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本編
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しおりを挟む「好戦的というと、やっぱり、シュヴェリエ侯爵家のレオナルド様……かな」
しばらく考えた後、ミハイルが言いにくそうにレオナルドの名を挙げた。
「……え?」
「俺たちは、エリオットがレオナルド様にいつも嫌味を言われていることを知っていたから、そんなに良い印象は持っていないんだが……学院内にはそれを知らない者も多くて、レオナルド様は容姿も悪くないし、時々不遜なことを言うことはあっても、それなりに令嬢からの人気が高いんだ。うちのクラスにも彼に憧れている令嬢がいるくらいだし……」
「え、そうなの? 一部の人が憧れていることは知っていたけど、うちのクラスにもいたんだ……」
同級生の中にレオナルドに憧れている令嬢がいるとは知らなかったので驚いた。
レオナルドは時折、休み時間になると僕を使いっ走りにするために迎えにくることがあったのだが、そのときに僕がすぐ行動できないと愚図だの頓馬だのと悪態を吐いていた。
己の評価が下がることを気にしているレオナルドが、他者の目があるところでそういうことを言うのは滅多になかったが、虫の居所が悪いと人目を気にしなくなるため、学院内では割と頻繁にあったように思う。
そんなレオナルドの姿を見て憧れを抱けるなんて、女心というものは理解し難い。
「……お前は同級生に全く興味ないから知らないだけだと思うぞ。令嬢から『毎日、休み時間になると婚約者に会いに来るなんて、婚約者のことを溺愛しているのね。羨ましいわ』なんて言われていたことも知らないだろう? ……って、それは今はどうでも良いか。えぇと……それで、レオナルド様は、皇女様が留学してきた頃から、人が変わったように激昂することが増えたんだ」
初耳である内容もあったが、今更知ったところで僕にはもう関係がないことなので聞き流す。
ミハイルの話では、アンネリー皇女の登校初日には既にレオナルドが彼女の傍にいて、何かと便宜を図るような行動をしていたそうだ。
周囲は、レオナルドが学院の首席であるため、皇女様に学院のことを教えたり、何かあった際には手助けしたりする役目を与えられたのだと思っており、その光景をすんなり受け入れていた。
そして、レオナルドたち侯爵家子息のみが王城の晩餐会に招待されているという噂が出回った頃、生徒たちの中に様子がおかしくなった者が増え、レオナルドが周囲の者に向かって怒鳴り散らす光景が見受けられるようになったそうだ。
アンネリー皇女に対して跪くことを強要し始めたのもレオナルドだったと言われた瞬間、カールハインツ陛下が纏う空気が一気に冷えた。
「シュヴェリエ侯爵家、か……確か、三年ほど前に子息の婚約許可を申請してきたはずだが、相手は……」
「フランツ様、シュヴェリエ侯爵家子息のレオナルドは僕の婚約者でした。先日、破棄されたばかりですが」
再び国王陛下に戻ってしまった彼の言葉を遮り、レオナルドと僕の関係を伝える。
本来なら、王の言葉を遮るなどという行為は不敬にあたるが、今は仕方ない。
ハッとしたように口を閉ざした陛下は、僕を見て頷いた。
「そうか、君だったな……ん? 破棄された、と言ったか?」
「はい。僕が目を覚ましたその日に、シュヴェリエ侯爵がこの屋敷へやって来て、陛下から婚約解消の承認を得たということで、レオナルドとの婚約破棄を告げられました。貴方と会った日の十日ほど前のことです」
僕の説明を聞いた陛下が訝しむような目で僕を見ている。
陛下もこの話の異常さに気付いたのだろう。
一ヶ月半前、僕が昏睡状態に陥ったのとほぼ同時期に投獄され、僕が目を覚ました後に王城から貧民街へ移動させられた陛下が、シュヴェリエ侯爵から申請された婚約解消を承認できるはずがない、という事実に思い至ることができるのは僕たちだけである。
「……それについては、後ほど二人で改めて話そう」
「わかりました」
何も知らないミハイルたちの前で話せる内容ではないので、陛下からの提案に乗る。
「それで、シュヴェリエ侯爵家子息が、スレンダール皇国の皇女に跪くことを強要しているということだが……何故、彼が?」
「俺には、皇女様の機嫌を取っているように見えたけど、本当の理由はわからない」
前世の小説の内容を踏まえて考えると、シュヴェリエ侯爵とレオナルドはスレンダール皇国に利用されているということがわかるが、これもミハイルたちの前で話せる内容ではないため、僕は何も言えない。
(……小説の通りに利用されているのなら、レオナルドはアンネリー皇女と婚約するつもりでいるはずだけど、アンネリー皇女とカールハインツ陛下の婚約の噂が流れているのはどうしてだろう?)
レオナルドの自尊心の高さなら、例え相手が国王陛下であっても、自分が蔑ろにされることを許すとは思えない。
(あ……精神操作の呪詛? さっき陛下が、不信感をなくす効果があるって言っていたし……)
僕は呪詛のことはほとんど知らないので、陛下の知識に頼るしかない。
陛下自身、呪詛のことは詳しく知らないと言っていたが、王族の彼なら、国民には知らされていない機密事項も知識として蓄えているだろう。
少なくとも、一般公開されている文献しか読むことができない僕よりはたくさんのことを知っているはずなのだ。
ただし、僕たちに聞かせられないこともあると思うので、そこは陛下の裁量に任せるしかないけれど。
「……フランツ様、学院の生徒たちを呪詛から解放する方法を知っていますか?」
スレンダール皇国の目論見を打ち崩すには、学院の生徒たちを呪詛から解放しなければならない。
今の状況で強引に事を進めれば、恐らく彼らが足枷になってしまう。
国を救うために国民を犠牲にすることを、カールハインツ陛下は望まないだろう。
彼の意にそぐわないことはしたくない。
そして、彼自身に掛けられているという呪詛を解くため、僕にできることがあるのなら、何でもしようと心に誓った――
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