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視力0.01 コンタクトレンズで「大学デビュー」
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大学に入ると、転機が訪れた。
入学当初は黒髪で垢抜けないメガネの風貌だった友人たちが、次々と髪を染め、服装に気を使い、コンタクトレンズを導入していく。いわゆる「大学デビュー」だ。
このペースは速い。
5月くらいまでには完了していないと、垢抜けないままの第一印象が周囲に定着してしまい大学生活4年間を決定づける。誰もがそれに気付いたのだろう。もしかしたら高校卒業から大学の入学式までの間に完了した同級生も多かったかもしれない。
とにかく大学1年生の4月に「大学デビュー」のムーブメントが起きていた。
僕もここが最後のチャンスだと思った。
この波に乗り遅れれば、大学でもパッとしないキャラが定着し、これまでと同じ地味なポジションを引きずることになる。一度付いたイメージは消えない。
高校時代までの僕を知っているやつはいない。今ならまだ変えられる。
僕は一念発起し、眼科でコンタクトレンズを作った。
ついでに髪も染め、黒髪メガネの地味キャラになる前に、イメージチェンジを果たしたのだ。
今振り返っても、あの決断は僕にしては正解だったと思う。
「周りの波に流されて自分の外見を陽キャ風に変えるとか、逆にダサいわ。」とか斜に構えて、結局不満を抱えながら周囲を羨み、そして根暗街道を突き進むのが今までの僕の性格だった。
こうして明るいタイプの友人も増え、彼女もできたし基本的に順風満帆な大学生活を送ることができた。
というか、なぜもっと早く中学なり高校からコンタクトレンズを導入しなかったのか。
今さらながらバカみたいだ。メガネをかけるのがそんなに嫌だったなら、さっさとコンタクトにすればよかったのに。
とはいえ、コンタクトレンズにも色々と制約がある。
僕が使っていたのは、寝るときに必ず外さないといけないタイプ。友達の家に泊まるときには、毎回コンタクトケースと洗浄液を持参しなければならない。これが地味に面倒くさい。
予定外の外泊になるときは特に厄介で、ドラッグストアで買うことになる。小分けの洗浄液なんかがどんどん増えていく。
コンタクト仲間の間で洗浄液を融通し合うことができると、妙な連帯感が生まれる。
買うタイミングを逃したときは仕方なくつけたまま寝ることもある。一晩くらいいいだろうと思うのだが、これをやると翌朝、目の中でレンズがカピカピになり、激しい異物感で一日中目の中がゴロゴロする羽目になる。
目薬を差しまくっても焼け石に水。もう何にも集中できない。
授業中にうっかり寝落ちしてしまった程度でも、熟睡してしまうと目が乾いて同じ事になるので油断できない。
コンタクトの都市伝説にもいつも怯えていた。コンタクトを着けたまま寝てしまうとレンズが目の裏側に行って取れなくなってしまう。そしてそれが何枚も溜まっていくと脳のほうまで行ってしまって死亡するなんてのも聞いたことがある。
目の裏側に行くくらいまではありそうだし、実際着けたまま寝たら目に悪いのは言うまでも無い。実際僕もそれで目の中でコンタクトを見失い、やっとのことで4つに折りたたまれたソフトコンタクトを目の中から救出したこともある。
それでも、メガネキャラになるよりは全然マシだった。
とはいえ、何度も目のゴロゴロを繰り返した結果、ついに目が限界を迎え、しばらくコンタクトを休止し、メガネで過ごすこともあった。
この頃になると、自分の好みでメガネを選ぶようになり、メガネをファッションの一部として楽しむ余裕も出てきた。
中高時代にあれだけ理想としていた、普段は裸眼(コンタクト)だけど必要なときだけメガネを掛けている人というキャラ設定がついに手に入ったのだ。
珍しい僕のメガネ姿を見た友達から「今日は知的だね」と言われたりすると、意外と悪い気はしない。
コンタクトの自分とメガネの自分、二つのスタイルを気分で使い分けられるようになり、セルフプロデュースができるようになった。
とはいえ、花粉症の季節は地獄だった。外出先で目がゴロゴロし始めると、すぐにコンタクトを外したくなる。でも、そんな日に限ってコンタクトケースと洗浄液が無かったり、メガネを持ってきていない。
春風が心地よいある昼下がり、僕は付き合って間もない彼女とデートしていた。
「ねえ、ちゃんと聞いてる?」
「え? あ、うん、聞いてる聞いてる!」
僕は花粉で目がゴロゴロして心ここにあらず。
頭の中は「コンタクト外したい!」で支配されている。
もちろん彼女は、そんな僕の心境を知る由もない。
「なんか今日、ずっと上の空じゃない?」
「ごめん、ちょっと目が痛くてさ……」
「え、目?」
裸眼視力1.5の彼女には、コンタクトの苦しみなんて理解できるわけもない。
説明すればするほど言い訳がましく聞こえて、彼女の機嫌はどんどん悪くなっていった。
危うく振られかけたこの日、僕はコンタクトと替えのメガネ無しでは生きられない自分の近眼を呪った。
ある日なんて、目の異物感に我慢できなくなり、当日作成可能な眼鏡店に駆け込んだ。
視力検査を受け、特急料金込みで数万円という出費に泣いた。
その日はとにかくコンタクトを外したい一心ですぐ作れるフレームをろくに吟味せず決めた。
まあそもそも裸眼になってメガネを試着したところで自分の顔はぼやけて見えないのは、全ての近眼の人の共感を得られるところだろう。
でもその場で手に入れたメガネは高かっただけにそれなりにオシャレで、以降も愛用した。
ただ、メガネもコンタクトも外した僕は完全なド近眼だ。
特に困るのがサークルの合宿などで入る大浴場。
メガネとコンタクト無しで生活できなくなった僕の視力は裸眼で0.01以下。
たまにコンタクトの度数更新で行う視力検査で示されたものが、Cの字みたいなやつか、ひらがなか、カタカナか、アルファベットか、記号かもわからないレベルだ。
さらに湯気で浴場内は霞んでいる。当たり前だが一緒に入る友達は服を着ていないので、ぼんやり見える服装で見分けることもできない。
コンタクト生活に慣れていたので、気配だけで人物を見分けるスキルはさらに落ちていたのですぐそばにいる人さえ誰なのか判別不能。
友達と別々の洗い場で体を洗って湯船に浸かっていた僕は、近くにいた人物をサークルの同級生だと思い込み、気軽に話しかけた。だが、突然話しかけられて戸惑った様子で、曖昧な返事しか返してこない。何か様子がおかしい。
「?」と思っていると、反対側から同級生の声が聞こえ、僕は血の気が引いた。
僕が話しかけた相手はまったく見知らぬおじさんだった。
慌てておじさんに平謝りしたのは、言うまでもない。
風呂場でメガネが曇るにもかかわらずメガネを掛けている人はこういうアクシデントに備えているのだろう。
このとき初めて勉強になった。
入学当初は黒髪で垢抜けないメガネの風貌だった友人たちが、次々と髪を染め、服装に気を使い、コンタクトレンズを導入していく。いわゆる「大学デビュー」だ。
このペースは速い。
5月くらいまでには完了していないと、垢抜けないままの第一印象が周囲に定着してしまい大学生活4年間を決定づける。誰もがそれに気付いたのだろう。もしかしたら高校卒業から大学の入学式までの間に完了した同級生も多かったかもしれない。
とにかく大学1年生の4月に「大学デビュー」のムーブメントが起きていた。
僕もここが最後のチャンスだと思った。
この波に乗り遅れれば、大学でもパッとしないキャラが定着し、これまでと同じ地味なポジションを引きずることになる。一度付いたイメージは消えない。
高校時代までの僕を知っているやつはいない。今ならまだ変えられる。
僕は一念発起し、眼科でコンタクトレンズを作った。
ついでに髪も染め、黒髪メガネの地味キャラになる前に、イメージチェンジを果たしたのだ。
今振り返っても、あの決断は僕にしては正解だったと思う。
「周りの波に流されて自分の外見を陽キャ風に変えるとか、逆にダサいわ。」とか斜に構えて、結局不満を抱えながら周囲を羨み、そして根暗街道を突き進むのが今までの僕の性格だった。
こうして明るいタイプの友人も増え、彼女もできたし基本的に順風満帆な大学生活を送ることができた。
というか、なぜもっと早く中学なり高校からコンタクトレンズを導入しなかったのか。
今さらながらバカみたいだ。メガネをかけるのがそんなに嫌だったなら、さっさとコンタクトにすればよかったのに。
とはいえ、コンタクトレンズにも色々と制約がある。
僕が使っていたのは、寝るときに必ず外さないといけないタイプ。友達の家に泊まるときには、毎回コンタクトケースと洗浄液を持参しなければならない。これが地味に面倒くさい。
予定外の外泊になるときは特に厄介で、ドラッグストアで買うことになる。小分けの洗浄液なんかがどんどん増えていく。
コンタクト仲間の間で洗浄液を融通し合うことができると、妙な連帯感が生まれる。
買うタイミングを逃したときは仕方なくつけたまま寝ることもある。一晩くらいいいだろうと思うのだが、これをやると翌朝、目の中でレンズがカピカピになり、激しい異物感で一日中目の中がゴロゴロする羽目になる。
目薬を差しまくっても焼け石に水。もう何にも集中できない。
授業中にうっかり寝落ちしてしまった程度でも、熟睡してしまうと目が乾いて同じ事になるので油断できない。
コンタクトの都市伝説にもいつも怯えていた。コンタクトを着けたまま寝てしまうとレンズが目の裏側に行って取れなくなってしまう。そしてそれが何枚も溜まっていくと脳のほうまで行ってしまって死亡するなんてのも聞いたことがある。
目の裏側に行くくらいまではありそうだし、実際着けたまま寝たら目に悪いのは言うまでも無い。実際僕もそれで目の中でコンタクトを見失い、やっとのことで4つに折りたたまれたソフトコンタクトを目の中から救出したこともある。
それでも、メガネキャラになるよりは全然マシだった。
とはいえ、何度も目のゴロゴロを繰り返した結果、ついに目が限界を迎え、しばらくコンタクトを休止し、メガネで過ごすこともあった。
この頃になると、自分の好みでメガネを選ぶようになり、メガネをファッションの一部として楽しむ余裕も出てきた。
中高時代にあれだけ理想としていた、普段は裸眼(コンタクト)だけど必要なときだけメガネを掛けている人というキャラ設定がついに手に入ったのだ。
珍しい僕のメガネ姿を見た友達から「今日は知的だね」と言われたりすると、意外と悪い気はしない。
コンタクトの自分とメガネの自分、二つのスタイルを気分で使い分けられるようになり、セルフプロデュースができるようになった。
とはいえ、花粉症の季節は地獄だった。外出先で目がゴロゴロし始めると、すぐにコンタクトを外したくなる。でも、そんな日に限ってコンタクトケースと洗浄液が無かったり、メガネを持ってきていない。
春風が心地よいある昼下がり、僕は付き合って間もない彼女とデートしていた。
「ねえ、ちゃんと聞いてる?」
「え? あ、うん、聞いてる聞いてる!」
僕は花粉で目がゴロゴロして心ここにあらず。
頭の中は「コンタクト外したい!」で支配されている。
もちろん彼女は、そんな僕の心境を知る由もない。
「なんか今日、ずっと上の空じゃない?」
「ごめん、ちょっと目が痛くてさ……」
「え、目?」
裸眼視力1.5の彼女には、コンタクトの苦しみなんて理解できるわけもない。
説明すればするほど言い訳がましく聞こえて、彼女の機嫌はどんどん悪くなっていった。
危うく振られかけたこの日、僕はコンタクトと替えのメガネ無しでは生きられない自分の近眼を呪った。
ある日なんて、目の異物感に我慢できなくなり、当日作成可能な眼鏡店に駆け込んだ。
視力検査を受け、特急料金込みで数万円という出費に泣いた。
その日はとにかくコンタクトを外したい一心ですぐ作れるフレームをろくに吟味せず決めた。
まあそもそも裸眼になってメガネを試着したところで自分の顔はぼやけて見えないのは、全ての近眼の人の共感を得られるところだろう。
でもその場で手に入れたメガネは高かっただけにそれなりにオシャレで、以降も愛用した。
ただ、メガネもコンタクトも外した僕は完全なド近眼だ。
特に困るのがサークルの合宿などで入る大浴場。
メガネとコンタクト無しで生活できなくなった僕の視力は裸眼で0.01以下。
たまにコンタクトの度数更新で行う視力検査で示されたものが、Cの字みたいなやつか、ひらがなか、カタカナか、アルファベットか、記号かもわからないレベルだ。
さらに湯気で浴場内は霞んでいる。当たり前だが一緒に入る友達は服を着ていないので、ぼんやり見える服装で見分けることもできない。
コンタクト生活に慣れていたので、気配だけで人物を見分けるスキルはさらに落ちていたのですぐそばにいる人さえ誰なのか判別不能。
友達と別々の洗い場で体を洗って湯船に浸かっていた僕は、近くにいた人物をサークルの同級生だと思い込み、気軽に話しかけた。だが、突然話しかけられて戸惑った様子で、曖昧な返事しか返してこない。何か様子がおかしい。
「?」と思っていると、反対側から同級生の声が聞こえ、僕は血の気が引いた。
僕が話しかけた相手はまったく見知らぬおじさんだった。
慌てておじさんに平謝りしたのは、言うまでもない。
風呂場でメガネが曇るにもかかわらずメガネを掛けている人はこういうアクシデントに備えているのだろう。
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