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玲依との出会い
5.これこそ一目惚れ
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玲依はそのまま話しはじめた。
「ここのカフェのメニューが調理科の考えたものだってことは知ってる?」
「……まあなんとなくは」
そんな感じのことが書かれている看板が入り口に置いてあったな、と思い浮かべる。
「俺はその調理科なんだ。1ヶ月に1回、このカフェのメニューを決める審査会があって、そこで選ばれたら晴れてメニューに正式採用される。でも、それだとメニューだけが増えていって厨房の人が大変になるから、売り上げの低いものは販売されなくなる」
「ん? さっきお前、ここのケーキはほとんど俺が考えたもの……って」
玲依はさらに口角をあげた。
「俺の考えたケーキは美味しいからね。売り上げは爆上げ。だから他のケーキが売れなくなってほとんど俺のしか残ってないんだよ」
「へ、へえ……」
こいつが得意げになるのもわかる。このカフェのケーキはすごい美味いって思った。この目の前のケーキもそうだ。
「でも、2か月くらい前……」
自信満々に語っていた玲依だったが、次第に声のトーンが下がってきた。
「俺は新作のケーキ作りに行き詰まったんだ。気分転換も兼ねてたまにはお客さんが俺のケーキを食べているところを見てみようと思ったんだ。なにか掴めるかもしれないって。そこで知り合いの店員に頼んで、カフェの1席を貸してもらった。そこでお客さんの様子を見ながら新作を考えていた……そんなとき、君に出会った」
真剣に話していた顔を上げ、にこりと目を合わせてきた。
「その日、ちょうど俺がカフェに来てお前のケーキを頼んだってことか?」
「そう、その通りです。君は心から美味しそうに俺のケーキを食べてくれた。目が離せなかった。他人に対しては仮面をつけていても、食べ物の前で仮面をつける人はいない。あれは君の本心だよね? 由宇、君のことをもっと知りたくなった」
真っ直ぐな視線と言葉に胸がざわついた。こいつの言葉は全く、偽りが感じられない。それどころか一直線すぎてあっという間に距離を詰められていく、そんな気がして焦る。ずっと他人と距離をとっていたのに……
なんでかわからないけど、モヤモヤしてもどかしい。
「それからは君の喜んでくれるケーキを作ることに決めたんだ。行き詰まっていた気持ちがいっきに晴れた。このケーキが完成したら君に想いを伝えようと決心して、すっごく頑張った」
そう言われ、再びケーキに視線を落とす。
俺のために作ったケーキ……
ケーキ作りのことはよくわからないが、きっと苦労して考えて、作られたものなんだろう。それが伝わるぐらい、本当に美味い。
目の前の相手がやばくて変な男だとわかっていても、俺を想う気持ちに偽りはないんだ。このケーキを食べれば嫌でも伝わる。
「……ありがとう。本当に美味いよ、このケーキ」
こいつの前ではもう取り繕っても意味ないだろうから正直に伝えた。
玲依は一瞬驚いた顔をし、またすぐに笑顔に戻った。泣きそうなぐらい顔を赤くして。
「その言葉が聞きたかったんだ……」
急に恥ずかしくなって、目をそらして再びケーキを食べ進めた。
好かれると迷惑だから嫌われようと思ってたのに、なんでお礼言ってるんだ、俺! てか食べづらいからそんな見るなよな……!
「あとそれから、君の全てが好み。大きな目も柔らかそうな髪も、体型も……とにかく好み。これこそまさに一目惚れ! あの日以来ずっと君のことを考えていた」
「えっ」
ストレートに好意を伝えられて体が硬直する。手からすり抜けていったフォークのおかげで意識が戻ってきた。フォークは落ちる直前でなんとか受け止めた。
それでも玲依は熱をもった瞳で俺を見つめながら話す。
「こんな好みの人が世界に存在するなんて驚いたよ。好きっていう感情に性別もなにも関係ないんだな……って。こんなに好きになれる人はきっと二度と出会えない。運命だ。だから君がほしい、付き合ってください!」
「わ、わかったからもういい!! それ以上言うな……っ!! 恥ずかしい!!」
たぶん俺の顔は真っ赤になってるだろう。面と向かってこんなに見つめられて、そんな言葉言われたら、恥ずかしいに決まってる。
そう言って声を荒げたのは逆効果だったらしく、玲依はさらに恍惚の笑みを浮かべた。
「え、照れ顔……めちゃくちゃかわいい……破壊力やっば……」
「だからそれ恥ずかしいからやめろって!!」
「れーいっ、うまくいってる?」
玲依から目線を逸らしケーキを頬張っていると、聞き覚えのある女の子の声が降ってきた。さっきまで玲依が喋っていた女声と同じものだった。
「いいとこだから邪魔するなよ……芽依」
顔をあげると、目の前に同じ顔がふたつ並んでいた。
「ここのカフェのメニューが調理科の考えたものだってことは知ってる?」
「……まあなんとなくは」
そんな感じのことが書かれている看板が入り口に置いてあったな、と思い浮かべる。
「俺はその調理科なんだ。1ヶ月に1回、このカフェのメニューを決める審査会があって、そこで選ばれたら晴れてメニューに正式採用される。でも、それだとメニューだけが増えていって厨房の人が大変になるから、売り上げの低いものは販売されなくなる」
「ん? さっきお前、ここのケーキはほとんど俺が考えたもの……って」
玲依はさらに口角をあげた。
「俺の考えたケーキは美味しいからね。売り上げは爆上げ。だから他のケーキが売れなくなってほとんど俺のしか残ってないんだよ」
「へ、へえ……」
こいつが得意げになるのもわかる。このカフェのケーキはすごい美味いって思った。この目の前のケーキもそうだ。
「でも、2か月くらい前……」
自信満々に語っていた玲依だったが、次第に声のトーンが下がってきた。
「俺は新作のケーキ作りに行き詰まったんだ。気分転換も兼ねてたまにはお客さんが俺のケーキを食べているところを見てみようと思ったんだ。なにか掴めるかもしれないって。そこで知り合いの店員に頼んで、カフェの1席を貸してもらった。そこでお客さんの様子を見ながら新作を考えていた……そんなとき、君に出会った」
真剣に話していた顔を上げ、にこりと目を合わせてきた。
「その日、ちょうど俺がカフェに来てお前のケーキを頼んだってことか?」
「そう、その通りです。君は心から美味しそうに俺のケーキを食べてくれた。目が離せなかった。他人に対しては仮面をつけていても、食べ物の前で仮面をつける人はいない。あれは君の本心だよね? 由宇、君のことをもっと知りたくなった」
真っ直ぐな視線と言葉に胸がざわついた。こいつの言葉は全く、偽りが感じられない。それどころか一直線すぎてあっという間に距離を詰められていく、そんな気がして焦る。ずっと他人と距離をとっていたのに……
なんでかわからないけど、モヤモヤしてもどかしい。
「それからは君の喜んでくれるケーキを作ることに決めたんだ。行き詰まっていた気持ちがいっきに晴れた。このケーキが完成したら君に想いを伝えようと決心して、すっごく頑張った」
そう言われ、再びケーキに視線を落とす。
俺のために作ったケーキ……
ケーキ作りのことはよくわからないが、きっと苦労して考えて、作られたものなんだろう。それが伝わるぐらい、本当に美味い。
目の前の相手がやばくて変な男だとわかっていても、俺を想う気持ちに偽りはないんだ。このケーキを食べれば嫌でも伝わる。
「……ありがとう。本当に美味いよ、このケーキ」
こいつの前ではもう取り繕っても意味ないだろうから正直に伝えた。
玲依は一瞬驚いた顔をし、またすぐに笑顔に戻った。泣きそうなぐらい顔を赤くして。
「その言葉が聞きたかったんだ……」
急に恥ずかしくなって、目をそらして再びケーキを食べ進めた。
好かれると迷惑だから嫌われようと思ってたのに、なんでお礼言ってるんだ、俺! てか食べづらいからそんな見るなよな……!
「あとそれから、君の全てが好み。大きな目も柔らかそうな髪も、体型も……とにかく好み。これこそまさに一目惚れ! あの日以来ずっと君のことを考えていた」
「えっ」
ストレートに好意を伝えられて体が硬直する。手からすり抜けていったフォークのおかげで意識が戻ってきた。フォークは落ちる直前でなんとか受け止めた。
それでも玲依は熱をもった瞳で俺を見つめながら話す。
「こんな好みの人が世界に存在するなんて驚いたよ。好きっていう感情に性別もなにも関係ないんだな……って。こんなに好きになれる人はきっと二度と出会えない。運命だ。だから君がほしい、付き合ってください!」
「わ、わかったからもういい!! それ以上言うな……っ!! 恥ずかしい!!」
たぶん俺の顔は真っ赤になってるだろう。面と向かってこんなに見つめられて、そんな言葉言われたら、恥ずかしいに決まってる。
そう言って声を荒げたのは逆効果だったらしく、玲依はさらに恍惚の笑みを浮かべた。
「え、照れ顔……めちゃくちゃかわいい……破壊力やっば……」
「だからそれ恥ずかしいからやめろって!!」
「れーいっ、うまくいってる?」
玲依から目線を逸らしケーキを頬張っていると、聞き覚えのある女の子の声が降ってきた。さっきまで玲依が喋っていた女声と同じものだった。
「いいとこだから邪魔するなよ……芽依」
顔をあげると、目の前に同じ顔がふたつ並んでいた。
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