転生したら女性向け恋愛小説の中でした。〜前世はオタク、恋愛経験ゼロ男のシンデレラストーリー〜

胡桃

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本編

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 アンネリー皇女とレオナルドたち侯爵家子息一行が校舎内に入っていき、アンネリー皇女が乗ってきた馬車が帰っていくと、その場にいた生徒たちが順に校舎内へと入っていく。
 その光景を何とはなしに眺めていて、ふと気づいたことがあった。

 (目がうつろになっている人が多い……?)

 ミハイルやマーティンは普段通りに見えるが、他の人たちの中には一切の感情が抜け落ちたような表情の人が複数いて、そうではない人たちは彼らを避けているように見えた。

 (……どういうこと? 学院で何が起こっているんだ?)

 そもそも、皆が一斉にアンネリー皇女に跪いたところから、おかしいと思っていた。
 僕たち自身はまだ爵位も持っていない未成年者の集まりだが、グランストーム国王に忠誠を誓う貴族家の一員である以上、カールハインツ陛下を差し置いて、他国の皇族におもねるようなことがあってはならない。
 それがまかり通ってしまえば、グランストーム王国の民が、アンネリー皇女スレンダール皇国からの支配を受け入れたも同然ということになってしまうのだから。
 そんなことは、いくら寛大な心を持つカールハインツ陛下でも、許容してくれないだろう。
 下手をすれば、国家叛逆はんぎゃくを企てた者として、一族郎党全ての者が処刑されるかもしれない。

 (それに何故、侯爵家のレオナルドたちは平伏しなかったのだろう?)

 僕たちが跪く中、レオナルドを含む侯爵家の子息たちは、アンネリー皇女の周囲に集まっていただけで、誰も膝をついていないようだった。
 彼らが去るまで顔を上げられなかったので、あの場に侯爵家令嬢たちもいたかどうかはわからないが、レオナルドがアンネリー皇女の取り巻きの筆頭に立っているのだとしたら、家格で線引きされているのは間違いない。
 レオナルドは、相手が誰であれ伯爵家以下の人間というだけで侮ったような態度を取っていたし、同格の人間であっても自分の上に置くことはしないので、恐らく僕の推測通りだろう。
 そんなことを考えながら、他の生徒たちをつぶさに観察する。
 そして、目が虚になっている者たちの中に、前世で耳にしたことがある“ムードメーカー”や“カリスマ”と呼ばれるたぐいの性質を持つ人たちがいることに気づいた。
 僕は普段、彼らとは積極的に関わってこなかったので、各々の詳しい人柄は知らないが、彼らは学院内で何か問題が起これば真っ先に声を上げるような者たちで、それぞれに他者を導く能力が備わっているように思っていた。
 しかし、レオナルドのような上位貴族家子息かつ格差主義である者からは疎まれていたため、頻繁に衝突していたのも事実ではあるけれど。

 (……以前まで、彼らの周囲には人が絶えなかったのに……)

 彼らは目端が利き、気配りも上手いので、同級生のみならず下級生にも慕われ、いつ見てもたくさんの人々に囲まれて笑っていた。
 それが今では、虚な表情でぼんやり歩いているなんて、異様な光景にしか見えない。

「……ねぇ、ミハイル……」

 先程、ミハイルやマーティンに促されて跪くときに、ミハイルは『後で話す』と言った。
 つまり、少なくとも彼らは、この状況を異様に思っているはずだと思い、詳細を聞き出そうと僕はミハイルに呼びかけた。

「シッ、わかってる。ちゃんと話す。でも、今この場では言えない……できれば、学院の外で話したい」

 僕が何を言うつもりか察したミハイルが、僕の言葉を遮るべく口早にそう言った。
 ミハイルは周囲の目を気にしているのか、忙しなく視線を辺りに巡らせており、僕たちにしか聞こえないほど小さな声だった。
 そして、その口元がほとんど動いていないことから、誰かに唇の動きを読ませないようにしているように見え、僕は慌てて口を閉ざした。

 (……誰かわからないけど、この場に良からぬ人がいるんだ……)

 思い至った考えに、心臓が嫌な感じに跳ね上がり、目眩を起こしそうだった。
 その瞬間、ミハイルとマーティンが大袈裟なくらいに驚いた表情を浮かべ、両側からガシッと僕の体を支えた。

「エリオット‼︎ 大丈夫か? やっぱり、病み上がりですぐ登校なんて無茶だったんだよ‼︎ 俺たちが付き添うから今日はもう帰ろう」

 ミハイルがそう言い、屋敷に帰るため方向転換をして順番待ちをしていたマールグリット伯爵家の馬車を指し示した。
 何事かと驚いている内に僕はマーティンに抱え上げられ、あれよあれよと言う間に馬車内に押し込められた。
 その後、ミハイルも乗り込むと、御者が何か言う前に馬車の扉を閉めて内鍵を掛けてしまう。

「ぼ、坊っちゃま? あの、どうしたら……」
 
 御者台の窓から戸惑った様子の御者が顔を覗かせ、今にも泣きそうな声を出したので、何か答えようと思ったが、マーティンに口を押さえられている所為で何も話せなかった。

「エリオットは具合が悪くなったから、マールグリット伯爵の屋敷に帰るんだ。急いでくれ‼︎」

「な、何ですって? わ、わかりました‼︎ すぐにお連れします‼︎」

 僕たちのやりとりを知らない御者は、ミハイルの切羽詰まった様子の言葉を信じ込み、顔面蒼白になると御者台に座り直したようで、程なくして馬車が走り出した。

 (……これ、はたから見たら誘拐現場っぽくないかな……)

 誰かから逃げるような形ではあったが、何も知らない第三者の目には不穏な行動に映っていたことだろう。
 僕は馬車が走り出す際に解放されたものの、ほんの少しだけ居心地の悪さを感じていた。

 (……しかも、僕の家にカールハインツ陛下がいるのに、このままミハイルたちを連れて帰っても良いんだろうか……)

 恐らく二人は敵ではないと思うのだが、万が一ということもあり得るので、この状況をどう打開すれば良いのか考えてみたが、いくら考えても答えは見つからなかった。

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