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本編
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しおりを挟む「……あのさ。二人が話してる古の神器って、子供向けのおとぎ話に出てくる王家の秘宝のことで良いのか?」
不意にミハイルが口を開く。
僕と陛下は互いに顔を見合わせた。
「……神器のことは、おとぎ話どころか学院の歴史の授業で習うはずだが?」
陛下が軽く首を傾げて言う。
「えっ? 俺、小さい頃に読んだおとぎ話でしか知らないけど……マーティンもだよな?」
「あぁ、少なくとも、俺たちが入学してからの授業では習っていない」
ミハイルとマーティンが口々に言うと、陛下は目を見開いた。
「どういうことだ? 神器の話がなければ、この国の歴史を語れないことは常識だ。民間学校でさえ授業内容に組み込むよう、王から通達が出ているのだぞ? それを王立学院で教えていないなどということはあり得ない」
世界を造った神器の守護者となるべく創建されたというグランストーム王国の成り立ちを、この国の民が知らないということはあってはならないことである。
だからこそ、誰もが知ることができるよう、幼い子供でも読めるおとぎ話が流通し、詳細を理解できる年齢になる頃、民間学校や王立学院で本格的に国の歴史を学ぶということは、前世の小説でエリザベスも言っていた。
「……グランストーム王国の歴史は、入学した直後から授業で教わってきましたが、マーティンの言う通り、神器のことが授業に出てきたことはありません。本来なら、国の成り立ちを習う初期の授業で触れていてもおかしくないですよね。当時は特に不思議に思わなかったけど、今ならそれが異常なことだとわかります」
記憶を遡り、当時のことを思い出す。
あの頃は前世の記憶を持っていなかったので、何も気にしていなかった。
だが、今は前世の記憶が蘇り、前世で読んだ物語の中で見知った知識がある。
古の神器が国宝であることは国民なら誰もが知っていて、病み上がりのエリザベスが復学した際の授業でも頻繁に話題に上り、復習を繰り返していた。
(僕たちが学院に入学したのは三年前。先代王が亡くなり、カールハインツ陛下が戴冠したのも三年前。マールグリット伯爵領で光の魔石が発掘され、レオナルドとの婚約が決まったのも三年前――全ての出来事が三年前に始まっている……)
この三年という月日には、一体どういう意味があると言うのだろうか。
小説の中でもそれらが起きたのは三年前となっていたため、それが当然のことだと思い気にも留めていなかったのだが、今になってとても気に掛かる。
それに、エリザベスが存在しない世界なのに、カールハインツ陛下がエリザベスの名前を知っていたのはどういうことか……。
(そういえば、シュヴェリエ侯爵が婚約の許可を申し込んだときに、相手の名前も陛下に告げたはず……この話が出たとき、陛下は僕ではなくエリザベスの名前を思い浮かべていたようだった)
三年前、シュヴェリエ侯爵が陛下に告げたのは、エリオットではなく、エリザベスの名だったのだろうか?
だが、エリオットは前世の記憶が蘇る前から、この世界で生きている。
三年前、シュヴェリエ侯爵が父に婚約の打診をしてきたときのことも覚えている。
シュヴェリエ侯爵は初対面のときから、マールグリット伯爵領の魔石の利権欲しさに接近してきたことを隠しきれておらず、父が伯爵位で己が侯爵位であることの格差を見せつけるかのように、卑しいほどの煌びやかな装飾品で自身を飾り立て、『婚約してやるのだから感謝しろ』と言わんばかりの不遜な言動を繰り返していた。
それらを逐一挙げればキリがなく、顔合わせ直後にレオナルドの口から出た暴言の数々に、自分はこれから不幸になるのだと落胆したことは、今でもはっきり思い出せる。
それはともかく、当時の彼らは僕のことをマールグリット伯爵家の嫡男だと認識した上で、僕を名指しにして婚約の打診をしてきたことは確実であった。
だから、この世界には小説の主人公であったエリザベスは存在していない。
しかし、カールハインツ陛下は、エリオットの存在を知らず、エリザベスのことを知っていた。
それならば――
(もしかすると、ここにいるカールハインツ陛下は、この世界のカールハインツ陛下ではないのかもしれない……)
また、エリオットの記憶にあるカールハインツ陛下の姿は、目の前にいるカールハインツ陛下そのものなのに、誰も彼がこの国の王だと認識していないのはどういうことなのだろう。
(そういえば、確かこの屋敷にもカールハインツ陛下の絵姿があったはず……)
三年前、カールハインツ陛下が戴冠した際に描かれた絵姿を父が入手していたことを思い出す。
そして、新しい王の姿を僕にも見せてくれたのだ。
「……少し席を外します」
「え?」
「………………」
ミハイルが驚いた声を上げ、マーティンが無言で僕を見る。
陛下も訝しそうな目を向けてきたが、何かあると察してくれたのか何も言わなかった。
「すぐ戻ります」
僕は席を立ち、部屋の扉に向かった。
「いかがなさいましたか?」
相変わらずキースは扉の外で待機していたようで、扉を開けた瞬間に声を掛けられた。
「父様の書斎に入りたい」
部屋の外に出て、扉を閉めてからキースに告げる。
「畏まりました。執事長から書斎の鍵を預かって参ります」
キースは特に理由を尋ねることもなく、僕の望む通りの答えを返してきた。
「うん、よろしく。僕は先に行ってるから」
一礼して去っていくキースを見送り、僕は父の書斎へ駆け足で向かった。
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