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本編
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しおりを挟む容姿変貌の呪詛は、呪詛を掛けた相手の容姿を別人や別の生物に変えてしまう呪詛である。
これは容姿だけでなく声も変えてしまうため、別の人間に変えられた場合は人語を話せるが、魔獣や動物など人外生物に変えられてしまうと、その生物の鳴き声しか出せなくなるのだと文献には記されていた。
特に人外生物に変えられている場合、呪詛を掛けられている期間が長引くと、次第に思考能力までその生物のものへと変わってしまい、最終的には解呪しても人間に戻ることができなくなるという恐ろしい呪詛のようだ。
そして、認識阻害の呪詛は、その人物の存在から意識を逸らしたり、その人物の姿形を正しく認識できなくさせたりするものである。
対面して会話する分には違和感を覚えることもないが、後からその人物のことを思い出そうとしてもうまく思い出せなかったり、全くの別人であると認識してしまったりするということが起こる。
ちなみに隠密行動に長けている者なら、変装や気配を消すことで似たようなことができるが、その人物自体がわからなくなるということはない。
どちらの呪詛も最上級古代魔法による呪法の一種なので、呪詛を掛けた術者本人が解呪魔法を施すか、術者より上位の魔術師が解呪魔法を施さなければ解呪することはできないものであった。
(え? ということは、誰も解呪できないんじゃ……)
陛下がもう一つ呪詛を掛けられていることに気づいたという話をしてくれたとき、陛下は自分では解呪できなかったと言っていた。
グランストーム国内随一の魔力保有者であり、上級魔術師でもあるカールハインツ陛下が解呪できなければ、誰にも解呪することができないということ――
「どうにか解呪できないんですか? あ、僕の魔力を陛下に譲渡すれば魔力量も増えるし、解呪できるのでは?」
魔力を他者に譲渡するという方法は、魔石に魔力を注入することほど容易にできるものではない。
魔石に魔力を注ぎ込む行為は、この世界の者なら幼い子供でも実践可能である。
ただし、子供はまだ魔力が安定していないため、注入する魔力量の調整を失敗し、魔石を破裂させてしまう事故が起こることも多く、子供の手が届く位置に魔石を置くことは禁じられているけれど。
人間や魔獣など、魔力を持つ者同士であれば魔力を譲渡できるのだが、慣れていない者同士だと必要以上に魔力を消費してしまったり、魔力の相性によっては魔力酔いなどの副作用を伴ったりする。
血縁者であればそういった副作用は減り、親子や兄弟というように血が近ければ近いほど副作用が軽くなる。
稀に赤の他人同士でも副作用が出ないことがあるが、確率としてはかなり低く、大抵の場合は何かしらの副作用が起こると言われている。
だからと言って試さないという選択肢は、陛下を助けることを第一に考えている僕にはない。
「落ち着くんだ、エリオット。……この呪詛を解呪する方法がないわけではないよ。ただ、絶対に解呪できるとは言い切れない。これまで試したことがないからね」
カールハインツ陛下から諭すように言われ、熱くなった頭が急速に冷えていく。
取り乱してしまったことが恥ずかしくなって、僕は陛下から視線を逸らした。
「……つまり、その認識阻害の呪詛とやらの所為で、俺たちは惑わされているっていうことで合っているか――否、合っていますか?」
ミハイルは普通に喋ろうとして、ハッとしたように丁寧に言い直した。
「この場では先程のように砕けた口調で構わない。その方が気兼ねなく話せそうだからな」
陛下に言われ、ミハイルは少し気まずそうに顔を顰めたが、すぐに頷いた。
「……じゃあ、お言葉に甘えて、この問題が解決するまでは、そうさせてもらう」
ミハイルの言葉に、陛下が鷹揚に頷いた。
「さて、この呪詛を解く方法についてだが……ここで先程話題に挙げた聖光石の存在が絡んでくる」
陛下はそう言って、ミハイルたちの魔道具を示した。
「私に掛けられている呪詛と学院生たちに掛けられているであろう呪詛は、恐らく聖光石の力で解呪できると思われる。ただし、この魔道具に嵌め込まれている聖光石では無理だ。既に限界のように見えるからな。それから、検証してみないと確信は持てないが、聖光石が魔石の性質と同じなら、大きな物や純度が高い物の方が成功する確率が上がるはずだ。とはいえ、私と学院生が同時期に呪詛を掛けられたとしたら、既に一月以上経っているため、もう手遅れになっている可能性もないとは言えないが……」
僕は陛下の意見を聞きながら、どのようにして領地の洞窟から聖光石を見つけ出すかと考えた。
希少な魔石と言うからには、普通に採掘するだけで見つかるような物だとは思えない。
しかし、僕が魔道具に使った魔石は、売れる石と売れない石を選別する作業場で見つけた物だったので、採掘作業員たちが何か特別な行動をしていたわけではなさそうだとも思う。
「僕が領地へ行って聖光石を探してきます」
魔道具を作った頃は、光の魔石と聖光石が別物だと知らなかったので気づかなかったが、少しでも魔力量が多い物や強い物という基準で選んだので、今なら見ればはっきりとわかるかもしれない――そう思って宣言した。
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