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玲依との出会い
9.油断は大敵
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「ここが由宇の家か~!!」
「どうぞごゆっくり。じゃあ俺は部屋戻るから」
「ありがとう、宇多くん」
玲依がリビングで嬉しそうに声をあげたあと、宇多に手を振った。
結局連れてきてしまった……
ふたりきりになったリビングで重いため息をつく。何やってんだ俺……自分のこと好きって言ってくるやばいやつを家にいれるなんて……
「由宇のにおいがする……」
「やめろ、嗅ぐな」
たまたま父さんが出かけててよかった……休みの日だし家にいるかもって思ったけど……
ただの友達ならまだしも、息子に惚れた男って……絶対知られたくない……!
でもこのままリビングにいると宇多にもこいつの言動を見られる可能性があるし……
「とりあえず俺の部屋行くか……?」
「えっ 誘ってる……?」
「よし、今すぐ帰れ」
「冗談だって。いや、そういう欲もあるけど。俺、由宇とはちゃんとゆっくり距離を縮めるつもりだから。襲ったりしないよ……今は」
寒気が全身をはしった。今は……!?
「念願の、夢にまで見た由宇の部屋……!! けっこう広いんだね! ベッドに寝転んでもいい? 吸いたい」
「まじでやめろ」
玲依は赤い顔で俺の部屋を舐め回すように見ている。なにか変なものを発見されないか心配になる。特にないけど……
「そのへん座ってろ。物色はするなよ。特におもしろいもんはないぞ。というか家まで来て何するつもりだ?」
俺は部屋に数枚置いてある来客用の座布団を取って玲依にむかって投げた。
「俺は由宇と時間を共有するだけで嬉しいから、何もしなくてもいいよ」
「ええ……」
玲依の隣に座るのは気が引けたので勉強机用のイスに座った。
床に座った玲依はにこにこと、こちらを見てくる。視線に耐えきれず、つい目を逸らした。
……が、それでも視線が痛い。
時計の音だけが部屋に響いた。
「……間がもたない!! 部屋見たんだからもう満足しただろ! 帰れよ!」
「もうすこしいたいな……お願い、由宇」
「うっ……」
俺はどうやらこのお願い顔に弱いんだろう。こいつに会ってから、なんだかんだこの顔をされるとどうしようもなくなってしまう自分がいた。
ーーでもやっぱり耐えられなかった。無言空間はどうしてもキツイ。
俺のコミュニケーション能力はうわべの会話用にしか作られてない。数分の世間話程度なら余裕だが、何時間もふたりきりで話すことには慣れてない。
素の俺を見せてない相手だったら適当に相手の喜びそうな話題を振って喋らせておけば俺は相づちをうつだけでいい。
でもこいつは違う。うわべじゃ通じない。完全に俺を知ろうと近づいてきている。
何を言っても相手の好感度を上げていくだけ。
本当にやりづらい……
そんなことを思いながら、俺は玲依を引っ張って宇多の部屋の扉をノックした。
「宇多……一緒にゲームしないか……?」
宇多はゲームをポーズ画面にし、こちらに振り返る。
「なんで俺と? ふたりで話してればいいじゃん」
「間がもたないんだよ……」
「間?」
「俺は何もしなくていいって言ったんだけど……由宇と一緒にいるだけで」
またよからぬことを言いそうな気配を察知したので玲依の口をふさいだ。
「その対戦ゲームでもやろうぜ。3人でも対戦できたろ?」
宇多は無言でじっとこっちを見ていたが、俺の様子を察したのか、まあいいよとつぶやいた。
「このゲーム、玲依さんやったことある?」
宇多が画面に映しているのは今日コラボカフェに行ったそのゲームだった。
「ああ、そのゲームは俺の家にもあるよ。由宇とよくやってるの?」
「由宇は弱くて相手にならない」
「むっ……それはお前が強くなりすぎなんだよ」
俺もそこそこにゲームはするが、宇多ほどの量ではない。昔は俺のほうが強かったのに、いつのまにかどのゲームも宇多に勝てなくなった。
宇多からコントローラーを受け取り玲依は爽やかに笑った。
「よし、お互い手加減はなしでいこう」
このまま弟に負け続けるのは兄として悔しい。
「3人対戦になればどさくさに紛れて宇多も倒せるかもしれないからな。久しぶりに勝ちはもらうぜ」
「由宇が俺に勝てるわけない」
画面に向き合い、コントローラーを握りしめた。
*
時計は夜7時を迎えようとしている。玲依はまだ帰りたくないとごねたが、芽依からの"夜ごはん、ハンバーグ"というメッセージを見てしぶしぶ腰を上げた。
対戦の結果は予想どおり俺のボロ負け。
なんでか知らないけど玲依がめちゃくちゃ強くて俺だけ一方的に負け続けた。もう負けるのが嫌になり、途中からは宇多と玲依の2人対戦に切り替えた。
でも、白熱したゲームを見てると案外楽しい。負けたことをあっという間に忘れて、ふたりの対戦を夢中で観戦した。
「今日はありがとう。由宇の家に来れて楽しかったよ」
「……俺も、まあそこそこ……楽しかった」
俺の言葉に玲依はいっそう笑みを深くした。宇多の部屋を出て玄関先まで会話は続いた。
「俺も芽依とよく対戦するんだ」
こんな面してゲームとか意外だな、と思った。口には出さないけど。
「でも芽依も弱いから自分が勝つまでやる!って言うけど結局最後は諦めてふてくされるっていう」
「あはは、なんだそれ」
「由宇と芽依だったらいい勝負なんじゃないかな?」
「俺が弱いのバカにしてるだろ!」
……ってつい、めちゃくちゃ普通に会話してた……こんなはずじゃなかった……
頭を抱えたくなったが、楽しかったのは本当だ。
靴を履いて振り返った玲依と目が合い、慌てて逸らした。
「と、途中まで送ってく」
自分でもわからないけど、無意識にそう口にしてしまった。
玲依は動きを止め、少し迷った後首を振った。
「ありがとう、でもここまででいいよ。夜道に由宇を1人にするほうが心配だから。……そりゃあもっと話したいし一緒にいたいけど」
「女じゃないんだし大丈夫だって……」
「あ、そうだ。由宇」
思い出したように玲依はスマホを取り出す。
「連絡先、交換してほしい」
こちらに向けたスマホの画面には連絡先のIDが映し出されていた。
「変なことに使う気じゃないだろうな?」
「うたぐり深いなあ……デート行くのに連絡できないと不便でしょ?」
「諦めてなかったのか!?」
もちろん、と玲依がうなずく。デートはともかく、連絡先を教えないといつまでも居座りそうな気がした。
「仕方ないな……」
QRコードの画面を玲依に差し出した。俺が応じるとは思ってなかったのか、玲依の目が大きく見開かれた。
「え!? いいの!?」
「驚くなよ! お前が言い出したんだろ!」
玲依は目を輝かせた。連絡先ぐらいで大げさだな……
でも、こいつの素直に嬉しそうな顔を見たらまあいいか……と思ってしまう自分がいた。流されてるな……
「夜遅くに電話とかかけてくるなよ。あとメッセージ大量に送ってくるなよ」
「わかった」
「まあ……ちょっとぐらいならいいけど」
さらに玲依の目がキラキラと光る。また変な感情を口走ってしまった。
やっぱりそれはダメだと言おうとしたけど、俺よりも先に玲依の言葉が響いた。
「たくさん我慢したからこれぐらいは許してほしいな」
「は?」
意味を考えている間に玲依の影が俺にかぶさる。
気づいたときには、柔らかい感触がおでこに触れていた。それが玲依の唇だと気づくのに時間はかからなかった。
「っ!?」
驚いて無意識に飛びのいていた。
感触が残るおでこに手を当てると、顔がみるみる熱くなってくる。
「なっ……き、……っ!?」
「おでこにしただけで赤くなってる……由宇かわいい……やっぱり抱きしめるのも追加していい?」
手を広げながらだんだんと距離を詰められる。
捕まったらひとたまりもない、その腕から逃れることができなくなってしまう……そんな気がした。
「だっ……ダメだダメだ!! さっさと帰れ!!」
「由宇は怒ってもかわいいなあ……それじゃあまたね!」
玲依は満面の笑みを浮かべて手を振っていた。
バタンと音を立ててドアが閉まる。まるで台風のように去っていった。
俺は玲依が帰ったあとの玄関を見つめながらそのまま座りこんだ。
完全に油断した……!! あの流れでキスされるなんて思ってもみないわ!!
心臓がバクバクしている。いやこれはドキドキじゃなくてバクバクだから……恋愛とかじゃなく……
また同じような問答を繰り返してしまった。あいつに関わると振り回されたり、流されたりしていつもの俺じゃなくなってしまう。
疲れた……
他人が家に来るの、こんなに疲れることだったか……? いや、最近はほとんど来た覚えないな……面倒で呼んでないからな。翔太はよく来るけど慣れてるし。
いろいろ考えていると、やっと顔の火照りがおさまってきた。
ああ、そうだ。とりあえず宇多にお礼言っとこう。玲依の相手してくれてありがとうって……なんだかんだゲームするのは楽しかったし……
そう思いながら立ち上がり、宇多の部屋に向かった。
「どうぞごゆっくり。じゃあ俺は部屋戻るから」
「ありがとう、宇多くん」
玲依がリビングで嬉しそうに声をあげたあと、宇多に手を振った。
結局連れてきてしまった……
ふたりきりになったリビングで重いため息をつく。何やってんだ俺……自分のこと好きって言ってくるやばいやつを家にいれるなんて……
「由宇のにおいがする……」
「やめろ、嗅ぐな」
たまたま父さんが出かけててよかった……休みの日だし家にいるかもって思ったけど……
ただの友達ならまだしも、息子に惚れた男って……絶対知られたくない……!
でもこのままリビングにいると宇多にもこいつの言動を見られる可能性があるし……
「とりあえず俺の部屋行くか……?」
「えっ 誘ってる……?」
「よし、今すぐ帰れ」
「冗談だって。いや、そういう欲もあるけど。俺、由宇とはちゃんとゆっくり距離を縮めるつもりだから。襲ったりしないよ……今は」
寒気が全身をはしった。今は……!?
「念願の、夢にまで見た由宇の部屋……!! けっこう広いんだね! ベッドに寝転んでもいい? 吸いたい」
「まじでやめろ」
玲依は赤い顔で俺の部屋を舐め回すように見ている。なにか変なものを発見されないか心配になる。特にないけど……
「そのへん座ってろ。物色はするなよ。特におもしろいもんはないぞ。というか家まで来て何するつもりだ?」
俺は部屋に数枚置いてある来客用の座布団を取って玲依にむかって投げた。
「俺は由宇と時間を共有するだけで嬉しいから、何もしなくてもいいよ」
「ええ……」
玲依の隣に座るのは気が引けたので勉強机用のイスに座った。
床に座った玲依はにこにこと、こちらを見てくる。視線に耐えきれず、つい目を逸らした。
……が、それでも視線が痛い。
時計の音だけが部屋に響いた。
「……間がもたない!! 部屋見たんだからもう満足しただろ! 帰れよ!」
「もうすこしいたいな……お願い、由宇」
「うっ……」
俺はどうやらこのお願い顔に弱いんだろう。こいつに会ってから、なんだかんだこの顔をされるとどうしようもなくなってしまう自分がいた。
ーーでもやっぱり耐えられなかった。無言空間はどうしてもキツイ。
俺のコミュニケーション能力はうわべの会話用にしか作られてない。数分の世間話程度なら余裕だが、何時間もふたりきりで話すことには慣れてない。
素の俺を見せてない相手だったら適当に相手の喜びそうな話題を振って喋らせておけば俺は相づちをうつだけでいい。
でもこいつは違う。うわべじゃ通じない。完全に俺を知ろうと近づいてきている。
何を言っても相手の好感度を上げていくだけ。
本当にやりづらい……
そんなことを思いながら、俺は玲依を引っ張って宇多の部屋の扉をノックした。
「宇多……一緒にゲームしないか……?」
宇多はゲームをポーズ画面にし、こちらに振り返る。
「なんで俺と? ふたりで話してればいいじゃん」
「間がもたないんだよ……」
「間?」
「俺は何もしなくていいって言ったんだけど……由宇と一緒にいるだけで」
またよからぬことを言いそうな気配を察知したので玲依の口をふさいだ。
「その対戦ゲームでもやろうぜ。3人でも対戦できたろ?」
宇多は無言でじっとこっちを見ていたが、俺の様子を察したのか、まあいいよとつぶやいた。
「このゲーム、玲依さんやったことある?」
宇多が画面に映しているのは今日コラボカフェに行ったそのゲームだった。
「ああ、そのゲームは俺の家にもあるよ。由宇とよくやってるの?」
「由宇は弱くて相手にならない」
「むっ……それはお前が強くなりすぎなんだよ」
俺もそこそこにゲームはするが、宇多ほどの量ではない。昔は俺のほうが強かったのに、いつのまにかどのゲームも宇多に勝てなくなった。
宇多からコントローラーを受け取り玲依は爽やかに笑った。
「よし、お互い手加減はなしでいこう」
このまま弟に負け続けるのは兄として悔しい。
「3人対戦になればどさくさに紛れて宇多も倒せるかもしれないからな。久しぶりに勝ちはもらうぜ」
「由宇が俺に勝てるわけない」
画面に向き合い、コントローラーを握りしめた。
*
時計は夜7時を迎えようとしている。玲依はまだ帰りたくないとごねたが、芽依からの"夜ごはん、ハンバーグ"というメッセージを見てしぶしぶ腰を上げた。
対戦の結果は予想どおり俺のボロ負け。
なんでか知らないけど玲依がめちゃくちゃ強くて俺だけ一方的に負け続けた。もう負けるのが嫌になり、途中からは宇多と玲依の2人対戦に切り替えた。
でも、白熱したゲームを見てると案外楽しい。負けたことをあっという間に忘れて、ふたりの対戦を夢中で観戦した。
「今日はありがとう。由宇の家に来れて楽しかったよ」
「……俺も、まあそこそこ……楽しかった」
俺の言葉に玲依はいっそう笑みを深くした。宇多の部屋を出て玄関先まで会話は続いた。
「俺も芽依とよく対戦するんだ」
こんな面してゲームとか意外だな、と思った。口には出さないけど。
「でも芽依も弱いから自分が勝つまでやる!って言うけど結局最後は諦めてふてくされるっていう」
「あはは、なんだそれ」
「由宇と芽依だったらいい勝負なんじゃないかな?」
「俺が弱いのバカにしてるだろ!」
……ってつい、めちゃくちゃ普通に会話してた……こんなはずじゃなかった……
頭を抱えたくなったが、楽しかったのは本当だ。
靴を履いて振り返った玲依と目が合い、慌てて逸らした。
「と、途中まで送ってく」
自分でもわからないけど、無意識にそう口にしてしまった。
玲依は動きを止め、少し迷った後首を振った。
「ありがとう、でもここまででいいよ。夜道に由宇を1人にするほうが心配だから。……そりゃあもっと話したいし一緒にいたいけど」
「女じゃないんだし大丈夫だって……」
「あ、そうだ。由宇」
思い出したように玲依はスマホを取り出す。
「連絡先、交換してほしい」
こちらに向けたスマホの画面には連絡先のIDが映し出されていた。
「変なことに使う気じゃないだろうな?」
「うたぐり深いなあ……デート行くのに連絡できないと不便でしょ?」
「諦めてなかったのか!?」
もちろん、と玲依がうなずく。デートはともかく、連絡先を教えないといつまでも居座りそうな気がした。
「仕方ないな……」
QRコードの画面を玲依に差し出した。俺が応じるとは思ってなかったのか、玲依の目が大きく見開かれた。
「え!? いいの!?」
「驚くなよ! お前が言い出したんだろ!」
玲依は目を輝かせた。連絡先ぐらいで大げさだな……
でも、こいつの素直に嬉しそうな顔を見たらまあいいか……と思ってしまう自分がいた。流されてるな……
「夜遅くに電話とかかけてくるなよ。あとメッセージ大量に送ってくるなよ」
「わかった」
「まあ……ちょっとぐらいならいいけど」
さらに玲依の目がキラキラと光る。また変な感情を口走ってしまった。
やっぱりそれはダメだと言おうとしたけど、俺よりも先に玲依の言葉が響いた。
「たくさん我慢したからこれぐらいは許してほしいな」
「は?」
意味を考えている間に玲依の影が俺にかぶさる。
気づいたときには、柔らかい感触がおでこに触れていた。それが玲依の唇だと気づくのに時間はかからなかった。
「っ!?」
驚いて無意識に飛びのいていた。
感触が残るおでこに手を当てると、顔がみるみる熱くなってくる。
「なっ……き、……っ!?」
「おでこにしただけで赤くなってる……由宇かわいい……やっぱり抱きしめるのも追加していい?」
手を広げながらだんだんと距離を詰められる。
捕まったらひとたまりもない、その腕から逃れることができなくなってしまう……そんな気がした。
「だっ……ダメだダメだ!! さっさと帰れ!!」
「由宇は怒ってもかわいいなあ……それじゃあまたね!」
玲依は満面の笑みを浮かべて手を振っていた。
バタンと音を立ててドアが閉まる。まるで台風のように去っていった。
俺は玲依が帰ったあとの玄関を見つめながらそのまま座りこんだ。
完全に油断した……!! あの流れでキスされるなんて思ってもみないわ!!
心臓がバクバクしている。いやこれはドキドキじゃなくてバクバクだから……恋愛とかじゃなく……
また同じような問答を繰り返してしまった。あいつに関わると振り回されたり、流されたりしていつもの俺じゃなくなってしまう。
疲れた……
他人が家に来るの、こんなに疲れることだったか……? いや、最近はほとんど来た覚えないな……面倒で呼んでないからな。翔太はよく来るけど慣れてるし。
いろいろ考えていると、やっと顔の火照りがおさまってきた。
ああ、そうだ。とりあえず宇多にお礼言っとこう。玲依の相手してくれてありがとうって……なんだかんだゲームするのは楽しかったし……
そう思いながら立ち上がり、宇多の部屋に向かった。
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