33 / 37
本編
24
しおりを挟む「……もう少し情報を精査して、考えがまとまったら君たちにも話そうと思う。だが、今すぐというわけにはいかない。私もエリオットも、この一ヶ月半ほどの間に、この国――いや、学院で起こったことを知らなすぎる。もしも、これらの件に呪詛やスレンダール皇国が関わっているのなら、正確な状況を知らないまま、全てを打ち明けるのは危険なんだ」
陛下は少し考えてから、ミハイルたちにそう言った。
「……正直なところ、その危険だという事柄にエリオットが巻き込まれているというのは納得がいかない。エリオットはつい最近まで昏睡状態で、さっきの話だとその原因が呪詛を受けていたことにあって、しかもそれは命に関わるような危険なものだったんだろう? これ以上、こいつを危険に晒すような真似は見逃せない」
いつになく真剣な表情でミハイルが言う。
僕たちの中で一番、喜怒哀楽がはっきりしているミハイルが、感情のままに捲し立てるのではなく、努めて冷静に理路整然と告げるところは見たことがない。
それほど真摯な思いであるということが伝わってくる。
正直、そんな風に思ってもらえるほど、僕たちが親しい間柄だとは思っていなかったので驚いた。
彼らと僕は学院外での交流がなく、休日に互いの家へ遊びに行くということもしたことがない。
ここマールグリット伯爵家と彼らの屋敷は、それほど離れているわけではないというのに、この三年間、一度も訪れたことがないというのは、親しい友人関係と言えるのかわからない。
しかし、ミハイルとマーティンは頻繁に互いの屋敷を行き来しているという事実を鑑みると、それほど親しいとは言えないように思う。
(前世でもほとんど友人がいなかったから、よくわからないんだよね……)
前世の僕は、三十年ほど生きてきた中で、友人と呼べる存在がほとんどおらず、恋人もいなかった。
人嫌いというわけではなかったようだが、趣味の世界に没頭できればそれで良いという考えの元、他者を避けて生きてきたらしく、人間関係に関する経験値が低い。
(それは今も変わらないけど……)
そもそも、エリオットは前世の小説の主人公であるエリザベスの生い立ちを辿ってきているので、前世の僕の生き様は関係がないはずである。
しかし、前世の僕は、エリザベスが趣味の魔法研究に没頭するため、他者との交流を必要最低限なものに抑えているという設定に共感を覚えていたので、元よりエリザベスと同類の人間だったと言えるだろう。
性別は違えど、考え方や行動が自分に似ていると思ったこともあって、この物語に惹き込まれたらしい。
エリザベスのように自分が英雄になれるとは思っていなかったが、この物語と出会った頃の僕は、身勝手な後輩に“オタク”と揶揄されながら、上司の操り人形でしかない先輩から要領の得ない指示を受けて仕事をこなすだけという、うだつが上がらない自分に嫌気が差していて、自分も何か人の役に立てることがしたかったようだ。
(自分の記憶なのに、自分のことじゃないみたい……)
エリオットにとって、前世の記憶は自分の記憶ではあるものの、物語を読んでいるような、どこか遠い世界の出来事のように感じていた。
時系列に沿って思い出すというよりは、本のページをめくって記憶を探り出すという感覚に近く、断片的に浮かび上がるようなものなので、思い出した内容の前後やそこに至るまでの経緯は、意識して検索しなければ見つからない。
これは本当に自分の記憶なのだろうかと疑いたくなるが、この世界では発展していない科学の力というものによる恩恵は、例え創作物であっても、魔法が主流となっているこの世界に生きる人間が思いつくことはあり得ないので、紛れもなく自分の記憶と言えるだろう。
「――――――か、エリオット?」
「っ⁉︎」
随分と長く考え込んでしまい、不意に声を掛けられて我に返った。
しかし、その内容を聞き逃してしまい、何を言われたのかがわからない。
「え、っと……ごめん、何?」
先程の声はミハイルの声だったと思い、ミハイルに問い返す。
「フランツさんの考えは聞いたが、お前はどう考えているのかって訊いたんだよ」
「え?」
「……お前、どこから聞いていなかったんだ? 最初からか?」
ミハイルに半眼で睨め付けられ、僕は直前に聞いた話を思い返した。
「えっと、僕とフランツ様が隠していることがあるけどまだ話せないっていう話から、僕が危険なことに巻き込まれているのがミハイルは納得できない――というところ?」
「はあぁぁぁぁ……」
僕の答えに、ミハイルは眉間に皺を寄せて大きく嘆息した。
0
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます
ひと息
BL
突然の過労死。そして転生。
休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。
転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。
そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・
知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼不定期連載となりました。
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
拾った異世界の子どもがどタイプ男子に育つなんて聞いてない。
おまめ
BL
召喚に巻き込まれ異世界から来た少年、ハルを成り行きで引き取ることになった男、ソラ。立派に親代わりを務めようとしていたのに、一緒に暮らしていくうちに少年がどタイプ男子になっちゃって困ってます。
✻✻✻
2026/01/10 『1.出会い』を分割し、後半部分を『2.引き取ります。』として公開しました。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
僕の、しあわせ辺境暮らし
* ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。
ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります!
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる