【R18】初恋の終焉〜悪女に仕立てられた残念令嬢は犬猿の仲の腹黒貴公子の執愛に堕ちる

湊未来

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デジャヴ③

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「エリザベス、見ているだけでは何も始まりませんよ」

 初めて見る男性器を前にエリザベスは固まっていた。

 ハインツの挑発に負け、彼の下穿きに手をかけ脱がせたまではよかった。しかし、そこからが大問題だった。

(お、大きいぃ……)

 眼前に迫るハインツの雄は、凶悪なまでに大きく見える。もちろん、他の男性との性経験がないエリザベスにとって基準なんてものは存在しないのだが、形もさることながら天を向き立ち上がる様は、凶悪な生き物にしか見えない。

(これが、私の中に入ったのよね……、無理でしょ……)

 初体験の時は、何がなんだかわからないうちに終わっていて、ハインツの男根を見る余裕などなかった。もし、見ていたら断固として拒否していただろう。

(今さら、逃げることも出来ないわよね)

 エリザベスから夜這いを仕掛けた手前、ごめんなさいして逃げ出すわけにもいかない。しかし、目の前に鎮座するハインツの男根は恐怖の対象でしかない。

 そんなエリザベスの葛藤を目ざとく察知したハインツが先手を打つ。

「エリザベス、まさか逃げようだなんて思っていませんよね? 確か……、夜這いを仕掛けてきたのはエリザベスだったと思いますが」

「逃げようだんて、思っていないわ! ただ……、どうしていいかわからないだけ……」

 ハインツに図星をさされ、言い訳めいた言葉しか言えないエリザベスの言葉尻が小さく消えていく。

「そうですか。てっきり男の部屋に夜這いを仕掛けるくらいですから、そういうことに慣れているかと思いましたが」

「なっ、慣れている!? そんなはずない……、ハインツ様だって知っているじゃないですか。貴方が初めてだったって……」

 ハインツの冷たい物言いにエリザベスの目に涙がたまる。

 男の部屋に夜這いに来るような、はしたない女。そんなレッテルを投げつけられたようで、心がジクジクと痛み出す。

(ハインツ様に軽蔑されてしまった。嫌われてしまったの……)

 自業自得だとわかっている。ただ、ちょっと意趣返しをしてやりたかったのだ。

 ハインツに振り回されているばかりで、いつも不安になるのはエリザベスだけ。

 そんな状況に対するほんの些細な抵抗。それすらも裏目に出て、ハインツを怒らせてしまった。

 涙があふれ出し、ベッドに突っ伏し泣きじゃくる。

「ごめんなさい……、ごめんなさい……」

「――いじめ過ぎましたね。ほらっ、エリザベスこっち来て」

「へっ?」

 ハインツの言葉に顔を上げると、滲んだ視界の先に優しい顔して笑うハインツと目が合う。

「ほらっ、おいでエリザベス」

 いつの間に縛っていたリボンを外した?

 両手を広げて待つハインツにエリザベスは唖然としてしまう。ただ、すぐにそんな些末なことはどうでも良くなった。

(あの腕の中に飛び込んでもいいの? まだ嫌われていないの……)

 エリザベスの心より身体が先に反応していた。

 ハインツの腕の中へと飛び込み、心の赴くままにギュッと抱きつく。そんなエリザベスの頭をハインツが撫でてくれる。その優しい手つきにエリザベスの涙は決壊した。

「ご、ごめんなさい。はしたなくて……、ごめ……ん、なさい……」

 泣きじゃくるエリザベスをあやすようにポンポンと背を叩く手に、ますます涙が止まらなくなった。

「ーーすまなかった。少々、やり過ぎました。エリザベスが夜這いを仕掛けてくるとは思いもしなくて、『誰の入れ知恵だ!?』って嫉妬してしまったのもあって……、そんなことある訳ないって一番私が知っていたはずなのにね」

 フルフルと頭を振り違うと示すエリザベスの背を『わかっている』とでも言うように、ハインツの手が撫でる。

「えぇ、わかっていますよ。ただね、ちょっと嫉妬しただけです。私の知らない貴方の一面を見られて嬉しいと思う反面、誰が初心なエリザベスにそんな大胆な悪知恵教えたのかって、嫉妬しただけです」

「そんなの……、ハインツ様じゃないですか……」

「えっ? 私ですか?」

「初めてハインツ様と唇を重ねた夜、とろけるような快感を教えて、夜這いをした私に罰を与えたのはハインツ様です」

「……はは、ははは、そうですか。私は自分に嫉妬していたわけだ。これは一本取られましたね」

 クスクスと楽しそうに笑うハインツを見て、エリザベスの心も軽くなる。

(嫌われてはいない……、みたい)

「私もまだまだですね。エリザベスにイニシアチブを奪われることを楽しめるくらいでないと」

 ハインツの両手に顔を包まれ、親指の腹で流れ続ける涙を拭われる。

 それと同時に唇に落とされた優しいキス。柔らかい唇をハインツに喰まれ、次の瞬間には離れていく。

 涙が滲む瞳に、赤く色づいた頬……、顔中に啄むようなキスの雨が降り注ぎ、エリザベスの心に火を灯す。

「――でも、今の私ではまだ無理のようです。エリザベスを奪いたい、独占したい、支配したい……、男の本能的欲望の方が強い。エリザベス、貴方を虐めさせて……」

 最後に耳元でささやかれた言葉にエリザベスの腹の奥がズクッと疼く。

(ハインツ様に……、いじめられたい……)

 エリザベスの中で燻りつづける女の欲望が燃え上がる。

「ハインツ様……、私をいじめ――」

 最後のエリザベスの言葉は、深く重なった唇にかき消され、静かな部屋に響くことはなかった。
 

 
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