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バレンタインの奇跡、やりすぎ問題
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よりによって2月14日、バレンタインデー。
28歳の優介は、大学時代の同級生・栞と久しぶりに会うことになった。
もちろんデートではない。仕事柄手に入る駐車場割引チケットを譲るだけの、事務的な約束だ。
本来は13日の予定だったが、優介の仕事の都合でたまたま14日にずれてしまった。
待ち合わせ場所に早めに着いた優介は、ふと周りを見渡す。
バレンタイン当日だからか、カップルだらけだ。
「…俺には関係ないけどな。栞もまさか意識してないだろ。」
そうつぶやいたその瞬間、巨大なバラの花束を持った男性が、女性に追いかけられて駆けてくる。
「浮気の現場は押さえたわよ~!」
「お許しをー!!」
男性は逃げる途中で、なぜか優介に向かって花束を押し付けた。
「ちょっと預かってください!」
「え、えぇぇ!?」
状況が飲み込めないまま、優介は押し付けられるように巨大な花束を抱え込む。
そのまま男性は女性に追いかけられ、視界から消えていった。
優介が対処できないうちに、栞が待ち合わせ場所に現れた。
「優介くん、久しぶり…って、それ何?」
「いや、これは…」
説明するにも自分自身理解が追いついていない。
つい口を濁す優介。
(そういえば…)
実は待ち合わせの直前、栞は街角の占い師に勧誘され、無料で占ってもらっていた。
「あなた、出会いがないわね。婚期を逃すわよ」
「うっ…そんなこと…なんでわかるんですか?」
「でもね、花に強烈な運気があるわ。次に現れた花にまつわる男性と結婚しなさい!
意外に早く現れるわよ!その人を逃したら!次は無いわよ!ドーン!」
そう言われたばかりだったのだ。
そして、目の前に巨大な花束を抱えた優介がいる。
栞の顔がみるみる赤くなる。
(え…これって、もしかして…)
「それ、もしかして…私に?」
「あ、いや…」
優介は言い淀んだが、栞の期待に満ちた瞳を見て、なぜか話を合わせてしまった。
「…実は、そうなんだ。だってせっかくバレンタインデーだし。」
言ってしまった瞬間、優介の心臓がドキンと鳴った。
(な、なんで俺、こんなこと言ってるんだ…!?)
栞は唇を軽く噛み、頬を赤らめながらうつむいた。
「…ありがとう」
優介は動揺を隠すように、慌てて話題を変えた。
「と、とりあえず店に入ろうか。適当な焼き鳥屋でも…」
そう言って歩き始めた二人の目に入ったのは、フランス料理店の「オープン10周年記念ワイン飲み放題」ののぼり。
目が合った瞬間店員に誘われて、二人は成り行きでその店に入ることにした。
「ここしか空いてないんです」と案内されたのは、ムーディーな半個室の二人がけソファ。
しかも、予想以上に狭い。
ソファに腰掛けると、肩がピタッとくっつく距離感。
優介は栞の体温を感じてドキリとした。
(近い…やばい、意識してしまう)
顔を背けようとしたが、あまりに近すぎて視界の端に栞の横顔が入る。
栞の長いまつげが伏せられ、わずかに揺れる。
優介の胸が高鳴った。
「…近いね」
「う、うん…」
栞も意識しているのか、頬が赤く染まっていた。
その瞬間、栞がおしぼりを手に取ろうとした拍子にバランスを崩した。
「きゃっ…!」
柔らかな感触が優介の胸に押し付けられる。
栞が優介の胸に倒れ込んだのだ。
「ご、ごめん!」
慌てて体を起こす栞。
優介は鼓動が早まるのを感じた。
(や、やばい…何、このドキドキ)
栞は自分の頬が熱いのを感じ、
(なんで私、こんなに緊張してるの…)
と、自分の反応に戸惑っていた。
店員たちは(あらあらこのカップルは注文する前からイチャイチャしてるよ、熱いねえ)という目で見ている。
ちょっと経つと店員が頼んでないシャンパンと特製オードブルを運んできた。
「お客様は本日10組目のお客様です。シャンパンと特製オードブルをサービスします。それではごゆっくり…」
意味深に微笑む店員。
部屋の照明が一段階落とされ、間接照明だけになる。
そして、恋愛映画のクライマックス並みに盛り上がるBGMが流れ始めた。
「♪愛してる~ 君だけを~ 抱きしめたい~♪」
シャンソンでフランス語はわからないが絶対そんなムードだ。
二人は顔を見合わせ、顔を赤らめた。
「…なんか、すごい雰囲気だね」
「うん、まるで…カップルみたい」
確かに傍らに巨大な花束がある。
そう言った瞬間、間接照明がさらにムーディーな暗さに。
もうキスをしないと次の料理は来ないぞ、そんな感じだった。
雰囲気に飲まれた二人はゆっくり顔を近づけ、そっと唇を重ねた。
しばらく経ち食事を終えてレストランを出ると、二人はそれぞれキスの余韻を感じながら歩き始めた。
しかし、なぜか道があちこち配管工事で通行止めになっている。
遠回りしながら歩いていると、目の前に煌びやかなネオンが現れた。
「…ここ、ラブホテル街じゃない?」
「う、うそ…!」
さらに、目の前に「ラブホテル開業5周年 宿泊500円ワンコインサービス」ののぼりが目に入った。
二人は顔を見合わせた。
「こんなこと…ある?」
花束を抱えたカップルは仲良くホテルに入っていった。
28歳の優介は、大学時代の同級生・栞と久しぶりに会うことになった。
もちろんデートではない。仕事柄手に入る駐車場割引チケットを譲るだけの、事務的な約束だ。
本来は13日の予定だったが、優介の仕事の都合でたまたま14日にずれてしまった。
待ち合わせ場所に早めに着いた優介は、ふと周りを見渡す。
バレンタイン当日だからか、カップルだらけだ。
「…俺には関係ないけどな。栞もまさか意識してないだろ。」
そうつぶやいたその瞬間、巨大なバラの花束を持った男性が、女性に追いかけられて駆けてくる。
「浮気の現場は押さえたわよ~!」
「お許しをー!!」
男性は逃げる途中で、なぜか優介に向かって花束を押し付けた。
「ちょっと預かってください!」
「え、えぇぇ!?」
状況が飲み込めないまま、優介は押し付けられるように巨大な花束を抱え込む。
そのまま男性は女性に追いかけられ、視界から消えていった。
優介が対処できないうちに、栞が待ち合わせ場所に現れた。
「優介くん、久しぶり…って、それ何?」
「いや、これは…」
説明するにも自分自身理解が追いついていない。
つい口を濁す優介。
(そういえば…)
実は待ち合わせの直前、栞は街角の占い師に勧誘され、無料で占ってもらっていた。
「あなた、出会いがないわね。婚期を逃すわよ」
「うっ…そんなこと…なんでわかるんですか?」
「でもね、花に強烈な運気があるわ。次に現れた花にまつわる男性と結婚しなさい!
意外に早く現れるわよ!その人を逃したら!次は無いわよ!ドーン!」
そう言われたばかりだったのだ。
そして、目の前に巨大な花束を抱えた優介がいる。
栞の顔がみるみる赤くなる。
(え…これって、もしかして…)
「それ、もしかして…私に?」
「あ、いや…」
優介は言い淀んだが、栞の期待に満ちた瞳を見て、なぜか話を合わせてしまった。
「…実は、そうなんだ。だってせっかくバレンタインデーだし。」
言ってしまった瞬間、優介の心臓がドキンと鳴った。
(な、なんで俺、こんなこと言ってるんだ…!?)
栞は唇を軽く噛み、頬を赤らめながらうつむいた。
「…ありがとう」
優介は動揺を隠すように、慌てて話題を変えた。
「と、とりあえず店に入ろうか。適当な焼き鳥屋でも…」
そう言って歩き始めた二人の目に入ったのは、フランス料理店の「オープン10周年記念ワイン飲み放題」ののぼり。
目が合った瞬間店員に誘われて、二人は成り行きでその店に入ることにした。
「ここしか空いてないんです」と案内されたのは、ムーディーな半個室の二人がけソファ。
しかも、予想以上に狭い。
ソファに腰掛けると、肩がピタッとくっつく距離感。
優介は栞の体温を感じてドキリとした。
(近い…やばい、意識してしまう)
顔を背けようとしたが、あまりに近すぎて視界の端に栞の横顔が入る。
栞の長いまつげが伏せられ、わずかに揺れる。
優介の胸が高鳴った。
「…近いね」
「う、うん…」
栞も意識しているのか、頬が赤く染まっていた。
その瞬間、栞がおしぼりを手に取ろうとした拍子にバランスを崩した。
「きゃっ…!」
柔らかな感触が優介の胸に押し付けられる。
栞が優介の胸に倒れ込んだのだ。
「ご、ごめん!」
慌てて体を起こす栞。
優介は鼓動が早まるのを感じた。
(や、やばい…何、このドキドキ)
栞は自分の頬が熱いのを感じ、
(なんで私、こんなに緊張してるの…)
と、自分の反応に戸惑っていた。
店員たちは(あらあらこのカップルは注文する前からイチャイチャしてるよ、熱いねえ)という目で見ている。
ちょっと経つと店員が頼んでないシャンパンと特製オードブルを運んできた。
「お客様は本日10組目のお客様です。シャンパンと特製オードブルをサービスします。それではごゆっくり…」
意味深に微笑む店員。
部屋の照明が一段階落とされ、間接照明だけになる。
そして、恋愛映画のクライマックス並みに盛り上がるBGMが流れ始めた。
「♪愛してる~ 君だけを~ 抱きしめたい~♪」
シャンソンでフランス語はわからないが絶対そんなムードだ。
二人は顔を見合わせ、顔を赤らめた。
「…なんか、すごい雰囲気だね」
「うん、まるで…カップルみたい」
確かに傍らに巨大な花束がある。
そう言った瞬間、間接照明がさらにムーディーな暗さに。
もうキスをしないと次の料理は来ないぞ、そんな感じだった。
雰囲気に飲まれた二人はゆっくり顔を近づけ、そっと唇を重ねた。
しばらく経ち食事を終えてレストランを出ると、二人はそれぞれキスの余韻を感じながら歩き始めた。
しかし、なぜか道があちこち配管工事で通行止めになっている。
遠回りしながら歩いていると、目の前に煌びやかなネオンが現れた。
「…ここ、ラブホテル街じゃない?」
「う、うそ…!」
さらに、目の前に「ラブホテル開業5周年 宿泊500円ワンコインサービス」ののぼりが目に入った。
二人は顔を見合わせた。
「こんなこと…ある?」
花束を抱えたカップルは仲良くホテルに入っていった。
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