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本編
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しおりを挟む「俺たちは何も知らないまま、お前一人を危険に晒し続けることは受け入れられない。危険だろうと何だろうと、俺たちはお前と同じ立場にいたいから、お前やフランツさんが持っている情報を全部教えてほしい」
長い溜め息を吐き切った後、ミハイルがキッパリとそう言った。
その隣ではマーティンも同意して頷いている。
何と答えるべきかと思い陛下を見ると、陛下は苦笑しながらも頷いた。
「私としては彼らを巻き込むのは忍びないが、事情を知った上で君を守ってくれる存在がいるのは心強いと思う。彼らに打ち明けるかどうかは君が決めて良い。私はそれに従うよ」
「そ、そんな重要な決断を僕に任せてしまって良いんですか⁉︎ 貴方のことも全て話すことになるんですよ?」
とんでもない提案を受け、僕はしどろもどろになりながら抗議した。
僕のことだけならまだしも、陛下のことをミハイルたちに打ち明けるには勇気が要る。
ここでも偽の王だなどと糾弾されてしまえば、陛下を傷つけてしまうだろう。
いくら何でもそれはできない。
「その結果どうなろうと、私は大丈夫だ。君が私を信じてくれているように、私も君のことを信じている。それに――彼らはきっと大丈夫だよ。君が大切にしている相手なのだから、もっと信じてあげなさい」
「陛下……」
どこからそんな自信が出てくるのかわからないが、彼がそう言うのならきっと大丈夫なのだろう。
「……わかり、ました」
僕たちの事情をミハイルたちに打ち明けることで、この先何が起こるかわからないが、全てを隠したまま彼らと行動を共にするのは心苦しく、いつかどこかでボロが出る可能性の方が高い。
そして、何も知らない彼らを危険に晒すよりは、知り得た情報を用いて事前に危険を察知し、彼ら自身が何らかの手段を用いて自衛できるようになるのなら万々歳と言えるのではないかと思い至った。
「……ミハイルも、マーティンも――陛下も、覚悟ができているなら、全て話したいと思います」
僅かに躊躇する気持ちが残ってはいるものの、僕はミハイルたちを己の事情に巻き込む覚悟を決める。
彼らにとっては迷惑かもしれない上、このことで未来がどう変わっていくのかはわからない。
これまで、僕が起こしたいくつかの行動の結果に生じた変化を鑑みると、更なる危険を呼び込む可能性があり、彼らの命を脅かすような事態になることも考えられる。
しかし、いざとなったら、この命を擲ってでも、彼らのことは全力で守るのだと決意を固め、僕は二人に向き直った。
「……実は――」
彼らの目に嫌悪の色が浮かばないことを願いつつ、全てを打ち明けていった。
◇ ◇ ◇
「……つまり、今のお前の中には、三十歳の異世界人が入ってる、ということか? それにフランツさんが、実は国王陛下だって……? 信じられねぇ……けど、お前が冗談を言う人間じゃないことは知ってる……だがなぁ……」
ミハイルは両手で頭を抱えてウンウン唸り出し、マーティンは腕を組んで目を瞑ると天井を仰いだ。
チラッとカールハインツ陛下の方に目を向ければ、彼はミハイルたちが苦悶する姿をじっと見つめていた。
その両目は変色の魔法を解き、王族の証である金眼に戻っている。
陛下が魔法を解いたとき、ミハイルもマーティンも呆然としていた。
金眼を持つ人間は、初代グランストーム国王の直系一族にのみ生まれるということを彼らも知っているからだ。
「……この絵姿が」
不意に目を開け、顔を正面に戻したマーティンが口を開く。
そして、ミハイルが苦悶をやめてマーティンに目を向けた。
「この絵姿が、カールハインツ国王陛下だということはわかる。だが、今の俺――恐らくミハイルもだと思うが、貴方の顔をはっきり認識できずにいる」
「え?」
しっかりとカールハインツ陛下を見据えたマーティンがそう言うが、彼の言っている意味がわからず聞き返す。
「貴方の顔の造形はわかる。目が金色になったことも、鼻や口の位置もわかる。話すときに顔を見ても違和感があるようには見えず、きちんと人の顔であることはわかる。だが、この絵姿と見比べようとすると、途端に貴方の顔がわからなくなる」
「そう‼︎ さすがマーティンだ。俺もそれが言いたかったんだよ。さっきまで普通に顔を見て話していたし、フランツさん――否、陛下か? とりあえず、綺麗な顔をしているっていうのもわかるのに、顔がわからないんだ」
マーティンの言葉にミハイルが同意するが、僕はますます混乱した。
顔の造形はわかるのに顔がわからないというのはどういうことだろう?
「最初に絵姿を見たときは絵姿とフランツさんが別人だと思っていたから気にならなかったが、同一人物だと意識するとそれぞれの顔の印象が霞む。……まるで、彼を国王陛下だと認めることを邪魔されている気分だ」
いつになくマーティンが長々と話すことに驚く余裕もなく、彼らの言葉を頭の中で反芻する。
(国王であると認めるのを邪魔される……?)
どういうことかと考え、何か引っかかるような気もするのに答えが出ない。
「……それが、私に掛けられている呪詛だ」
静かに告げられた言葉にハッとして、僕は陛下の顔を見た。
その呪詛には思い当たるものがあったから。
「容姿変貌……いえ、今回は認識阻害の呪詛の方でしょうか?」
それは、以前読んだ古代魔法の研究論文に、ほんの一文のみ記載されていた呪詛だった。
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