転生したら女性向け恋愛小説の中でした。〜前世はオタク、恋愛経験ゼロ男のシンデレラストーリー〜

胡桃

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本編

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 屋敷に到着すると、心配性のキースに医師を呼ばれそうになるという一悶着があったが、どうにか説得し、ミハイルとマーティンを僕の部屋へ招き入れた。
 付き添おうとしてきたキースを丁重に追い払い、僕たちはそれぞれソファに座って一息つく。

「……えっと、早速本題に入っても良い?」

 いつも天真爛漫なミハイルが、これまで見たことないほど真剣な表情で考え込んでいることに、とても重大な話を聞かされることになるのだろうと推測する。
 寡黙なマーティンが何を考えているかはわからないが、ミハイルを見つめたまま微動だにしないので、話をするのはミハイルだとあたりをつけて、僕の方から話を切り出すことにした。

「あぁ、うん……そうだな、どこから話せば良いか……」

 ミハイルは腕を組み、ウンウン唸りながら首を左右に傾げる。
 思いつくままポンポンと絶えず話すことが多いミハイルが、こんな風に言い淀む姿なんて僕は見たことがない。
 学院外での付き合いはほぼないような間柄ではあるが、学院内での僕たち三人はいつも一緒にいるため、それなりに素を見せ合える関係でもあった。

「一ヶ月……いや、もう一ヶ月半くらいになるのか? エリオットが突然倒れて、昏睡状態に陥ったのは……」

 ミハイルの言葉に僕は無言で頷く。
 僕は自分が倒れた前後の記憶が曖昧で、直前までどこで何をしていたのか覚えていない。
 目を覚ましてから既に二週間ほど経っているので、父から聞いた話によると大体そのくらいの時期と言えるだろう。

「俺たちがエリオットの状況を知ったのは、エリオットが倒れた日の翌朝だった。たまたま用事があって教員棟に向かったら、マールグリット伯爵の遣いの侍従が事務室で休学届を提出していたんだ。事務員に理由を尋ねられて、彼はエリオットが体調不良で寝込んでしまったのだと答えていて……」

 (……父様はすぐに休学届を提出したのか……)

 通常、ちょっとした体調不良で休学届を提出するようなことはしない。
 なので、僕は倒れた直後にはもう昏睡状態に陥っていたということで、すぐに目を覚ます見込みもなかったということである。
 
「前日に学院で会ったエリオットは元気で、体調不良には見えなかったし、欠席届じゃなくて休学届を提出しているのはおかしいと思って、俺たちは始業の鐘が鳴る前に学院を抜け出し、すぐにここへ向かった。それで、マールグリット伯爵からエリオットは昏睡状態で面会謝絶だと言われたんだ」

 ミハイルはそこまで言うと、一旦話すのをやめ、僕の顔をじっと見つめた。

「……どうしたの?」

「お前、今はもう何ともないということで良いんだよな?」

「うん、医師からは体力も戻ってきてるし、大丈夫だろうって言われたから復学できるようになって……」

「魔力は?」

「魔力? 魔力も回復はしてきているよ。まだちょっと足りないけど、命には関わらないくらいには戻ったよ」

 両親やキース、医師の話から察するに、僕が昏睡状態に陥っていた間はかなり魔力を消耗していたらしい。
 しかも、魔力回復薬を用いても魔力が回復しなかったらしく、両親は絶望感を味わったと言っていた。
 この世界における魔力は、個人の生命力と同義なので、減れば減るほど命に危険が及ぶ。
 通常、この世界では空気中に魔素が含まれているので、ただそこにいるだけで魔素を吸収し、魔力は自然に回復していく。
 王城の地下牢などでは、投獄された者が魔法を使って抵抗したり脱獄したりできないよう、魔力抑制機能魔力封じが施されている場合もあるが、普通に生活する場にそういった機能が用いられていることはない。
 もちろん、この屋敷にもそんな機能はついていないので、通常なら僕の魔力は消費するのと同時に自然回復していくはずであった。
 魔力抑制機能以外で魔力が減少していく要因として考えられるのは、魔力減少症や魔力欠乏症といったこの世界特有の病、魔力吸収効果がある魔道具が挙げられる。
 しかし、それらの場合、魔力回復薬を飲めば魔力が回復するので、一切の効果がないということはあり得ない。

(そういえば、古代魔法に禁呪があったはず……)
 
 以前、国立図書館で古代魔法の研究論文を閲覧した際に、大昔には魔力を枯渇させる呪術があったという記録を見たことがあるのだが、過去の大賢者と呼ばれる人物が、この呪法は使い方を誤れば大量虐殺が可能となるため危険すぎると言って、魔法式を含めた関連書物を全て焼き尽くし、現代には禁呪とされたこと以外の情報は受け継がれていない――失われた魔法ロストマジックとなっていた。
 更に、これは呪詛という扱いになるので、もし使われていたら解呪魔法を使わない限り解くことはできず、どんなにささやかな呪詛であっても自然に解けることはあり得ないので、この場合はそのまま死に至ることになるだろう。
 両親も医師も誰一人として、呪詛であるとは考えていなかったので、僕は解呪魔法を受けたわけではない。
 自然に目を覚ますことができたのなら、呪詛ではなかったということになるのだが……。

 (どこか違和感があるというか……呪詛を受けたと言われた方がしっくりくるような気がするんだよな……)

 現代にくだんの呪術を使える者は存在していないはずなのに、どうしてこんなにも気にかかるのだろうか。
 そして、何故、ミハイルが僕の魔力について確認したのか……現時点の情報だけでその理由を推測することは難しかった。
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