155 / 208
風雲児
【39】
しおりを挟む
お義父さんと律くんに会うのは久しぶりのような気がした。昼間は暇だとダリアさんとおばあちゃんとお茶会をしに守屋家に行くため、2人にはよく会うが、夕食を作りに夕方には帰宅するため、お義父さんと律くんとは顔を合わせないことが多かった。
私は、直接お義父さんと話をしようと守屋家を訪れていた。
律くんとは大崎さんのホームパーティー以来だが、あれから20日は経過している。雅臣の件をお義父さんと話終わると、私は律くんに茉紀のことを尋ねた。
裁判についての話を深く聞くつもりはない。ただ、無事に顔合わせができたかどうかだけが気がかりだった。
「先日顔合わせしましたよ」
「本当? よかった。それだけ心配で」
「はい。まあ今後は坂部先生っていう女弁護士が担当になるので、俺はもう直接関わることはないですけどね」
「律くん、離婚は苦手だって前に言ってたもんね?」
「? 俺、話しましたっけ?」
律くんは首を傾げてきょとんとしている。
「話したよ。初対面くらいの頃かなぁ?」
「あー……覚えてないですね」
暫く記憶を探っていたようだけれど、全く覚えてない様子でコーヒーを一口飲んだ。
記憶力のいい律くんが覚えてないくらいだ。よっぽど私に興味がなかったのだろう。
「離婚裁判ってけっこうかかるの?」
「人によります。でもまあ、育児も家事も安藤さんがメインでやってて手に職もついてるならすんなり親権は安藤さんにいくでしょうね。ただ、離婚に応じるかどうかは旦那さん次第です」
「慰謝料は……」
「証拠があるならとれますよ。不倫相手は、結婚してるのを知っているわけですよね? だったら不倫相手からもとれます」
「よかった……。離婚するって決めたなら早く離婚して解放されてほしいな」
律くんはそう言った私の目をじっと見て、「親友の離婚でもそう思いますか?」と聞いた。
お義父さんは私との会話を終えて入浴へ行き、ダリアさんは洗い物を終えておばあちゃんと共に寝室へ向かった。
リビングには私と律くんだけ。あまねくんは今日も残業で遅くなると言って帰ってこないのだ。
「思うよ。結婚してたら幸せってわけじゃないと思うし。私も昔は焦って早く結婚したいって思ったこともあったけど、あまねくんと出会ったら、あまねくん以外の人と結婚するくらいならできなくてもいいかもって思ったの」
「へぇ……結婚したがってたのは周の方だったのに」
「最初はそうだったかもしれないけど、私もあまねくんじゃなきゃダメだと思うんだ。こんなに甘やかしてくれるのあまねくんくらいだもんね」
私が自嘲気味に笑うと「そんなこともないと思うけど。まあ、甘やかされてる自覚がある内は大丈夫そうですね」と言った。
「茉紀の旦那さんが不倫してたって聞いた時には驚いたけどね……あまねくんは絶対しないって信じてるけど、男の人ってやっぱり他の女性に目がいくのかな」
「性別の問題じゃないと思いますよ。男はバレやすい、女はバレにくい。そうも言います。配偶者に後ろめたさを感じる人もいれば平気な人もいるし。性格の問題じゃないですか」
「そっか……律くんも問題なさそうだね」
「……どうして?」
「結婚だけでも面倒なのに、不倫なんて尚更って言いそう」
「……」
思ったことを口にしただけなのに、律くんは目元を手で覆って大きな溜め息をついた。
私は、直接お義父さんと話をしようと守屋家を訪れていた。
律くんとは大崎さんのホームパーティー以来だが、あれから20日は経過している。雅臣の件をお義父さんと話終わると、私は律くんに茉紀のことを尋ねた。
裁判についての話を深く聞くつもりはない。ただ、無事に顔合わせができたかどうかだけが気がかりだった。
「先日顔合わせしましたよ」
「本当? よかった。それだけ心配で」
「はい。まあ今後は坂部先生っていう女弁護士が担当になるので、俺はもう直接関わることはないですけどね」
「律くん、離婚は苦手だって前に言ってたもんね?」
「? 俺、話しましたっけ?」
律くんは首を傾げてきょとんとしている。
「話したよ。初対面くらいの頃かなぁ?」
「あー……覚えてないですね」
暫く記憶を探っていたようだけれど、全く覚えてない様子でコーヒーを一口飲んだ。
記憶力のいい律くんが覚えてないくらいだ。よっぽど私に興味がなかったのだろう。
「離婚裁判ってけっこうかかるの?」
「人によります。でもまあ、育児も家事も安藤さんがメインでやってて手に職もついてるならすんなり親権は安藤さんにいくでしょうね。ただ、離婚に応じるかどうかは旦那さん次第です」
「慰謝料は……」
「証拠があるならとれますよ。不倫相手は、結婚してるのを知っているわけですよね? だったら不倫相手からもとれます」
「よかった……。離婚するって決めたなら早く離婚して解放されてほしいな」
律くんはそう言った私の目をじっと見て、「親友の離婚でもそう思いますか?」と聞いた。
お義父さんは私との会話を終えて入浴へ行き、ダリアさんは洗い物を終えておばあちゃんと共に寝室へ向かった。
リビングには私と律くんだけ。あまねくんは今日も残業で遅くなると言って帰ってこないのだ。
「思うよ。結婚してたら幸せってわけじゃないと思うし。私も昔は焦って早く結婚したいって思ったこともあったけど、あまねくんと出会ったら、あまねくん以外の人と結婚するくらいならできなくてもいいかもって思ったの」
「へぇ……結婚したがってたのは周の方だったのに」
「最初はそうだったかもしれないけど、私もあまねくんじゃなきゃダメだと思うんだ。こんなに甘やかしてくれるのあまねくんくらいだもんね」
私が自嘲気味に笑うと「そんなこともないと思うけど。まあ、甘やかされてる自覚がある内は大丈夫そうですね」と言った。
「茉紀の旦那さんが不倫してたって聞いた時には驚いたけどね……あまねくんは絶対しないって信じてるけど、男の人ってやっぱり他の女性に目がいくのかな」
「性別の問題じゃないと思いますよ。男はバレやすい、女はバレにくい。そうも言います。配偶者に後ろめたさを感じる人もいれば平気な人もいるし。性格の問題じゃないですか」
「そっか……律くんも問題なさそうだね」
「……どうして?」
「結婚だけでも面倒なのに、不倫なんて尚更って言いそう」
「……」
思ったことを口にしただけなのに、律くんは目元を手で覆って大きな溜め息をついた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
専属秘書は極上CEOに囚われる
有允ひろみ
恋愛
手痛い失恋をきっかけに勤めていた会社を辞めた佳乃。彼女は、すべてをリセットするために訪れた南国の島で、名も知らぬ相手と熱く濃密な一夜を経験する。しかし、どれほど強く惹かれ合っていても、行きずりの恋に未来などない――。佳乃は翌朝、黙って彼の前から姿を消した。それから五年、新たな会社で社長秘書として働く佳乃の前に、代表取締役CEOとしてあの夜の彼・敦彦が現れて!? 「今度こそ、絶対に逃さない」戸惑い距離を取ろうとする佳乃を色気たっぷりに追い詰め、彼は忘れたはずの恋心を強引に暴き出し……。執着系イケメンと生真面目OLの、過去からはじまる怒涛の溺愛ラブストーリー!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる