うどん大食いチャレンジ体験談

もっくん

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何の変哲も無いうどん屋が誕生

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さて、そんな鬼門テナントの歴史の中で、ひときわ地味な存在感を放つ店があった。なんの変哲もない、ただのうどん屋である。ラーメン店が次々とかわりばんこに入っていたその場所に、突如としてうどんという選択肢が提示されたのは、ある意味で意外性があった。しかも、価格はラーメン店の頃よりも微妙に安い。財布にやさしい新風だ。
しかし、その期待は看板に印刷された写真を見た瞬間に萎える。
「地味だ…」

讃岐でも水沢でも博多でもなく、それ以外のどこかのご当地スタイルを踏襲しているわけでもない。肉うどん専門店でもなければ、天ぷらが売りの店でもない。店主こだわりの手打ち麺というわけでもなく、立ち食いそばのような回転の早さや価格攻勢を武器にしているわけでもない。
つまり、ひたすら「普通のうどん」なのだ。

デフォルトのうどんは、渦巻きナルトとわかめがちょこんと載っただけ。麺は細くも太くもなく、ツヤもコシも特別なものを感じさせない。あとは天ぷらとか肉のトッピングで変化を付けるスタイルだがそれも作り置きスタイルだし特別美味しそうではない。
店外観察の時点で、ここから何か特別な感動が得られる気配は皆無だった。

しかし、この店にはひとつだけ、僕の心にしっかり引っ掛かるポイントがあった。
大盛りチャレンジうどんである。
価格2000円。他のメニューが600円台中心で並ぶ中、異彩を放つ圧倒的高額メニュー。麺の量は1.5キロ。トッピングはナルト5枚、わかめとネギが山のように盛られ、その上に天ぷらが5個ほど無造作に鎮座している。さらに、生卵が中央にちょこんと落とされ、月見仕様。もはや風流という言葉は1ミリも似合わない。あるのはただのドカ盛り。圧倒的物量だ。
達成すればその代金が無料になる。それだけ。

特に賞品や次回の割引券がもらえるといった特典は記載されていなかった。
驚くべきことに、オープンして間もないにもかかわらず、店内の壁にはすでに達成者の写真が並べられていた。達成タイムとともに、6~7名の挑戦者たちが誇らしげに、あるいは照れながら笑っている。中には、「あ、これは明らかに大食い勢だな」という巨漢タイプもいたが、意外にも普通体型の人が何人か混ざっている。痩せの大食い。僕と同じタイプだ。

正直、店そのものにはこれっぽっちも期待していなかった。だが、僕はうどんが好きだ。
讃岐うどん食べ歩きのために飛行機で香川県に赴いて1日7件のうどん屋をはしごしたこともある。もちろんそれは大食いが目的ではなく、単純に讃岐うどんが美味しいから短時間の旅行で1件でも多くのうどん屋を巡りたかったからではある。
しかし1日に僕の胃袋に入ったうどんの量は10玉を軽く越えていた。つまり僕の胃袋のうどんキャパシティは大盛りチャレンジうどんをクリアできるポテンシャルを持っているのだ。
普段から「うどんなら無限に食える」と豪語している自覚もある。さらに、友人からも「痩せてるくせに食うな、お前」とよく言われていた。つまり、大食いに対する自負がそれなりにあるのだ。
そして何より、このチャレンジメニューという存在そのものが、僕の中の何かを静かに刺激してきた。

これ、いけるんじゃね?
達成すれば、友人たちに自慢できる。飲み会で話せば、間違いなく盛り上がる。「あの鬼門テナントの大盛りうどんを完食した男」として語り継がれる未来が、一瞬で脳内に浮かんだ。
そう考えた時にはもう、僕の中で答えは出ていた。
挑戦するしかない。ただし失敗した時のために友人内でこのチャレンジは秘密にしておいた。
明日達成するぜ!と豪語した後に失敗すれば情けない。失敗した場合には挑戦自体なかったことにすればいい。なんなら後日また挑戦して達成してから言いふらせばいい。

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