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本編
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しおりを挟む三年前、カールハインツ陛下の父――先代グランストーム国王が病に罹って亡くなったということは、この国の民なら誰もが知っているだろう。
だが、それが呪詛のせいだったということは知らなかった。
「きちんと調査したわけではないため確証はないのだが、父は何者かに呪詛を掛けられ、衰弱死させられたのではないかと私は考えている。私自身、現在ある種の呪詛を掛けられている状態だからこそ、思い至ったことだ。――エリオット。恐らく君も父と同様の呪詛を受けた可能性があると考えられる。今まで黙っていたが、先日、君が話して聞かせてくれた昏睡状態にあったときの症状が、三年前に私の父が倒れたときの症状と酷似しているのだ」
陛下の言葉を聞いて、彼を保護した際に瞳の色を変える呪詛を掛けられていると話していたことを思い出した。
陛下の魔力が戻り次第、自分で解呪魔法を使って解くと言っていたので、その後どうしたのかを僕は知らない。
現在進行形で呪詛が掛けられているのであれば、まだ解呪していないということだろう。
僕自身、己の左目の色を隠すため、瞳の色を変える魔法を掛けているので、陛下もそうしているのだと信じて疑いもしなかった。
(陛下が解呪魔法を使えるなら、すぐに解くと思っていたのに……どうしたんだろう?)
ちなみに僕が自分で掛けているこの魔法と、陛下が受けた呪詛は、効果が同じなので同一視されそうだが、実は全くの別物である。
通常の魔法――現代魔法はこの世界で広く知れ渡っており、魔力を持つ者なら誰でも使用でき、魔法の解除も自由自在にできるが、古代魔法の一種である呪詛や解呪魔法は、古代魔法を習得した者にしか使えないという明確な線引きがある。
そして、古代魔法の中には、現代では禁呪となっている呪法が多く存在し、それらに関する文献が残っていないことから、この国では古代魔法を学ぶことがほぼ不可能となり、失われた魔法と呼ばれることになったのだ。
「あのとき話していた呪詛を解呪しなかったのですか?」
「いや、あれはすぐに解呪したよ。だが、そのときに別の呪詛も掛けられていることに気づいたんだ。これは父や君が受けたものとは違う効果があるもので、私の力では解呪することができなかった」
苦笑しながら告げられた内容に衝撃を受ける。
「そんな……っ、何故、すぐに教えてくださらなかったのですか⁉︎ 話す機会はいくらでもあったでしょう⁉︎ それは一体どういう効果が出るものなのですか? 体調に変化は? まさか命を削るようなものじゃ……」
半ばパニックになりつつ、隣に座っている陛下に詰め寄る。
僕は古代魔法を研究している学者の論文には全て目を通したはずだが、解呪魔法で解けない呪詛があるという記述は見ていない。
呪詛に限ったことではないが、魔法の強さは術者が持つ魔力の質と量に比例するため、古の神器に魔力を注ぎ込めるほど膨大で、純度の高い魔力を持つ陛下の魔法はそれだけ強いと言える。
その陛下が施す魔法で解けないような強い呪詛があるのだとしたら、相当危険なものに違いない。
先程の陛下の話では、三年前の先代国王が倒れた際に呪詛の可能性を考慮していないようだったので、僕のときと同様に解呪魔法を施しておらず、先代国王は呪詛に蝕まれたまま亡くなってしまったのだと思われる。
もしそのときに解呪魔法を使用することを思いつき実行していたら、先代国王の命を救えたかもしれないという後悔が、陛下の言葉と表情に滲み出ていた。
つまり、陛下は先代国王が受けた呪詛を己の力で解呪できると考えたということなので、その呪詛に相当する強さの呪詛ならば自力で解呪できるはずなのだ。
(陛下が解呪できないような呪詛を僕が解呪することはできない……どうしたら良いのだろう?)
どうすれば陛下を救うことができるのかと考えを巡らせる。
だが、僕の知識では最良の策が浮かばない。
「どうしよう……どうしたら……あぁ、そうだ。国立図書館の書架を見せてもらえば、何かの文献が見つかるかも……」
無意識の内に考えを口に出していたが、考えに耽る僕は気づいていなかった。
国立図書館の書架には、特別な許可がなければ見られない文献が保管されていることを思い出し、すぐに向かおうと立ち上がる。
と、そこへ――
「落ち着きなさい、エリオット。大丈夫、これは命に別状があるものではないよ」
穏やかな声が頭上から降ってくると共に全身を包み込む温もりを感じて我に返ると、僕の行く手に立ち塞がった陛下が、僕を抱きしめるように片腕を僕の背に回しながら、ポンポンと背中を叩いていた。
「へ……ぁ、ふ、フランツ様……?」
驚きのあまり硬直して戸惑っていると、陛下はスッと離れた。
そして、僕を再びソファに座らせ、自身も隣に腰掛ける。
「呪詛には命を脅かす効果があるものが多いのは確かだが、学院の生徒が受けているであろう呪詛や今の私にかかっている呪詛は命に関わるものではない。父や君が受けた呪詛の方が余程危険なものだよ。生命力である魔力を枯渇させてしまうのだからね」
穏やかな口調で、丁寧に説明をしてもらう内に、急いていた気持ちが落ち着いていくのを感じた。
言われている内容は物騒とも言えるのに不思議である。
「学院の生徒が受けている呪詛は、恐らく精神操作の効果があるものだろう。これまで出てきた生徒の様子から推測すると、嫌悪感や不信感、敵対心などをなくして従順にさせる、魅了して自身の虜にするといった効果があるものが使われているようだね。話には出てこなかったが、突然好戦的になった者はいなかったかい?」
カールハインツ陛下は、いくつかの例を挙げた後、ミハイルたちにそう訊ねた。
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