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コインランドリーで恋が芽生える(未遂)
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独身男の必需品――それがコインランドリーである。
僕は残業に次ぐ残業で、帰宅する頃には日付が変わっていることもしばしば。そんな生活だと、洗濯機を回す元気もなく、雨の日は特にコインランドリーが救世主になる。
洗濯と乾燥、フルコースで約60分。帰宅して出直す手もあるが、洗濯物を放置するのも落ち着かない。僕はいつもコーヒーマシンで100円のコーヒーを買い、スマホ片手に時間を潰していた。
そんなある日、運命の出会いが訪れた。
コンランドリーで僕と、20代と思しき黒髪の女性、二人きり。
もちろん赤の他人だし、会話が生まれるわけでもない。しかし、洗濯の終了時刻がほぼ同じというだけで、妙な連帯感を感じてしまうのはなぜだろう。
彼女はゆったりとしたルームウェアにノーメイク、黒縁メガネという、THE・リラックススタイル。髪は乾ききっていないが、ツヤがあり、清潔感がある。そして、すっぴんで薄顔の美人という僕好みのド直球だ。
僕は盗み見にならないように注意しつつ、彼女が読んでいる雑誌を横目でチェックする。どうやらロリータファッション特集らしい。
……普段、あんなフリフリの服を着ているのか?
頭の中で勝手に「地味なコインランドリー姿」と「華やかなロリータ服」を切り替えながら、妄想を膨らませる。だが、もちろん声をかける勇気はない。洗濯が終わると、彼女は淡々と洗濯物を袋に詰め、去っていった。
そして、数日後。
また会った。
このコインランドリーの利用者、実は少ないのか? それとも僕たちは洗濯周期がシンクロしているのか? いや、これは運命では?
今日も彼女はロリータ雑誌をめくり、僕はコーヒーをすする。彼女の洗濯物をチラ見すると、白と黒の布地がやたら多い。
……これ、メイド服じゃないか?
もしかして、メイドカフェの店員さん?
黒髪ツインテールでフリルたっぷりのエプロン姿を脳内に再生し、僕の妄想はフル回転だ。しかし、現実の彼女は僕に一瞥もくれない。
……何も起こらない。
さらに数日後。
「今回は仕掛ける!」と僕は決意し、いつものスウェットを脱ぎ捨て、会社帰りのスラックスとワイシャツでキメた。メガネもかけ、手には何年も前に諦めた資格の参考書。知的な男アピールも万全である。
そして彼女を待った。なぜか彼女と会える確信がある。
……来た!
だが、僕が小難しい参考書を開いてチラ見せしても、彼女は気にも留めず、いつも通り雑誌をめくっている。
あくまで僕と彼女の間にあるのは、洗濯物を回すという共通点のみ。
当たり前のことだが、今日も進展ゼロで終わるのか……。
そう落胆しかけた、その時、いままでで初めての変化が訪れた。
彼女のスマホが鳴り、会話が始まる。
「うん、いつものコインランドリーにいるよ。あと20分くらいで終わるから」
……ま、まさか。
予感は的中した。
数分後、店内に現れたのは、まさかの執事服姿の男。
ただならぬ気品を漂わせつつ、彼は僕に向かって満面の笑みを浮かべる。
「ここのコインランドリー、仕上がりが良くていいですよね! 彼女とよく利用してるんです」
……彼氏かよ。
「何よ、洗濯持ってくるのはいつも私じゃん!」
「ははは、ごめんって!帰ったらケーキ食べよう。」
「もう、すぐそうやって私を甘い物で釣るぅ!」
目の前で繰り広げられる、リア充カップルのいちゃつき。
さらに執事男は、営業スマイルを崩さずこう言った。
「僕、執事喫茶で働いてるんです。よかったら遊びに来ませんか?」
……行くかバカ。
こうして、僕とメイドさん(仮)の淡い恋の妄想は、音を立てて崩れ去ったのであった。
僕は残業に次ぐ残業で、帰宅する頃には日付が変わっていることもしばしば。そんな生活だと、洗濯機を回す元気もなく、雨の日は特にコインランドリーが救世主になる。
洗濯と乾燥、フルコースで約60分。帰宅して出直す手もあるが、洗濯物を放置するのも落ち着かない。僕はいつもコーヒーマシンで100円のコーヒーを買い、スマホ片手に時間を潰していた。
そんなある日、運命の出会いが訪れた。
コンランドリーで僕と、20代と思しき黒髪の女性、二人きり。
もちろん赤の他人だし、会話が生まれるわけでもない。しかし、洗濯の終了時刻がほぼ同じというだけで、妙な連帯感を感じてしまうのはなぜだろう。
彼女はゆったりとしたルームウェアにノーメイク、黒縁メガネという、THE・リラックススタイル。髪は乾ききっていないが、ツヤがあり、清潔感がある。そして、すっぴんで薄顔の美人という僕好みのド直球だ。
僕は盗み見にならないように注意しつつ、彼女が読んでいる雑誌を横目でチェックする。どうやらロリータファッション特集らしい。
……普段、あんなフリフリの服を着ているのか?
頭の中で勝手に「地味なコインランドリー姿」と「華やかなロリータ服」を切り替えながら、妄想を膨らませる。だが、もちろん声をかける勇気はない。洗濯が終わると、彼女は淡々と洗濯物を袋に詰め、去っていった。
そして、数日後。
また会った。
このコインランドリーの利用者、実は少ないのか? それとも僕たちは洗濯周期がシンクロしているのか? いや、これは運命では?
今日も彼女はロリータ雑誌をめくり、僕はコーヒーをすする。彼女の洗濯物をチラ見すると、白と黒の布地がやたら多い。
……これ、メイド服じゃないか?
もしかして、メイドカフェの店員さん?
黒髪ツインテールでフリルたっぷりのエプロン姿を脳内に再生し、僕の妄想はフル回転だ。しかし、現実の彼女は僕に一瞥もくれない。
……何も起こらない。
さらに数日後。
「今回は仕掛ける!」と僕は決意し、いつものスウェットを脱ぎ捨て、会社帰りのスラックスとワイシャツでキメた。メガネもかけ、手には何年も前に諦めた資格の参考書。知的な男アピールも万全である。
そして彼女を待った。なぜか彼女と会える確信がある。
……来た!
だが、僕が小難しい参考書を開いてチラ見せしても、彼女は気にも留めず、いつも通り雑誌をめくっている。
あくまで僕と彼女の間にあるのは、洗濯物を回すという共通点のみ。
当たり前のことだが、今日も進展ゼロで終わるのか……。
そう落胆しかけた、その時、いままでで初めての変化が訪れた。
彼女のスマホが鳴り、会話が始まる。
「うん、いつものコインランドリーにいるよ。あと20分くらいで終わるから」
……ま、まさか。
予感は的中した。
数分後、店内に現れたのは、まさかの執事服姿の男。
ただならぬ気品を漂わせつつ、彼は僕に向かって満面の笑みを浮かべる。
「ここのコインランドリー、仕上がりが良くていいですよね! 彼女とよく利用してるんです」
……彼氏かよ。
「何よ、洗濯持ってくるのはいつも私じゃん!」
「ははは、ごめんって!帰ったらケーキ食べよう。」
「もう、すぐそうやって私を甘い物で釣るぅ!」
目の前で繰り広げられる、リア充カップルのいちゃつき。
さらに執事男は、営業スマイルを崩さずこう言った。
「僕、執事喫茶で働いてるんです。よかったら遊びに来ませんか?」
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