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ファンクラブ
【27】
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「じゃあ、今でも色んなアプリを作ってるんだ?」
私がそう言えば、「いえ、今のアプリがありがたいことに人気が出たので、そちらの新しい章を作ったり、そのキャラクターのグッズを考えたりとなにかと忙しいんです。
なので、シナリオを考えてくれる作家さんや、アニメーションを得意とする方々を別に雇ってそちらにお願いしています。
なので、私は専ら秘書として社長について回る日々です」
「秘書……何か、難しそうだね」
「そんなことないですよ。社長が手掛けたアプリや、私の担当してきたアプリも構成や今後の方針は全て頭に入っているので、社長がいない時でもある程度の説明なら私でもできますし」
「へぇ……」
こうして仕事の話をしていると、本当に別人のようだ。仕事に対して誇りと責任を持っていて、バリバリのキャリアウーマン。
今までの印象を変えてしまう程、声を弾ませた彼女を見て、とても好感が持てた。
「ねぇ、パスワードって何」
私と千愛希さんの話に割り込むような形で左隣の奏ちゃんが言う。
「えっとね、待ってね」
千愛希さんはそう言って紙とボールペンを取り出し、さらさらっとそこに英数字を書き綴っていく。その黒と金を使ったボールペンは、どこか見覚えのあるものだった。
書き終わった紙を奏ちゃんに渡すと「パスワード、長っ!」と眉間に皺を寄せ、老眼の高齢者の如くメモ用紙を顔から離して凝視している。
「単純なパスワードだとけっこう簡単に入れちゃうんだ。全く関連性のないもので、英数字をバラバラに入れるのが一番安心だからね」
千愛希さんの言葉に黙ったまま、それをスマホに打ち込んでいく。
「これ、ログインしたままにできるの?」
「自動ログインにできるけど、期限があるから、その紙はとっておいて。まぁ、もし忘れちゃったらすぐに教えるし」
明るくそう答える千愛希さんにふと疑問が過る。
「ねぇ、あんな面倒なパスワード覚えてたの?」
関連性のない英数字を並べたものと簡単に言ってのけたが、そのパスワードを何も見ずにさらっと書き上げたのだ。不思議に思わないはずがない。
「はい。英数字、得意なんで。ある程度なら覚えられますよ」
「えー! すごい! 私、数字は苦手だから全然覚えられないよ」
「かなだって、これくらいなら覚えられるよ!」
千愛希さんを称賛すれば、対抗するかのように奏ちゃんが私の服の袖を引っ張る。
「奏ちゃんも英数字得意なの?」
「このくらいだったら覚えられるの!」
なぜかムキになっている彼女は、頬を膨らめてこちらを見る。こう子供っぽい部分はあまねくんとよく似ている。そんなことを言ったら怒られそうなので、私は黙って奏ちゃんの頭を撫でた。
満足したのか、彼女はそのままスマホの画面に視線を移した。そんな姿が可愛らしく、思わず口角が上がった。
「ねぇ! なんでかなが5番なの!?」
安堵したのもつかの間、そんな大声を出し納得できないと言ったように大きな目を更に大きくさせてこちらを向く。
その視線は私を越えて千愛希さんに向けられている。
先程私がログインした時には気付かなかったが、奏ちゃんのログインページを見れば〔あなたは5番目の会員様です〕と表示されている。
私も一応会員登録になってしまったようだ。
「うーん、ログインした順番になっちゃうからなぁ……」
困ったように千愛希さんが笑えば「やだ! かなが一番がいい!」そんな事を言い出した。
「えぇ!? 何番でもよくない?」
そんなところに拘るのかと私が聞けば「よくない! この中でかなが最後なんてやだ!」と不服そうな顔。薄紅色の薄い唇をへの字に曲げている。
「奏、一番は俺だよ。当たり前でしょ!」
お兄ちゃんのあまねくんは譲りません。大人げない……。
「私も創立者だからね。2番目も譲れないなぁ」
もはや笑顔を消し去った千愛希さん。
「……ログインし直すの面倒だし」
そう言って痛いほどの奏ちゃんの視線から逃れるように、スマホの画面に目を向けた律くん。
正直、どーーでもいいのだが。
私は息をつくと、「せめて私が変わろうか?」と声をかけた。
私がそう言えば、「いえ、今のアプリがありがたいことに人気が出たので、そちらの新しい章を作ったり、そのキャラクターのグッズを考えたりとなにかと忙しいんです。
なので、シナリオを考えてくれる作家さんや、アニメーションを得意とする方々を別に雇ってそちらにお願いしています。
なので、私は専ら秘書として社長について回る日々です」
「秘書……何か、難しそうだね」
「そんなことないですよ。社長が手掛けたアプリや、私の担当してきたアプリも構成や今後の方針は全て頭に入っているので、社長がいない時でもある程度の説明なら私でもできますし」
「へぇ……」
こうして仕事の話をしていると、本当に別人のようだ。仕事に対して誇りと責任を持っていて、バリバリのキャリアウーマン。
今までの印象を変えてしまう程、声を弾ませた彼女を見て、とても好感が持てた。
「ねぇ、パスワードって何」
私と千愛希さんの話に割り込むような形で左隣の奏ちゃんが言う。
「えっとね、待ってね」
千愛希さんはそう言って紙とボールペンを取り出し、さらさらっとそこに英数字を書き綴っていく。その黒と金を使ったボールペンは、どこか見覚えのあるものだった。
書き終わった紙を奏ちゃんに渡すと「パスワード、長っ!」と眉間に皺を寄せ、老眼の高齢者の如くメモ用紙を顔から離して凝視している。
「単純なパスワードだとけっこう簡単に入れちゃうんだ。全く関連性のないもので、英数字をバラバラに入れるのが一番安心だからね」
千愛希さんの言葉に黙ったまま、それをスマホに打ち込んでいく。
「これ、ログインしたままにできるの?」
「自動ログインにできるけど、期限があるから、その紙はとっておいて。まぁ、もし忘れちゃったらすぐに教えるし」
明るくそう答える千愛希さんにふと疑問が過る。
「ねぇ、あんな面倒なパスワード覚えてたの?」
関連性のない英数字を並べたものと簡単に言ってのけたが、そのパスワードを何も見ずにさらっと書き上げたのだ。不思議に思わないはずがない。
「はい。英数字、得意なんで。ある程度なら覚えられますよ」
「えー! すごい! 私、数字は苦手だから全然覚えられないよ」
「かなだって、これくらいなら覚えられるよ!」
千愛希さんを称賛すれば、対抗するかのように奏ちゃんが私の服の袖を引っ張る。
「奏ちゃんも英数字得意なの?」
「このくらいだったら覚えられるの!」
なぜかムキになっている彼女は、頬を膨らめてこちらを見る。こう子供っぽい部分はあまねくんとよく似ている。そんなことを言ったら怒られそうなので、私は黙って奏ちゃんの頭を撫でた。
満足したのか、彼女はそのままスマホの画面に視線を移した。そんな姿が可愛らしく、思わず口角が上がった。
「ねぇ! なんでかなが5番なの!?」
安堵したのもつかの間、そんな大声を出し納得できないと言ったように大きな目を更に大きくさせてこちらを向く。
その視線は私を越えて千愛希さんに向けられている。
先程私がログインした時には気付かなかったが、奏ちゃんのログインページを見れば〔あなたは5番目の会員様です〕と表示されている。
私も一応会員登録になってしまったようだ。
「うーん、ログインした順番になっちゃうからなぁ……」
困ったように千愛希さんが笑えば「やだ! かなが一番がいい!」そんな事を言い出した。
「えぇ!? 何番でもよくない?」
そんなところに拘るのかと私が聞けば「よくない! この中でかなが最後なんてやだ!」と不服そうな顔。薄紅色の薄い唇をへの字に曲げている。
「奏、一番は俺だよ。当たり前でしょ!」
お兄ちゃんのあまねくんは譲りません。大人げない……。
「私も創立者だからね。2番目も譲れないなぁ」
もはや笑顔を消し去った千愛希さん。
「……ログインし直すの面倒だし」
そう言って痛いほどの奏ちゃんの視線から逃れるように、スマホの画面に目を向けた律くん。
正直、どーーでもいいのだが。
私は息をつくと、「せめて私が変わろうか?」と声をかけた。
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