「戦闘服にそんなの付けたら邪道だよ。何も付けず頼んだ通りにお願いっ!」

 不安だった私は生地も見せてもらい、しっかりと指定したのだった。大丈夫かな?


 夕飯時、ようやくかぼパンに会えた。なんと昨日の夕食以来だ。こんなに長い時間会わないのはこの世界に来て初めて。

「かーぼーぱーん!寂しかったよおお」

 私は擦り寄り、スンスンとかぼパンの可愛い香りを鼻から摂取。やはり落ち着く。 
 かぼパンの可愛いは疲れをも吹き飛ばす効果があるのです!

「はぁ~、やっぱり1日1回はかぼパンの可愛いを摂取しないとねぇ」

「分かります」

「はぁ、もう何も言うまい」

 少し呆れた顔のかぼパンを見つめ、愛で活をしているとかぼパンが咄嗟に口を開いた。

「そう言えば服屋はどうだったんだ?」

「あ、ちゃんと頼んできたよ!ありがとう。でもこっちの世界じゃ地味みたいで、店員さんが困惑してた」

「困惑?それは大丈夫なのか?」

 怪訝そうな表情だけどこっちの世界とは違うから。

「大丈夫!私達の世界では制服のようなものよ!武闘会ではほぼ全員同じシンプルなデザインの服を着ているわ」

「そうか、シンプルなのか。名ばかりの世界の常識なら尊重しよう」

「うん!明日から中庭で特訓するね!」

「特訓?」

「うん、武闘会に向けて特訓するの」

「ああ……参加するからにはやはり……そうか……楽しみにしているぞ」

 何故かシュンとしながらも、かぼパンが楽しみだと言ってくれた。
 これは頑張るしかない。
 
 翌日、言葉通り中庭で特訓していると、噂を聞いた城の騎士様が見学に来た。
 話をすると騎士団長らしい。

「ベビーシッター殿は身体が軽くジャンプ力もあり、体幹がしっかりしている。このまま剣舞も舞えそうだな」

 私の動きを一通り見た騎士団長のその一言で剣を借り、格闘技の型と組み合わせてみる。思ったより相性が良く自然と身体が動いた。

「初めてとは思えないほど素晴らしい!迫力が違う!少し練習すれば国で、いや世界で1番の踊り手になれるぞ」

 世界で1番とは!
 言い過ぎだとは思うが、騎士団長のお褒めの言葉にすっかり気を良くした私。
 騎士団長に教えを請い、武闘会に向けて剣技、剣舞の練習をしたのだった。



「最近騎士団長とダンスの練習をしているらしいな」

 トラブル処理の忙しさが続き、最近夕食時にしか会えないかぼパンが疲れた表情で聞いてきた。

 ダンスとは剣舞の事だろう。

「うん、騎士団長のおかげでメキメキ上達してる!」

「そうか……やはりダンスの相手は大人じゃないとな……」

 疲れた顔でしょんぼりと呟いたかぼパン。

「明後日の武闘会で披露するつもりだから楽しみにしてて」

「……相手はリュストか?」

 私の対戦相手はリュストなのだろうか?公爵家の跡継ぎを舞うように刺して問題ないのかな?

「分からないけど……度肝を抜いてやるつもりよ!」

「名ばかりの相手は大変だな……」

 少し寂し気な様子が気になり、抱っこして撫で撫で攻撃。
 ようやく「や、め、ろ!」といつもの調子に戻したのだった。

 武闘会当日、私は戦闘服の上から煌びやかな宝石のついたロングコートを羽織った。
 服屋の店員さんが、どうしても上から羽織って欲しいと懇願してきたのだ。

 憶測だけど、自分の店の作品が地味だと評判に関わるのだろう。
 戦う時だけ身軽なら良いので了承したのだ。

 そして何故か準備のお手伝いにとメイドが2人派遣されてきたんだけど、帰ってもらった。

 髪の毛のセットと言われても、ポニーテールで充分なのよ。
 そのせいか馬車で待ち合わせていたかぼパンの表情がおかしい。

「名ばかりよ、そちらの世界を尊重はするが化粧もいつもと変わらず、髪もひとつに纏めているだけじゃないか」

 少しガッカリしたような表情。何を期待していたのかは分からないが、かぼパンはいつもにも増して煌びやかな服装かぼちゃパンツだ。

「見るだけのかぼパンと違って私は参加者だから。TPOに合わせた結果よ」

「見るだけ……」

 ズンと落ち込んだかぼパン。良く分からないが傷つけてしまったらしい。
 膝に乗せるが、抵抗することも無く受け入れるほどの落ち込みよう。

 見るだけと言う言葉がよくなかったんだろう。ならばフォローはこうだ。

「大人に戻ったらかぼパンも一緒に参加しようね」

 慰めるように言うと、かぼパンは小さく頷いたのだった。

 かぼパンも意外と闘い好きなのね。

 武闘会が行われるカナル公爵家に到着すると右も左も派手なドレスを着た女性と、燕尾服や宮廷服を着た男性がワラワラ。

 さすが異世界、武闘会を見るのも超ド派手。

 建物の中に入ると大きなシャンデリアが輝くさらに派手な空間だった。

 その派手な空間の中に広々と赤い絨毯が敷き詰められたゾーンがある。きっとあそこが試合会場なのだろう。

「じゃあ私は行くわ。かぼパン、選手の控室はどこかしら?」

「ん?選手の控室?何の選手だ?」

「武闘会に出場する選手達の控室よ。ちゃんと応援してね!きっと私がカッコ良すぎて2人とも震えるわよ」

 私の言葉にかぼパンもランも目を点にして黙った。

 何か変な事を言ったかな?こっちの世界の武闘会は作法が違う?
 困惑していると、私よりも困惑した表情のかぼパンがようやく声を出した。

「名ばかりの世界での舞踏会は一体どんなスタイルなんだ?」

「えと、トーナメント選かな」

「トーナメント……?」

 困惑している私とかぼパンの横で何かに気付いたのか、ランが派手に吹き出した。

「ブハッ!ハハハ!まさか、奈那様、舞踏会を勘違いしていませんか?」

「えっ?」

「今日は舞踏会ブトウカイですよ、ダンスパーティーです!奈那様がおっしゃっているのは武力を競い合う武闘会ブドウカイではありませんか?」

 ランの言葉に一気に震えが来た。今までの私の人生、ぶとうかいと言う響きはもう武闘会なのよ!

「たっ、闘わないの?」

「はい」

 ああ、ようやく理解。こっちの世界は舞踏会が普通なんだ。
 
 ……正直、これは恥ずかしい!

「あはは!ははははは!ははははは!」
「ハハハハハハハハハハ」

 理解したかぼパンもランも笑いすぎて震えている。カッコ良さで震わせるはずだったのに!

「あはは!だが毎日騎士団長とダンスの特訓をしていたのではないのか?」

「したよ、剣舞……」

 自分でも情けない声で答えるとかぼパンは満面の笑みを見せた。

「なんだ、剣舞ソードダンスだったのか!僕はてっきり社交ダンスだとばかり!あははははは!剣舞!名ばかりらしいな!あははははは!」

 馬車の中と違い、一気に上機嫌になったかぼパンは延々と笑い続けた。

 間違った甲斐があったと思わせるほど可愛いっ!けど……!

 やけになった私はコートを脱ぎ捨て、リュストに誕生日祝いの舞だと剣舞を披露したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

処理中です...