視界を変えれば、人生が変わる…かもしれない(僕のド近眼物語)

もっくん

文字の大きさ
3 / 5

視力0.01 コンタクトレンズで「大学デビュー」

しおりを挟む
大学に入ると、転機が訪れた。
入学当初は黒髪で垢抜けないメガネの風貌だった友人たちが、次々と髪を染め、服装に気を使い、コンタクトレンズを導入していく。いわゆる「大学デビュー」だ。
このペースは速い。
5月くらいまでには完了していないと、垢抜けないままの第一印象が周囲に定着してしまい大学生活4年間を決定づける。誰もがそれに気付いたのだろう。もしかしたら高校卒業から大学の入学式までの間に完了した同級生も多かったかもしれない。
とにかく大学1年生の4月に「大学デビュー」のムーブメントが起きていた。

僕もここが最後のチャンスだと思った。
この波に乗り遅れれば、大学でもパッとしないキャラが定着し、これまでと同じ地味なポジションを引きずることになる。一度付いたイメージは消えない。
高校時代までの僕を知っているやつはいない。今ならまだ変えられる。
僕は一念発起し、眼科でコンタクトレンズを作った。
ついでに髪も染め、黒髪メガネの地味キャラになる前に、イメージチェンジを果たしたのだ。

今振り返っても、あの決断は僕にしては正解だったと思う。
「周りの波に流されて自分の外見を陽キャ風に変えるとか、逆にダサいわ。」とか斜に構えて、結局不満を抱えながら周囲を羨み、そして根暗街道を突き進むのが今までの僕の性格だった。

こうして明るいタイプの友人も増え、彼女もできたし基本的に順風満帆な大学生活を送ることができた。
というか、なぜもっと早く中学なり高校からコンタクトレンズを導入しなかったのか。
今さらながらバカみたいだ。メガネをかけるのがそんなに嫌だったなら、さっさとコンタクトにすればよかったのに。


とはいえ、コンタクトレンズにも色々と制約がある。
僕が使っていたのは、寝るときに必ず外さないといけないタイプ。友達の家に泊まるときには、毎回コンタクトケースと洗浄液を持参しなければならない。これが地味に面倒くさい。
予定外の外泊になるときは特に厄介で、ドラッグストアで買うことになる。小分けの洗浄液なんかがどんどん増えていく。
コンタクト仲間の間で洗浄液を融通し合うことができると、妙な連帯感が生まれる。

買うタイミングを逃したときは仕方なくつけたまま寝ることもある。一晩くらいいいだろうと思うのだが、これをやると翌朝、目の中でレンズがカピカピになり、激しい異物感で一日中目の中がゴロゴロする羽目になる。

目薬を差しまくっても焼け石に水。もう何にも集中できない。

授業中にうっかり寝落ちしてしまった程度でも、熟睡してしまうと目が乾いて同じ事になるので油断できない。

コンタクトの都市伝説にもいつも怯えていた。コンタクトを着けたまま寝てしまうとレンズが目の裏側に行って取れなくなってしまう。そしてそれが何枚も溜まっていくと脳のほうまで行ってしまって死亡するなんてのも聞いたことがある。
目の裏側に行くくらいまではありそうだし、実際着けたまま寝たら目に悪いのは言うまでも無い。実際僕もそれで目の中でコンタクトを見失い、やっとのことで4つに折りたたまれたソフトコンタクトを目の中から救出したこともある。


それでも、メガネキャラになるよりは全然マシだった。
とはいえ、何度も目のゴロゴロを繰り返した結果、ついに目が限界を迎え、しばらくコンタクトを休止し、メガネで過ごすこともあった。

この頃になると、自分の好みでメガネを選ぶようになり、メガネをファッションの一部として楽しむ余裕も出てきた。
中高時代にあれだけ理想としていた、普段は裸眼(コンタクト)だけど必要なときだけメガネを掛けている人というキャラ設定がついに手に入ったのだ。

珍しい僕のメガネ姿を見た友達から「今日は知的だね」と言われたりすると、意外と悪い気はしない。
コンタクトの自分とメガネの自分、二つのスタイルを気分で使い分けられるようになり、セルフプロデュースができるようになった。

とはいえ、花粉症の季節は地獄だった。外出先で目がゴロゴロし始めると、すぐにコンタクトを外したくなる。でも、そんな日に限ってコンタクトケースと洗浄液が無かったり、メガネを持ってきていない。

春風が心地よいある昼下がり、僕は付き合って間もない彼女とデートしていた。
「ねえ、ちゃんと聞いてる?」
「え? あ、うん、聞いてる聞いてる!」
僕は花粉で目がゴロゴロして心ここにあらず。
頭の中は「コンタクト外したい!」で支配されている。
もちろん彼女は、そんな僕の心境を知る由もない。
「なんか今日、ずっと上の空じゃない?」
「ごめん、ちょっと目が痛くてさ……」
「え、目?」
裸眼視力1.5の彼女には、コンタクトの苦しみなんて理解できるわけもない。
説明すればするほど言い訳がましく聞こえて、彼女の機嫌はどんどん悪くなっていった。
危うく振られかけたこの日、僕はコンタクトと替えのメガネ無しでは生きられない自分の近眼を呪った。

ある日なんて、目の異物感に我慢できなくなり、当日作成可能な眼鏡店に駆け込んだ。
視力検査を受け、特急料金込みで数万円という出費に泣いた。

その日はとにかくコンタクトを外したい一心ですぐ作れるフレームをろくに吟味せず決めた。
まあそもそも裸眼になってメガネを試着したところで自分の顔はぼやけて見えないのは、全ての近眼の人の共感を得られるところだろう。
でもその場で手に入れたメガネは高かっただけにそれなりにオシャレで、以降も愛用した。


ただ、メガネもコンタクトも外した僕は完全なド近眼だ。
特に困るのがサークルの合宿などで入る大浴場。

メガネとコンタクト無しで生活できなくなった僕の視力は裸眼で0.01以下。
たまにコンタクトの度数更新で行う視力検査で示されたものが、Cの字みたいなやつか、ひらがなか、カタカナか、アルファベットか、記号かもわからないレベルだ。
さらに湯気で浴場内は霞んでいる。当たり前だが一緒に入る友達は服を着ていないので、ぼんやり見える服装で見分けることもできない。
コンタクト生活に慣れていたので、気配だけで人物を見分けるスキルはさらに落ちていたのですぐそばにいる人さえ誰なのか判別不能。

友達と別々の洗い場で体を洗って湯船に浸かっていた僕は、近くにいた人物をサークルの同級生だと思い込み、気軽に話しかけた。だが、突然話しかけられて戸惑った様子で、曖昧な返事しか返してこない。何か様子がおかしい。

「?」と思っていると、反対側から同級生の声が聞こえ、僕は血の気が引いた。
僕が話しかけた相手はまったく見知らぬおじさんだった。
慌てておじさんに平謝りしたのは、言うまでもない。

風呂場でメガネが曇るにもかかわらずメガネを掛けている人はこういうアクシデントに備えているのだろう。
このとき初めて勉強になった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

投稿インセンティブで月額23万円を稼いだ方法。

克全
エッセイ・ノンフィクション
「カクヨム」にも投稿しています。

アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?

無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。 どっちが稼げるのだろう? いろんな方の想いがあるのかと・・・。 2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。 あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

アルファポリスのポイントとスコア、インセンティブを考える

まめたろう
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスのポイントとスコア、インセンティブを考えていきます。 どのような仕組みなのか? 勉強した結果や実践して確認した結果などについて紹介します。 私が書いている主な小説は以下の通り。こちらからのポイント、スコア、インセンティブだと思っていただければと思います(追加の可能性あり)。 今日もダンジョンでレベルアップ! https://www.alphapolis.co.jp/novel/979192886/698023188

処理中です...