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うどん大食いチャレンジスタート
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僕は例の大盛りチャレンジうどんに挑むべく、前日の夜から戦いを始めていた。夕食は控えめにし、当日の朝は一切食べない。胃袋を空腹モードのピークに仕上げ、万全のコンディションでランチタイムを迎えた。まるで試合前のアスリート、マラソン前の選手のような気合いである。
そして待ちに待った昼の時間。ついに僕はその店の暖簾をくぐり、チャレンジうどんを注文した。
店員は慣れた手つきでストップウォッチを取り出し、「制限時間は25分です。準備はよろしいですか?」と確認してくる。
ご丁寧に僕が割り箸を割り、丼に手を伸ばした瞬間まで傍らで待っていてくれる。
「ピッ」
ストップウォッチがスタートして、いよいよ僕の戦いが始まった。
実物は写真よりずっと迫力があった。巨大な洗面器のような専用丼に、うどんが山のように盛られている。運ばれた瞬間、テーブルがほんの少し揺れ、「ズシン!」という低い音が鳴る。その重みだけで、店の本気度が伝わってくる。
飲食店用にこんな丼が存在していることがまず驚きだ。複数人で取り分けるサラダボウルにするとしてもデカくて深すぎる。デザインはラーメンというよりはうどん用だがこの量のうどんが提供されるシチュエーションはここのようなチャレンジメニュー以外に思い浮かばない。
まさか飲食店向けの調理器具問屋街ではこんなチャレンジメニュー用途の丼が一般的なのだろうか。
なにより他に用途のないこんなデカ盛り丼を用意するほどに店主がチャレンジメニューに熱量を持っていることが意外であった。
繰り返すがここは地味なうどん屋でありこのチャレンジメニュー以外にエンタテインメント性は皆無。店員もどちらかと言えば無愛想。
このメニューの片隅に掲載されたチャレンジメニューだけが唯一異質なのだ。
巨大な丼にひるんだとはいえ、スタート時点の僕は完璧な空腹状態。最初の数分は圧倒的ハイペースで麺をすすり、心の中で「これならいけそうだわ」と余裕をかましていた。麺の量が1.5キロという事前情報があったので覚悟はしていたが、それでも想像以上だった。
まず、麺がとにかく重い。割り箸を持つ手の疲労が、胃袋の限界より先に来そうなのだ。一度にまとめて掴むと、1口どころか1房と呼びたくなるほど巨大な小麦粉の塊が形成され、噛み切るのにも時間がかかる。噛み切った麺はバシャッと丼に落ちてスープが飛び散る。タイムロスになるので、途中からは戦法を変更した。
麺を1本ずつ拾い、一端を口に入れ、ズルズルとすすり始めている間に次の麺をつまむ。
まるで工場のライン作業のような無限ループである。
しかし、食べても食べても麺が減らない。減っているはずなのに減っているようには見えない。まさにうどんの底なし沼。一心不乱にすすり続けていても、塊になっていた麺がほぐれていくだけで見た目の物量がほとんど変わらない。視界に入る麺量は常にスタート時の8割ぐらいを保ち続けている気がする。裏腹に自分の胃袋の圧迫感は正確に限界へのカウントダウンを開始しているのがわかる。これは心理的にくる。
時折、気分転換のつもりで大ぶりな鶏天を口に運ぶ。揚げ物の脂の香りが、無味単調なうどん地獄にわずかな変化を与えてくれる。しかし、その変化も長くは続かない。というか深く味わってしまうとタイムロスだし鶏天の味が満腹中枢を刺激する。飲み込めるサイズに噛み切ったらそのまま水で流し込む。そしてすぐまた無限に続く麺削り作業へと戻らねばならないのだ。
鶏天を水で流し込み、麺を食べ、わかめを食べ、水を流し込み、また麺へ戻る。この繰り返し。
カウンター上でこちらから見えるように置かれたストップウォッチの数字は刻一刻と進み、残り時間と胃袋の状態が徐々に接近してくる。最初は余裕だった僕の額にも、じわりと汗が滲み始めた。
食べても食べても、減らない。
例によって僕の他に客がいないので麺をすする音が響き渡り、どんどん悲壮感を帯びていく。
店員は無表情で僕を横目に見ながら仕込み作業をしている。励ますでもなく、不正を見張るでもなく、単なる一般客と大差ない気の向けようだった。
そして待ちに待った昼の時間。ついに僕はその店の暖簾をくぐり、チャレンジうどんを注文した。
店員は慣れた手つきでストップウォッチを取り出し、「制限時間は25分です。準備はよろしいですか?」と確認してくる。
ご丁寧に僕が割り箸を割り、丼に手を伸ばした瞬間まで傍らで待っていてくれる。
「ピッ」
ストップウォッチがスタートして、いよいよ僕の戦いが始まった。
実物は写真よりずっと迫力があった。巨大な洗面器のような専用丼に、うどんが山のように盛られている。運ばれた瞬間、テーブルがほんの少し揺れ、「ズシン!」という低い音が鳴る。その重みだけで、店の本気度が伝わってくる。
飲食店用にこんな丼が存在していることがまず驚きだ。複数人で取り分けるサラダボウルにするとしてもデカくて深すぎる。デザインはラーメンというよりはうどん用だがこの量のうどんが提供されるシチュエーションはここのようなチャレンジメニュー以外に思い浮かばない。
まさか飲食店向けの調理器具問屋街ではこんなチャレンジメニュー用途の丼が一般的なのだろうか。
なにより他に用途のないこんなデカ盛り丼を用意するほどに店主がチャレンジメニューに熱量を持っていることが意外であった。
繰り返すがここは地味なうどん屋でありこのチャレンジメニュー以外にエンタテインメント性は皆無。店員もどちらかと言えば無愛想。
このメニューの片隅に掲載されたチャレンジメニューだけが唯一異質なのだ。
巨大な丼にひるんだとはいえ、スタート時点の僕は完璧な空腹状態。最初の数分は圧倒的ハイペースで麺をすすり、心の中で「これならいけそうだわ」と余裕をかましていた。麺の量が1.5キロという事前情報があったので覚悟はしていたが、それでも想像以上だった。
まず、麺がとにかく重い。割り箸を持つ手の疲労が、胃袋の限界より先に来そうなのだ。一度にまとめて掴むと、1口どころか1房と呼びたくなるほど巨大な小麦粉の塊が形成され、噛み切るのにも時間がかかる。噛み切った麺はバシャッと丼に落ちてスープが飛び散る。タイムロスになるので、途中からは戦法を変更した。
麺を1本ずつ拾い、一端を口に入れ、ズルズルとすすり始めている間に次の麺をつまむ。
まるで工場のライン作業のような無限ループである。
しかし、食べても食べても麺が減らない。減っているはずなのに減っているようには見えない。まさにうどんの底なし沼。一心不乱にすすり続けていても、塊になっていた麺がほぐれていくだけで見た目の物量がほとんど変わらない。視界に入る麺量は常にスタート時の8割ぐらいを保ち続けている気がする。裏腹に自分の胃袋の圧迫感は正確に限界へのカウントダウンを開始しているのがわかる。これは心理的にくる。
時折、気分転換のつもりで大ぶりな鶏天を口に運ぶ。揚げ物の脂の香りが、無味単調なうどん地獄にわずかな変化を与えてくれる。しかし、その変化も長くは続かない。というか深く味わってしまうとタイムロスだし鶏天の味が満腹中枢を刺激する。飲み込めるサイズに噛み切ったらそのまま水で流し込む。そしてすぐまた無限に続く麺削り作業へと戻らねばならないのだ。
鶏天を水で流し込み、麺を食べ、わかめを食べ、水を流し込み、また麺へ戻る。この繰り返し。
カウンター上でこちらから見えるように置かれたストップウォッチの数字は刻一刻と進み、残り時間と胃袋の状態が徐々に接近してくる。最初は余裕だった僕の額にも、じわりと汗が滲み始めた。
食べても食べても、減らない。
例によって僕の他に客がいないので麺をすする音が響き渡り、どんどん悲壮感を帯びていく。
店員は無表情で僕を横目に見ながら仕込み作業をしている。励ますでもなく、不正を見張るでもなく、単なる一般客と大差ない気の向けようだった。
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