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本編
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しおりを挟む「……もう少し情報を精査して、考えがまとまったら君たちにも話そうと思う。だが、今すぐというわけにはいかない。私もエリオットも、この一ヶ月半ほどの間に、この国――いや、学院で起こったことを知らなすぎる。もしも、これらの件に呪詛やスレンダール皇国が関わっているのなら、正確な状況を知らないまま、全てを打ち明けるのは危険なんだ」
陛下は少し考えてから、ミハイルたちにそう言った。
「……正直なところ、その危険だという事柄にエリオットが巻き込まれているというのは納得がいかない。エリオットはつい最近まで昏睡状態で、さっきの話だとその原因が呪詛を受けていたことにあって、しかもそれは命に関わるような危険なものだったんだろう? これ以上、こいつを危険に晒すような真似は見逃せない」
いつになく真剣な表情でミハイルが言う。
僕たちの中で一番、喜怒哀楽がはっきりしているミハイルが、感情のままに捲し立てるのではなく、努めて冷静に理路整然と告げるところは見たことがない。
それほど真摯な思いであるということが伝わってくる。
正直、そんな風に思ってもらえるほど、僕たちが親しい間柄だとは思っていなかったので驚いた。
彼らと僕は学院外での交流がなく、休日に互いの家へ遊びに行くということもしたことがない。
ここマールグリット伯爵家と彼らの屋敷は、それほど離れているわけではないというのに、この三年間、一度も訪れたことがないというのは、親しい友人関係と言えるのかわからない。
しかし、ミハイルとマーティンは頻繁に互いの屋敷を行き来しているという事実を鑑みると、それほど親しいとは言えないように思う。
(前世でもほとんど友人がいなかったから、よくわからないんだよね……)
前世の僕は、三十年ほど生きてきた中で、友人と呼べる存在がほとんどおらず、恋人もいなかった。
人嫌いというわけではなかったようだが、趣味の世界に没頭できればそれで良いという考えの元、他者を避けて生きてきたらしく、人間関係に関する経験値が低い。
(それは今も変わらないけど……)
そもそも、エリオットは前世の小説の主人公であるエリザベスの生い立ちを辿ってきているので、前世の僕の生き様は関係がないはずである。
しかし、前世の僕は、エリザベスが趣味の魔法研究に没頭するため、他者との交流を必要最低限なものに抑えているという設定に共感を覚えていたので、元よりエリザベスと同類の人間だったと言えるだろう。
性別は違えど、考え方や行動が自分に似ていると思ったこともあって、この物語に惹き込まれたらしい。
エリザベスのように自分が英雄になれるとは思っていなかったが、この物語と出会った頃の僕は、身勝手な後輩に“オタク”と揶揄されながら、上司の操り人形でしかない先輩から要領の得ない指示を受けて仕事をこなすだけという、うだつが上がらない自分に嫌気が差していて、自分も何か人の役に立てることがしたかったようだ。
(自分の記憶なのに、自分のことじゃないみたい……)
エリオットにとって、前世の記憶は自分の記憶ではあるものの、物語を読んでいるような、どこか遠い世界の出来事のように感じていた。
時系列に沿って思い出すというよりは、本のページをめくって記憶を探り出すという感覚に近く、断片的に浮かび上がるようなものなので、思い出した内容の前後やそこに至るまでの経緯は、意識して検索しなければ見つからない。
これは本当に自分の記憶なのだろうかと疑いたくなるが、この世界では発展していない科学の力というものによる恩恵は、例え創作物であっても、魔法が主流となっているこの世界に生きる人間が思いつくことはあり得ないので、紛れもなく自分の記憶と言えるだろう。
「――――――か、エリオット?」
「っ⁉︎」
随分と長く考え込んでしまい、不意に声を掛けられて我に返った。
しかし、その内容を聞き逃してしまい、何を言われたのかがわからない。
「え、っと……ごめん、何?」
先程の声はミハイルの声だったと思い、ミハイルに問い返す。
「フランツさんの考えは聞いたが、お前はどう考えているのかって訊いたんだよ」
「え?」
「……お前、どこから聞いていなかったんだ? 最初からか?」
ミハイルに半眼で睨め付けられ、僕は直前に聞いた話を思い返した。
「えっと、僕とフランツ様が隠していることがあるけどまだ話せないっていう話から、僕が危険なことに巻き込まれているのがミハイルは納得できない――というところ?」
「はあぁぁぁぁ……」
僕の答えに、ミハイルは眉間に皺を寄せて大きく嘆息した。
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