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本編
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しおりを挟む「……二人が皇女様の話をした場所は学院だったの?」
ふと気になったことを訊ねてみる。
先程聞いた話では、学院内で噂話をしたり陰口を叩いたりした者がおかしくなったということだった。
だから、ミハイルたちが無事なのは、アンネリー皇女の話をした場所が関係しているのではないかと思ったのだ。
「最初に同級生から話を聞いたときは、学院の中で俺たちも話した。その頃には、チラホラ様子がおかしくなっている奴らが出てきていて、翌日になって、話をしてくれた奴がおかしくなっていることに気づいてからは、学院の中ではしていない。俺たちは通学の馬車は別だから、屋敷に帰った後、どちらかの屋敷で落ち合って話すことはあったが……」
ミハイルはそこまで話すと、再びマーティンの方を見た。
「俺たちの話を聞いていたマーティンの妹が、翌日、学院から帰ってきたらおかしくなっていたんだ。恐らく、俺たちから聞いた内容を学院の友人に話したんだと思う」
マーティンの妹は僕たちより一つ下の学年に通う学院生だ。
学年が変わると授業数も変わるため、彼女は登校時にはマーティンと同じ馬車に乗っているが、下校時は別々で帰る。
そのため、帰宅するまで彼女の異変に気づけなかったそうだ。
更に不思議なことに、アンネリー皇女にまつわる話を見聞きしなければ、普段通りの様子でいられるらしい。
ただし、学院で見た、目が虚になっていた者たちは常にあの状態のままだそうだけれど。
「もしかして、さっき学院で僕が皇女様について訊こうとしたのを遮ったのは、マーティンの妹さんが近くにいたから?」
いつになく真剣な表情で阻止されたので、そのことに気を取られていたが、言われてみればあの場にはマーティンの妹の姿もあった。
それに思い至ると、ミハイルが周囲を窺う素振りを見せていたのは、良からぬ人物がいるというよりマーティンの妹のことを気にしていたのだと理解できる。
ただ、学院内でアンネリー皇女の話をしていることを知り、その者に対して何かをしたであろう人物が学院内にいることは間違いないだろうけれど。
「エリオットの言う通りだよ。あそこで皇女様の名前を出すわけにはいかなかった。マーティンの妹は、皇女様の姿がある内は様子がおかしくなるが、皇女様がいなくなれば戻ることがわかっているからな。それに、もし学院内で皇女様の話をして、お前に異変が起こったらまずいと思ったのもある」
「そうか、その可能性は考えていなかった。あそこで話していたら、僕も彼らと同じようになっていたかもしれないのか……。うーん、そもそも学院内で皇女様の話をすることが、異変のきっかけになっているのは間違いないのかな? 学院内って結構広いし、どこで誰が何を話しているかなんて把握しきれないと思うんだけど。それに、おかしくなってしまった人たちは、一体何をされたんだろう?」
何か思い当たることはないかと考えを巡らせてみたが、ピンとくるものは浮かばない。
すると、そこでカールハインツ陛下が口を開いた。
「君たちの話す内容から推察すると、異変があった生徒たちは、呪詛もしくはそれに近しい何かの術を受けているように思うのだが……」
「は?」
「え? 呪詛?」
思いもよらない単語に、僕たちは驚いた。
「その者たちに衰弱している様子は見られなかったか? 魔力や体力が突然衰えたというようなことはあっただろうか?」
矢継ぎ早に問われ、ミハイルが訝しむように陛下を見る。
「どういうことだ? 呪詛は禁呪になっているんじゃないのか? 以前、エリオットが現代に呪詛を扱える魔術師はいないと言っていたぞ」
そう言ったミハイルが確かめるように僕を見たので、僕は小さく頷いた。
「あぁ、君の言う通り、呪詛を含めた古代魔法のほとんどが今の時代には失われている。だが、それはこの国に現存する文献が少なく、閲覧できる者が限られているため世間に広まっていないというだけで、全くいないということではない。実際、国立魔法研究所の所属員の中には古代魔法を扱える者もいる。ただ、彼は己の研究のために一部の簡単な術式を習得しただけで、実際に使うことは考えていない」
カールハインツ陛下は、そこまで話すと一旦口を閉ざした。
そして、驚愕のあまり何も言えない僕たちの顔を見渡した後、再び口を開く。
「……だが、恐らくスレンダール皇国には古代魔法に関連する文献が多く残っており、使用できる者が複数いると思われる。元々、あの国は魔石のお陰で魔素に恵まれている故、魔法に長けた者が多い。近年は、作物が育たないことや魔獣被害が多いことなどの問題を抱えてはいるが、魔術師にとっては最高の環境と言える。更に、魔法に長けた者なら少ない情報から魔法式を読み解き、再構築することも可能だろうな」
カールハインツ陛下の言葉に、頭をガツンと殴られたような衝撃を受けた。
僕は魔法研究をするにあたって、国立図書館にある文献や国立魔法研究所で公開されている資料などをかき集めたが、古代魔法――特に禁呪となっている呪法に関わる資料がほとんど見つけられなかったことから、もう誰も使えないものだと思い込んでしまっていた。
古代魔法を研究している学者の論文の中には、魔法式を独自に試作して実験を行った記録も確かにあったのに、何故忘れていたのだろうか。
それに、ただの趣味で魔法研究をしているだけの僕が古代魔法の研究論文に手を出しているくらいなのだから、魔法に長けた者なら誰もが一度は興味を持つだろうということくらい思いつくべきだった。
しかし、古代魔法は現代魔法と術式の構成が異なる上に魔力消費が激しいため、気軽に試すことは難しく、僕自身まだ初歩的な魔法しか使えないので微塵も考えていなかった。
(強い魔術師が多いスレンダール皇国なら、禁呪を使える人がいるのか……)
そうなると、以前も考えたように僕が昏睡状態に陥った原因が呪詛を受けたことにあり、学院の生徒がおかしくなっているのも呪詛を受けたことによるものということになる。
(呪詛は時間経過で解けるようなものではないはずだし、どうして僕は目覚めることができたのだろう……)
僕が知る限り、呪詛を解くためには解呪魔法を施すしか方法がない。
だが、僕の周囲の人間で呪詛の可能性に思い至った者はいなかったので、古代魔法を扱える者を手配して解呪魔法を施したということはないはずである。
「……あの、フランツ様はどうして呪詛だと考えたのですか? 呪詛について何か知っているのですか?」
「私は呪詛について詳しく知っているわけではないよ。ただ……最近、よく考えていたんだ。三年前、何故、誰よりも健康であった父が突然倒れたのか、ということを……」
カールハインツ陛下はそう言うと、そっと目を伏せた。
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