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本編
閑話③ 王位を継ぐ者(2)
しおりを挟む<カールハインツ視点>
――ガシャン
強く突き飛ばされ、地面に転がった私の眼前で重厚な檻の扉が閉まる。
そして、頑丈な南京錠で扉が施錠され、私をここに連れてきた衛兵たちが去っていった。
「クソッ……一体何なんだ⁉︎」
思わず口をついた悪態に、反射的に周囲を見渡した。
苔むした石壁に囲まれ、最低限の灯りしか点されていないために薄暗いこの空間には私一人しかいない。
(そうだ、いるはずがない……)
幼少期から少年期まで、私につきっきりであった教育係の老翁は既に天寿を全うしている。
少しでも言葉遣いが悪いと膝詰めで懇々と説教をされていた頃が懐かしいと感じるほどには時が経っていた。
それでも、つい悪態が口をつく度に老翁の姿を探してしまうのは、習い性というものだろう。
「はぁ……」
私は一つ息を吐くと、冷たい石床に腰を据えた。
ここへ連れて来られるまでに抵抗した所為で、何度か兵に打ち据えられた頬や背が痛むが、五体満足である。
この場所――グランストーム王城の地下牢では何もできないということもあって、手足の拘束はない。
それは、牢内に施された魔力抑制機能によって、収監された罪人を無力化しているからだ。
(罪人……)
三年前、先代王の急逝によって戴冠することになった私が、何故、罪人扱いを受けることになったのか。
――それは僅か数分の出来事であった。
◇ ◇ ◇
宝物庫から執務室に戻り、待機していた臣下たちの報告を聴きながら執務机に着く。
机上に積み上げられた書類を手に取り、ザッと目を通して、即時に要不要の判断をして署名もしくは押印をしていくというのが私の仕事であり、迅速かつ的確に処理をしていかなければいつまで経っても終わらない。
例え魔力が枯渇寸前になっていようと、回復を待つ時間も惜しいため、私は休む間も無く執務をこなすのだ。
書類の山から書類を一枚手に取ったとき、執務室の外が騒がしくなった。
「何事だ?」
訝しみ、扉に目を向けるのと、その扉が開くのは同時だった。
「王の許可なく入室するとは――」
「私は占術を生業としている者である。つい今しがた、そこに座る者はこの国の王ではない。偽の王だというお告げが出たので、至急伝えに参ったのだ」
無遠慮にズカズカと足を踏み入れてくる黒ローブの人物を咎めようとした衛兵の声が、黒ローブの人物の口から出た嗄れた老婆のような声にかき消される。
決して声を張り上げていたわけではないのに、不思議なことにその黒ローブの人物の声がやけにはっきりと聞こえた。
執務室内にいた臣下や衛兵たちが怪訝そうに黒ローブの人物に目を向ける。
黒ローブの人物はフードを目深に被っているため、その顔は見えないが随分と小柄な体躯をしているように見えた。
そのような小さな体躯から、どのようにして、衛兵の声をかき消すほどの声を出したのだろうか。
ふとそんな些細なことが気に掛かった。
「貴様‼︎ そのような発言は不敬だぞ‼︎」
憤慨して怒鳴ったのは、私の机の脇に控えていた補佐官だった。
私を護衛するため集まってきた衛兵たちも黒ローブの人物を見据え、それぞれが剣に手を掛ける。
と、そこで黒ローブの人物が徐にフードに手を掛け、バサリと落とした。
一瞬見えた顔は、まだ幼さが残る少女のもので、先程の声と印象が合わない――そう思ったときには、もう遅かった。
――ダンッ
一瞬の内に私は執務机の上に押さえ込まれ、積み上がっていた書類の山がバサバサと音を立てて崩れていった。
「なっ……⁉︎」
私を取り押さえているのが、己の衛兵であることが信じられない。
魔法を使って抵抗しようとして、先ほど神器にほとんど吸い取られてしまっていたことを思い出した。
「っ、離せ‼︎ お前たちは何をしているかわかっているのか⁉︎」
拘束から逃れようともがけばもがくほど、衛兵たちも全力で押さえつけてくる。
不意にバシッと頬を張られて一瞬怯んだ隙に、腕を捻り上げられ、後ろ手に拘束された。
椅子から引きずり下ろされ、引っ張り立たされたと思ったら、そのまま執務室から連れ出されそうになる。
「待て‼︎ 私は偽者ではない‼︎ あそこに肖像画があるだろう⁉︎」
無理やり歩かされながら、執務室の壁に飾られている肖像画を示した。
しかし、誰もあの肖像画と私が同一人物であるとは認めなかった。
(どういうことだ……っ)
戸惑う内に執務室から引きずり出され、廊下を行き来する臣下や衛兵などの衆人環視の中、私は王城の地下牢へと放り込まれてしまった。
廊下を衛兵に引きずられて歩く中、すれ違った者たちの誰一人、このことに異議を申し立てなかったことが恐ろしい。
(せめて魔力が戻っていたなら……)
この直前に、神器に魔力をほぼ吸い取られてしまっていなければ、魔法を使って抵抗することは可能であった。
しかし、今の私に魔力はほとんど残っていない。
魔力切れ寸前で暴れたため、激しくなった頭痛に意識が奪われそうになる。
(駄目だ、この目で全てを見届けなければ……)
拘束を解こうともがく度に、衛兵から殴られようと、私は決して目を背けなかった。
すれ違う臣下や衛兵たちの様子を具に観察し、どこかに希望がないかと探す。
だが、地下牢に辿り着くまでの間にその希望を見出すことはできなかった。
そして、地下牢の中へ転がされたときに悟った。
神器が――神が私に試練を与えたのだと……。
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