憂い視線のその先に

雪村こはる

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勘違いがいっぱい

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「もう、なんでもいいからとにかくシャワー浴びさせて。床でする趣味はないんでしょ」

「趣味はないけど悪くはないと思った」

「あんた、なに言ってんの」

 律に腕を引っ張りあげられ、上半身を起こした千愛希は呆れたように目頭を押さえた。不意にチュッと唇を奪う律にポっと顔を赤らめる千愛希だが「やっぱり律変だよ。無理に押し倒したり……強制わいせつだ」と言って目を逸らした。

 律は心外だとばかりに目を見開いて「無理矢理するつもりなんてなかったよ。これでも一応弁護士だし」と反発する。

「服脱がせようとしたじゃない」

「いや……だからそれは……その傷が見えたから確かめようとしただけで……決して無理矢理襲うつもりはなくて」

「傷ってこれ? 気付いてたの?」

 くるっと背を向けたかと思うと膝を抱えて顔を伏せた律。その態度を見ながら千愛希は、周との仲を疑った理由に気付いた。あまりにも見当違いな誤解に、千愛希も堪らず吹き出した。

「ちょっ……嘘でしょ……おかし」

 腹を抱えて笑う千愛希に、「おかしくなんかない。俺は必死でっ」と普段笑われることなどない律は、どうにもその羞恥心のやり場を見つけられなかった。

「最初に言ってくれればよかったのに。それどうしたの? って。そしたらきっとスムーズだった」

「そうだけど……」

「30代にもなってキスマークだなんて、そんな子供っぽいことさせないし」

 髪をかきあげて、シャツを整える千愛希を睨むかのように目を細めた律は「俺はつけたい」と言う。
 えぇ!? と顔をしかめた千愛希。連発する律らしくない発言にまた困惑した。

「そういうことしたがるなんて思ってなかった」

「だって牽制になるでしょ。ただでさえ曽根さんがまだ千愛希のことを好きだって言った時、周とのことは否定したのに曽根さんのことは否定しなかった」

 少し前の千愛希なら、とっくに別れてるんだから向こうだってもうその気はないわよなんて言って笑ったはずだった。それなのに一度も否定しなかったことに納得できずにいた。

「あー……うん」

「うんってなに」

「今日、もう一度結婚考えてくれないかって言われた」

「はぁ!?」

 普段冷静な律がこればかりは大声を上げた。
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