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効果覿面
【11】
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1月1日
守屋家の朝は相変わらず早い。私とあまねくんは、眠たい目を擦りながらぼーっとする。ドアは閉じられているのに鰹だしの匂いがする。
「ダリアさんのお手伝いしなきゃ……」
そう呟いた私に、隣で横たわるあまねくんが「いいよ。好きで朝から料理してるんだからやらせておけば」なんて言っている。
黒いシーツに包まれた羽毛布団。その下に敷かれたグレーの毛布はぐちゃぐちゃに丸まっている。そのためか、ぶるぶると体が震える程寒い。
「でも、多分おせちもお雑煮もいっぱい作ってるよ。手伝わないとダリアさん大変だし……」
そうは言うものの、寒くて布団から出られない。それどころか、あまねくんが暖かくて無意識に近付いてしまう。
彼も自然に私を引き寄せ、私を腕の中に収める。
「正月なのにさ、朝早くから起きなきゃいけない理由がわかんないんだ、昔から」
「うん……でも、うちも毎年正月は早起きだったよ」
「年寄りは早いんだよね……。子供生まれてもうちは寝正月にしようね」
今からそんなことを言っている。正月でなくても朝起きられないのはいつものことだ。
「ねぇ、初詣行く?」
「後でね」
すっかり二度寝モードのあまねくんは、外に出る気はないらしい。去年は付き合い立てであまねくんがはしゃいでいたからか、初詣にも前向きだった。しかし、どうやら今年は違うようだ。
「ちょっとダリアさんの様子見てくるね」
眠りに落ちたあまねくんをそのままに、リビングのドアを開ける。
音に気付いたダリアさんが顔を上げた。綺麗に化粧をして、シンプルなニットを着ている。いつ見ても美しい。
「おはよう、まどかちゃん」
「おはようございます。ダリアさんすみません……少し寝坊をしてしまいました……」
「いいの、いいの。早起きなのは毎年私とおばあちゃんだけなんだから。慶吾さんだってまだ寝てるのよ」
ダリアさんは、フライパンの中身をまな板に移し、包丁を持ってそう言う。まだ頭が働かない私に対し、ダリアさんは手際よく料理をこなす。
料理上手、羨ましい……。
私は元々料理が好きではない。一人暮らしが長くなり、料理をすることが習慣となってしまったがために、レパートリーも増えたが、作っていて楽しいのは、あまねくんと一緒に作る時くらいだ。
そのため、こうして率先して作ってくれる人がいると、楽でいいなぁなんて思ってしまう。だめな嫁である。
「お義父さんは早起きのイメージがありますけどね」
「そんなことないの。周が朝弱いのは慶吾さんに似たんだから」
そう言ってクスクスと笑っている。
「意外です。律くんはしっかり者ですし、ダリアさんに似たんですかね」
「そう見える? あれ、見て」
そう指を差され、その先を目で追った。そこにはリビングの端っこでこたつに入ったまま眠っている律くんと千愛希さんの姿。
「あんなところにこたつなんてありましたっけ?」
「おばあちゃんのところから引っ張り出してきたのよ。認知症が進んでからこたつは危ないからってもう暖房ばかりにしていたから」
こたつ布団を顔の半分まで掛けて眠っている千愛希さん。その隣で無防備な寝顔をさらしている律くん。初めて寝顔を見たけれど、子供のようにあどけない表情をしていた。
「風邪引きそうですね……」
「ね。二人とも遅くまでテレビ見て、その後朝までテレビゲームしてたからね」
「テレビゲーム? ……何もかもが意外すぎる……」
「律は、まどかちゃんが思ってる程しっかりなんてしてないのよ。周とどっこいどっこい」
寝返りをうって頭からこたつ布団を被る律くんを見れば、ダリアさんがそう言うのも頷けた。
「きっとお昼頃まで起きないですね」
「そうね。まどかちゃんもまだ寝てていいわよ」
「いえいえ……ダリアさんにばかり支度をさせるわけにはいきませんよ」
「じっとしてるのが落ち着かないだけなの。料理が昔から好きでね。普通の日は面倒だなぁって思うこともあるのに、今日みたいに特別な日だとわくわくするでしょ?」
嬉しそうに微笑むダリアさんに微笑み返すが、特別な日でも、私は正月においてはわくわくしない。どうやら私もあまねくん同様、体は寝正月を希望しているようだった。
守屋家の朝は相変わらず早い。私とあまねくんは、眠たい目を擦りながらぼーっとする。ドアは閉じられているのに鰹だしの匂いがする。
「ダリアさんのお手伝いしなきゃ……」
そう呟いた私に、隣で横たわるあまねくんが「いいよ。好きで朝から料理してるんだからやらせておけば」なんて言っている。
黒いシーツに包まれた羽毛布団。その下に敷かれたグレーの毛布はぐちゃぐちゃに丸まっている。そのためか、ぶるぶると体が震える程寒い。
「でも、多分おせちもお雑煮もいっぱい作ってるよ。手伝わないとダリアさん大変だし……」
そうは言うものの、寒くて布団から出られない。それどころか、あまねくんが暖かくて無意識に近付いてしまう。
彼も自然に私を引き寄せ、私を腕の中に収める。
「正月なのにさ、朝早くから起きなきゃいけない理由がわかんないんだ、昔から」
「うん……でも、うちも毎年正月は早起きだったよ」
「年寄りは早いんだよね……。子供生まれてもうちは寝正月にしようね」
今からそんなことを言っている。正月でなくても朝起きられないのはいつものことだ。
「ねぇ、初詣行く?」
「後でね」
すっかり二度寝モードのあまねくんは、外に出る気はないらしい。去年は付き合い立てであまねくんがはしゃいでいたからか、初詣にも前向きだった。しかし、どうやら今年は違うようだ。
「ちょっとダリアさんの様子見てくるね」
眠りに落ちたあまねくんをそのままに、リビングのドアを開ける。
音に気付いたダリアさんが顔を上げた。綺麗に化粧をして、シンプルなニットを着ている。いつ見ても美しい。
「おはよう、まどかちゃん」
「おはようございます。ダリアさんすみません……少し寝坊をしてしまいました……」
「いいの、いいの。早起きなのは毎年私とおばあちゃんだけなんだから。慶吾さんだってまだ寝てるのよ」
ダリアさんは、フライパンの中身をまな板に移し、包丁を持ってそう言う。まだ頭が働かない私に対し、ダリアさんは手際よく料理をこなす。
料理上手、羨ましい……。
私は元々料理が好きではない。一人暮らしが長くなり、料理をすることが習慣となってしまったがために、レパートリーも増えたが、作っていて楽しいのは、あまねくんと一緒に作る時くらいだ。
そのため、こうして率先して作ってくれる人がいると、楽でいいなぁなんて思ってしまう。だめな嫁である。
「お義父さんは早起きのイメージがありますけどね」
「そんなことないの。周が朝弱いのは慶吾さんに似たんだから」
そう言ってクスクスと笑っている。
「意外です。律くんはしっかり者ですし、ダリアさんに似たんですかね」
「そう見える? あれ、見て」
そう指を差され、その先を目で追った。そこにはリビングの端っこでこたつに入ったまま眠っている律くんと千愛希さんの姿。
「あんなところにこたつなんてありましたっけ?」
「おばあちゃんのところから引っ張り出してきたのよ。認知症が進んでからこたつは危ないからってもう暖房ばかりにしていたから」
こたつ布団を顔の半分まで掛けて眠っている千愛希さん。その隣で無防備な寝顔をさらしている律くん。初めて寝顔を見たけれど、子供のようにあどけない表情をしていた。
「風邪引きそうですね……」
「ね。二人とも遅くまでテレビ見て、その後朝までテレビゲームしてたからね」
「テレビゲーム? ……何もかもが意外すぎる……」
「律は、まどかちゃんが思ってる程しっかりなんてしてないのよ。周とどっこいどっこい」
寝返りをうって頭からこたつ布団を被る律くんを見れば、ダリアさんがそう言うのも頷けた。
「きっとお昼頃まで起きないですね」
「そうね。まどかちゃんもまだ寝てていいわよ」
「いえいえ……ダリアさんにばかり支度をさせるわけにはいきませんよ」
「じっとしてるのが落ち着かないだけなの。料理が昔から好きでね。普通の日は面倒だなぁって思うこともあるのに、今日みたいに特別な日だとわくわくするでしょ?」
嬉しそうに微笑むダリアさんに微笑み返すが、特別な日でも、私は正月においてはわくわくしない。どうやら私もあまねくん同様、体は寝正月を希望しているようだった。
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